044-246-0910
株式会社テクノファ
取締役会長 平林良人
ISO/PC 283 日本代表
2.3 2種類リスク、2種類の機会
2.3.1 2つのリスク及び機会とは
ISO 45001では、“「リスク及び機会」に取り組むにあたっては,組織は,労働安全衛生リスク及びその他のリスク,労働安全衛生機会及びその他の機会を考慮に入れなければならない”と要求されており、2つのリスク、2つの機会を規定している。
PC283/WG1総会では、「リスク及び機会」が一つの焦点になり各国のコメントが集中したが、日本からも積極的にコメントした。日本の提案の骨子は、規格ユーザに分かりやすいものにすべきであり、それは「OH&Sリスク及び機会」1つに絞るべきであるというものであった。しかし、長い議論の結果、附属書SLにある次の「リスク」の定義に従うということになった。
リスク(risk)の定義
- 「不確かさの影響」
- 注記1 影響とは,期待されていることから,好ましい方向又は好ましくない方向にかい(乖)離することをいう。
- 注記2 不確かさとは,事象,その結果又はその起こりやすさに関する,情報,理解又は知識に,たとえ部分的にでも不備がある状態をいう。
- 注記3 リスクは,起こり得る“事象”(JIS Q 0073:2010の3.5.1.3の定義を参照)及び“結果”(JIS Q 0073:2010の3.6.1.3の定義を参照),又はこれらの組合せについて述 べることによって,その特徴を示すことが多い。
- 注記4 リスクは,ある事象(その周辺状況の変化を含む。)の結果とその発生の“起こりやすさ”(JIS Q 0073:2010の3.6.1.1の定義を参照)との組合せとして表現されることが多い。
「リスク」はこのように定義されているが、「機会」はオックスフォード辞書によるとされており、「チャンスとか良い時期」などと理解するとよい。
ISO 45001は、「OH&Sリスクと機会」と「OH&Sマネジメントシステムに対するその他のリスクと機会」を明確にするため、注記5を追加した。
- 注記 5: この規格では、“リスクと機会”という用語が使用される場合は、これは労働安全衛生リスク、労働安全衛生機会、及びマネジメントシステムに対するその他のリスクとその他の機会を意味する。
2.3.2 OH&Sマネジメントシステムに対するその他のリスクとその他の機会
「OH&Sマネジメントシステムに対するその他のリスクとその他の機会」とは、ISO 45001の冒頭で特定した「組織の状況に関する課題」や「利害関係者のニーズ及び期待からの要求事項」、及び「組織のOH&Sの適用範囲」を検討して、経営層からみた戦略的なレベルでの「リスクと機会」を意図している。
この「リスクと機会」はOH&Sのリスクと機会とは異なり、経営層からみたOH&Sマネジメントシステムのリスクと機会を意図しており、例えば次のようなものがある。
【マネジメントシステムに対するその他のリスクの例】
- ・労働安全衛生の不十分な状況分析
- ・事業プロセスにおける不十分な労働安全衛生に関わる考慮
- ・労働安全衛生への財源、人的資源の欠如
- ・主要な役職における労働安全衛生の低レベルである引継ぎ
- ・低いトップマネジメントの労働安全衛生への関心
- ・評判を落とす低レベルであるOH&Sパフォーマンス
【マネジメントシステムに対するその他の機会の例】
- ・トップマネジメントによるOH&Sマネジメントシステムへの支援
- ・不安全事象調査プロセスの改善
- ・働く人の協議と参加の改善
- ・OH&Sパフォーマンスの年度時系列分析
- ・安全衛生全国大会への参加
「リスク」と「機会」は2つ一緒にして1つのフレーズのように使っている。この2つの用語は対立概念ではないにも関わらず、「リスク及び機会」とセット表現しているのは、マイナスの影響と、プラスの影響を対で思考してもらうためである。俗に言う、「ピンチ(リスク)のなかにチャンス(機会)あり」であり、また「奢れるもの(機会)久しからず(リスク)」に通じた概念である。リスクが決定されれば機会の多くはそれへの対応を考える中に見出すことができる。
2.4 プロセスを確立する
ISO 45001には、「労働安全衛生目標を達成するためのプロセス及びその他の一連の要素を確立し、実施し、維持し、かつ継続的に改善しなければならない」との要求があり、プロセスという概念を導入している。プロセスとは、一連の活動を意味し、ISO 45001では規格が要求していることは「組織の日常の活動」に入れ込まなければならないことを要求している。上の文における“プロセス及びその他の一連の要素を確立し、・・・”における、「確立」とは「計画すること」あるいは「設計すること」を意味している。
因みに、ISO 45001では以下の14か所でプロセスの確立を要求している。
- ・働く人の協議及び参加「協議及び参加のためのプロセス」
- ・危険源の特定「継続的に先取りして特定するためのプロセス」
- ・労働安全衛生リスク及び労働安全衛生マネジメントシステムに対するその他のリスクの評価「次の事項のためのプロセス」
- ・労働安全衛生機会及びその他の機会の評価「評価するためのプロセス」
- ・法的要求事項及びその他の要求事項の決定「次の事項のためのプロセス」
- ・一般「内部及び外部のコミュニケーションに必要なプロセス」
- ・コミュニケーションの方法「コミュニケーションのプロセス」
- ・労働安全衛生マネジメントシステムの要求事項を満たすため「必要なプロセス」
- ・危険源の除去及び労働安全衛生リスクの低減「低減するためのプロセス」
- ・変更の管理「変更の実施及び管理のためのプロセス」
- ・調達「調達を管理するプロセス」
- ・緊急事態への準備及び対応「準備及び対応のために必要なプロセス」
- ・一般「モニタリング,測定,分析及びパフォーマンス評価,のためのプロセス」
- ・順守評価「順守を評価するためのプロセス」
- ・インシデント,不適合及び是正処置「インシデント及び不適合を決定し管理するためのプロセス」