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第7回
「私とマネジメントシステムそしてISO」の第7回目です。第5回で述べたTQC特徴6項目について話がすすんでいます。
第5回では、TQCの特徴は次の6項目であるとしました。
①全員参加の品質管理
②品質管理の教育・訓練
③QCサークル活動
④QC診断
⑤統計的方法の活用
⑥全国的品質管理推進活動
今回は①の(3)「方針管理」の実践事例について話をさせていただきます。
(3) 方針管理 つづき
諏訪精工舎では1965年当時、腕時計の牙城であるスイスに何とかして追いつきたいと考え次の方針を立てました。
①腕時計精度でスイス勢を追い抜く
②向う5年でトップに並ぶ
③具体的な戦略作りを開発部に委ねる
―ニューシャテルのコンクールに入賞する
④必要な資金、人材は最優先に割り当てる
⑤関係部門長はこの方針に応分の役割と責任を持つ
当時(1963年)の腕時計のニューシャテルのコンクール順位を参考に示すと次の通りオメガとロンジンの独り舞台でした。
順位 | メーカー | 誤差 |
---|---|---|
1 | オメガ | 2.82 |
2 | ロンジン | 3.34 |
3 | オメガ | 3.38 |
4 | 〃 | 3.52 |
5 | 〃 | 3.57 |
6 | ロンジン | 3.67 |
7 | 〃 | 3.70 |
8 | オメガ | 3.74 |
9 | 〃 | 3.74 |
10 | 〃 | 3.93 |
入賞した腕時計の数も以下のようなもので、スイス勢が圧倒的な強さを示していました。
・オメガ 37個
・ロンジン 56個
・ゼニット 18個
・モバ-ド 11個
・ナルダン 4個
しかし、諏訪精工舎の会社方針は開発部隊の意欲を高揚させ、更に毎年の結果を社内に示すことで圧倒的な支持を社員から集め、それから数年の間にSEIKOはこの目標(10位以内入賞)に近づいていきました。
会社のトップが方針を示したこと、そして何より自分としてやりたかったことが当時の開発部長に明確な目標を与えました。開発部長は、課ごとに技術的課題と目標を割り付け(展開)、6か月ごとに活動結果を報告させる(集約)という繰り返しを5年に渡って実施しました。その結果は次のようなものです。
・1964年、144位、誤差7.79
・1965年、114位、誤差5.86(入賞1個)
・1966年、104位 誤差4.64、(9個入賞)
・1967年、12位 誤差2.23(26個入賞)
(注)この年1位はオメガで、誤差は1.73でした。
この1967年で、ニューシャテル天文台に於ける、「国際コンクール」は終結となりました。これ以上コンクールを続けることは、SEIKOの栄誉を讃えるためのコンクールかと、スイスのニューシャテル天文台は批判を国内から貰い遂に歴史あるコンク-ル(1858年に創立、創立当初から時計の検定を行っており、1860年には時計を測定した記録が残っている)の終焉を見るに至ったと噂されました。その真偽の程は不明ですが、あながち有り得ない事とは言えないと思います。それは、つぎの成績を見るにつけその感を強くします。次の成績は、スイスジュネ-ブコンクールの結果です。
・1968年、SEIKO 1位、2位、3位、4位、5位、6位を独占、誤差は1位1.39、2位1.63、3位1.78、・・・・
1位の誤差1.39は1967年1位のオメガの誤差1.73を凌ぐものでした。
日本の多くの企業は、この方針管理を効果的に採用し、組織活動のレベル向上、高い目標に挑戦する環境整備、問題の共有化・相互啓発、計画的な人材育成等に効果を上げたといわれます。飯塚悦功は、その編書「TQM21世紀の総合「質」経営」(1998、日科技連)の中で、TQCの総合的な評価をして、次世代TQMへの橋渡しをする記述の中で、次のように述べています。「方針管理とは、環境への変化への対応、自社のビジョン達成のために、通常の管理体制(日常管理の仕組み)のなかで満足に実施することがむずかしいような全社的な重要課題を、組織を挙げてベクトルを合わせて確実に解決していくための管理の方法論であり、TQCにおける代表的な経営管理の方法論である。
方針管理の成否を左右するポイントを以下に示す。
①重点を絞った合理的かつ明確な全社(全事業部)方針の設定(方針策定)
②各部門・各階層への十分な伝達・理解(方針展開)
③方針達成のための具体的方策の立案(具体的方策)
④実施過程における進捗チェックとフォロー(プロセス管理)
⑤年度末などにおける未達成原因の深い解析(問題解決力)」
以上