第8回

「私とマネジメントシステムそしてISO」の第8回目です。第5回ではTQCの特徴は次の6項目であると話をしました。

 5.1 全員参加の品質管理
 5.2 品質管理の教育・訓練
 5.3 QCサークル活動
 5.4 QC診断
 5.5 統計的方法の活用
 5.6 国家的品質管理推進活動

5.1については、
 (1) PDCAサークル
 (2) 班別研究会
 (3) 方針管理

まで、お話が終わりましたので、今回は(4)「 機能別管理」から始めたいと思います。

 

(4) 機能別管理

 日本の風土には、お互いに助け合うという互助精神がありますが、一旦組織に入ると伝統的に縦の支持命令系統に従う気風が強くなるものです。組織の構成員は、誰が自分の上司であるかに極めて敏感で、組織変更には異常なくらい強い関心を持ちます。それは組織における自分の生死与奪権を上司が持っていると誤解するところからきているようです。
企業の機能、例えば「設計」という機能を高めるためには、設計部という部門を強くすることが重要です。企業全体を強くするためには、このように組織の代表的機能である、「市場調査」「商品企画」「営業」「研究開発」「設計」「購買」「技術」「品質保証」「製造/サービス提供」「販売」「市場サービス」「人事」「総務」「財務」といった機能を個別に強くすればよいと思われてきました。

 このような管理を「部門別管理」と呼んでいますが、この管理方式の弱さは、それぞれの部門最適がかならずしも企業の全体最適にならないことです。企業の全体最適は、「顧客志向」に貢献するかどうかで判断されるべきです。各部門が各々の分野で最適化を行っても、組織全体では必ずしも最適化されないのです。「部門別管理」を縦の糸とすれば、製品を顧客に届けるルート、すなわち組織を貫く横の糸を工夫しなければなりません。この横の糸のことを「機能別管理」といいます(中島みゆきの「糸」みたい)。ISO9001ではプロセスアプローチといっています。この機能別管理の考え方は1970年代にTQCにありましたので、ISO9001:2015より遥か昔、45年も前に顧客のニーズからスタートして最後には完成した製品を顧客に届ける一連のプロセスの考えが日本にはありました。

 企業組織全体の機能とは、例えば、製品品質、製品コスト、製品納期、PL製品保証、クレーム減少、標準化等です。もっと拡大すれば、安全衛生、環境保全、人事・労務、教育・訓練、社会責任等も含まれるでしょう。もちろん、日本式TQCで扱った「機能別管理」は、あくまでも製品品質という枠内のものでありました。そして、製品品質の向上、達成はどこの部門の責任なのかと自問したとき、答えは企業組織のすべての部門ということになったのです。会社によっては、総務、経理等のアドミストレーション部門は除く、というところもあるかもしれませんが、かような管理部門も部分的に製品品質に関係しているということを忘れてはならないでしょう。

次の課題になるのは、それぞれの部門は製品品質のどの要素に関係しているのかということです。朝香鐡一・石川馨編「品質保証ガイドブック」(前出)の中で、久米均は機能別管理について、次のように述べています。

「機能別管理は組織を横断して行うものであり、実施上いくつかの工夫が必要である。

・横断的管理特性の各部門管理特性への分解
・これに基づく各部門活動の適切さの評価

が必要で各部門に分解された管理特性について必要な管理活動の欠落、重複がチェックされなければならない。機能別管理は委員会によって行われるが、上記の調査分析を行うための事務局が必要である(例えば、品質管理は品質管理部、原価管理は経理部、量管理は生産管理部など)。機能別管理委員会は、

①事務局に必要な調査分析を命ずる。
②事務局が行った調査,分析の結果について改善案を策定し,各部門で実施すべき事項を定める。
③策定された改善案を社長に上申する。

ここで定められた実施項目は社長の指示のもとに各部門の方針管理、日常管理項目に組み入れられる。機能別委員会を構成する委員は役員、部長であるが、各委員は部門の利益代表でなく、全社的見地に立って判断し改善案を立案することが重要である。」

この記述の中で、強調されなければならないことは、「・横断的管理特性の各部門管理特性への分解」という部分です。横の糸を管理しても、個別の改善活動に必要となるのは、結局は部門長をリーダーとする縦の糸の力です。ということは、すべての部門長は自身の部門の機能別管理特性(久米は横断的管理特性といっている)を的確に特定しなければなりません。しかも、このような機能別管理特性は複数あるのが普通ですので、各部門への管理特性の分解が重要であることは、論を待ちません。総論賛成、各論反対ということになってしまってはいけないということです。

なお、TQCでは機能別管理に対するものとして、部門別管理という言葉を使っていましたので、若干、部門別管理について説明をします。すべての活動を実施するのは最終的には各部門であり、部門長は総合的にいろいろな管理項目をバランスよく管理していかなければなりません。すべての管理項目は、企業組織の全体最適の観点から優先度が決められ、部門別管理によって日常の管理がされていくべきです。

①日常管理項目
・業務の管理項目:自己が行うべき業務を効率的に行うための項目
・工程(プロセス)の管理項目:自己の関与するプロセスの“どこで、なにを、どのように”を決めた項目

②方針管理項目
・上位部門方針に基づいて展開された項目:例えば、新規業務に対する項目
・その部門の方針として定めた項目:例えば、その部門の計画業務(プロジェクト)に対する項目

③機能別管理項目
・機能(システム)管理項目:例えば、クレーム減少、標準化等、部門間にわたる品質管理システムが効果的に実施されるための項目

さらに水野滋は、その著書「全社総合品質管理」(前出)の中で、工程(プロセス)の管理項目と機能(システム)の管理項目を使い分けています。これはISO9000:2015規格の「7つのマネジメントの原則」の中にある、プロセスアプローチの概念です。

「部門間の約束事を決めるのが“しくみ”、すなわちシステムである。ユーザーの要求を正しく迅速に設計部門に伝達することは営業部門に重要な業務であるが、とかく営業部門はこのような業務の必要性を認識していないことが多く、設計部長が営業部長にユーザーの要求の伝達を要請しても、顧客への訪問が多忙などの理由でその要請を拒絶されたならば、同じ部長であるので設計部長は営業部長に命令する権限はない。
営業部門の業務分掌に、ユーザーの要求品質の収集・伝達という営業としての重要な品質保証業務を明確に記載しておくことと、営業部門から設計部門への伝達方法を定めておかなければならない。このような部門間の連携と協力についての約束事を決めたものが体系(システム)である。」

以上