第五回

「私の品質管理そしてISOとの関わり」の第5回目です。入社10年くらい経って、私は品質管理の勉強を本格的にするべく、日科技連のベーシックコース(6か月)に参加します。当時は、諏訪精工舎でもデミング賞にチャレンジしようという話があり、若手の品質管理教育に会社は熱心でした。結局、デミング賞へのチャレンジは見送られましたが、この頃勉強したことは今の私の基礎を築いていると思います。当時の会社幹部には感謝したいと思います。

5.1 全員参加の品質管理

 この全員参加の品質管理は、日本が1970~80年代の間に品質管理を企業の中に浸透させていったときに、日本的風土の中で次第に広まっていった概念です。PDCAに基づく管理、方針管理、機能別管理等を企業の中で実践しようとすると、必然的に企業の構成員全員が品質管理活動に参加しないと最終的なアウトプットが出ません。
この全員とは正しく組織の全員であり、具体的にいうと社長、重役、部課長、スタッフ、職組長、作業員、営業マン等々です。品質管理は、全社全員で進めていくべきものであって、品質管理部門とか、品質管理担当者と称するものだけがやるものではありません。これにはトップマネジメント、とくに社長の熱意と推進力、リーダーシップが絶対に必要です。

(1) PDCAサークル
日本では、QCを「品質管理」と訳しましたが、本来は「質管理」であったといわれます。製品を作る製造業以外のサービス業には、販売の質、営業の質、事務の質等のいわゆる仕事の質がいろいろあるからです。しかし、すべての「質管理」に共通のものは「管理」であり、この管理を日本式品質管理では、PDCAであると理解して推進してきました。
19世紀後半には既に欧米にPDS(Plan , Do ,See )という言葉があり、管理はこのP-計画して、D-実施して、S-結果をみる、という手順が論理的かつ適切であるといわれてきました。TQCでは、このSeeをCheckとActionに分けました。すなわち、結果を単にみるだけでなく、チェックをし、対策を取るとしたのです。これは、1950年に来日したアメリカのデミング博士の教えでした。PDCAのサークルを効率よく回すと、前に進んでいきますが、前に進む時間と距離は、このサークルの一回当たりの回転時間と何回このサークルを回したかで決まるとデミングは説明しました。

 

1) Plan
何かの活動を行うには、まず適切な計画が必要です。適切ということは目的と目標が明確になっていることをいいます。しかし、場合によっては最初から最適な計画を期待できません。したがって、ある程度のところで見切りをつけて次の実行に入っていきます。石川は、このPlanを①目的・目標を決める ②目的を達成する方法を決めることの2つに分けて説明しています。

2) Do
計画に沿って実行します。状況によっては、実行するに際して教育、訓練が必要になるかもしれません。また、実施手順の決まっているものがあれば、それに準じて行うことが求められますし、必要に応じて記録もとらなければなりません。石川は、このDoも①教育・訓練する ②仕事を実施することの2つに分けて説明しています。

3) Check
実行した結果をチェックします。計画の時点で、評価項目を決めそれに沿って確認することがよいでしょう。評価項目、すなわち管理項目は事前に明確になっていることがよく、管理項目が適切に決められていると活動を効率的に進めることができます。

4) Action
チェックした結果から対策を考えます。この際留意しなければならないのは、対策はあくまでも計画との差分に対して取ることです。もし、計画を超えて対策をとりたい場合は計画そのものを修正する必要があります。

 

このようにしてPDCAの管理のサークルを回転し続けることによって、計画はさらに適切なものとなり、管理活動が効率よく行われるようになります。なお、管理という言葉について水野滋は、その著書「全社総合品質管理」(1984年、日科技連出版)で次のように言っています。

「管理という言葉はいろいろな意味をもっている。元来、経営学上の用語では、経営の方針に基づいて実行計画を作り、その計画のもとに作業活動を指揮、指導、監督、統御する活動を管理(management)といい、managementには計画(planning)と統制(control)の2活動分野があるという。この意味からいえばquality controlは、「品質統制」というべきであろう。従来品質管理は製造品質の不良の低減を主要な活動分野としていたが、最近では設計品質の不良の低減に重点が移っており、「源流管理」などといって計画段階を重視している。普通日本ではmanagementもcontrolも共に「管理」といっている。しかし狭義の管理(統制)は、PDCAにおけるCAの活動を指すものといえよう。PDCAの管理のサークルは、実は現在の問題点とその原因を明らかにする活動、すなわちCから始めるべきで、この意味からCAPDといった方が適切であろう。」
また、PDCAについては、次のように述べています。

「われわれが何事をなす場合にも、まず目的を明らかにして計画を立て、これによって作業を行い、作業の結果を検討して、計画に合っていないならば作業を変更し、計画が不備であれば計画を変更するような修正処置を行う必要がある。これが計画を達成するための活動で、これの全体が「管理」である。このように管理の活動は計画に始まって再び計画に戻るサイクル(循環)で、これを管理のサークル(あるいは管理のサイクル)ということもある。」

なお、PDCAの管理サイクルは万能ではないようです。久米均はその著書「品質管理を考える」(1999、日本規格協会)で次のように述べています。
「PDCAのループは科学的認識に基づく改善の基礎であり、これが各種の業務に適用されることにより、仕事は確実になり、改善が進む。PDCAは統計的手法と並んで日本式品質管理の基本である。このため、PDCAのループを回して改善が積み重ねれば究極的に理想の品質に到達するはずであると考えている人がいる。しかし、実際はそうではない 。PDCAは改善をどのように行うかの方法を与えるものであり、PDCAは改善すべきテーマとして何を取り上げるべきであるかを積極的に示すものではない。

一般に事業の機会は組織の外にある。組織の中にあるのはコストである。従来方式のままでコストを下げるだけの経営が立ち行かなくなっている状況で、方針管理でコスト・ダウン活動を展開しても経営はうまくいかない。
PDCAのループでうまくいかない第二の理由は、経営資源及び時間的制約である。出発点のレベルが低ければ必要なレベルに到達するには多くの改善が必要であり、そのために経営資源が投下されなければならない。システムが構築されず、改善が積みあがってこない場合は、投下された経営資源による効果も一次的なものになってしまい、結局はレベルアップができないままに多くの年月が経てしまうのである。
すべての活動において改善が可能であるが、改善のためには経営資源、時間が必要である。毎日の仕事に押し流されている状況では改善は行われない。このような場合、多くの改善が必要な未完成なベースからPDCAで出発するよりも、改善があまり必要でないシステムを導入して、そこから出発するほうが経営的にははるかに有利である。」