株式会社テクノファ
取締役会長 平林良人
ISO/PC 283 日本代表

2.5 働く人の協議及び参加

 附属書SL(共通テキスト)には無い箇条として、ISO 45001はILSで述べられている「働く人の協議及び参加」の箇条を新たに設けた。「働く人の協議及び参加」の内容は、概略次のとおりである。

 ここでいう協議及び参加とは、ともに「意思決定を協議する、意思決定に参加する」ことを意味している。単に会議のメンバーとして招聘されただけでは十分でなく、議論に参加し、結論への意思決定にも考えを持って参加していることが期待されているところである。


  • a) 協議及び参加に必要な時間,教育訓練を提供する。
  • b) 労働安全衛生マネジメントシステム関連情報を適宜利用できるようにする。
  • c) 参加の障害又は障壁を取り除く。
  • d) 次の事項の協議をする。
    • 1) 利害関係者のニーズ及び期待
    • 2) 労働安全衛生方針
    • 3) 組織上の役割,責任及び権限
    • 4) 法的要求事項及びその他の要求事項
    • 5) 労働安全衛生目標
    • 6) 外部委託,調達及び請負者
    • 7) モニタリング,測定及び評価対象
    • 8) 監査プログラムを計画,確立,実施,維持
    • 9) 継続的改善
  • e) 次の事項の参加を強化する。
    • 1) 協議及び参加のための仕組み
    • 2) 危険源の特定並びにリスク及び機会の評価
    • 3) 危険源を除去し労働安全衛生リスクを低減するための処置
    • 4) 教育訓練の評価
    • 5) コミュニケーションの方法
    • 6) システム管理方法及びそれらの効果的な実施
    • 7) インシデント及び不適合調査,是正処置決定
2.6 働く人

 この箇条まで、「働く人」と言う言葉をなんらの注釈なく用いてきたが、ISO 45001の中にはworkerという用語が随所に出てくる。通常workerは「労働者」と訳すのが常であるが、ISO 45001のworkerの定義は以下のようになっている。


worker

  • 組織の管理下で労働又は労働に関わる活動を行う者。
  • 注記 1: 労働又は労働に関わる活動は,正規又は一時的,断続的又は季節的,臨時又はパートタイム等,有給又は無給で,様々な取り決めのもとに行われる。
  • 注記 2: workerにはトップマネジメント(3.12),管理職及び非管理職が含まれる。
  • 注記 3: 組織の管理下で行われる労働又は労働に関わる活動は,組織が雇用するworkerが行っている場合や,外部提供者のworker,請負者,個人等のworker,及び派遣worker,及び組織の状況によって,組織が労働又は労働に関わる活動の管理を共有する範囲のその他の者が行っている場合がある。


注記2には、「workerにはトップマネジメント,管理職及び非管理職が含まれる。」

とあり、組織に属する全員がworkerであると定義している。日本からは、日本の労働安全衛生法のworkerの定義にはトップマネジメント、管理職は入っておらず、この定義の注記2には反対を主張したが、workerにはトップマネジメントも含まれる、又は含めるべきであるという意見が圧倒的に多く採用されなかった。

 その背景は、組織で働く人は総て労働安全衛生の傘の下に入るべきであり、トップマネジメント・管理職は業務上はworkerとは区別できるが、安全というシステムの下では区別すべきではないという考えである。workerを「労働者」と訳すと日本の法律と矛盾するので、JISでは「働く人」と訳される予定である。

3.厚生労働省告示との違い

 厚生労働省は、平成11年4月30日に労働安全衛生マネジメントシステムに関する指針(平成11年厚生労働省告示第53号 改正平成18年厚生労働省告示第113号)を公表した。この厚生労働省告示は、イギリス規格BS 8800(労働安全マネジメントシステム規格)などを参考にして作成された。そのような背景から、厚生労働省告示は、BS 8800のバージョンアップ版ともいえるOHSAS 18001規格と整合性のあるものになっているが、幾つか日本に独自の項目が規定されている。

 ISO 45001の規格開発過程において、日本の代表団は国際会議の中で、日本の特長となっている5S、ヒアリハット、危険予知訓練(KYT)などの採用を提案したが、開発途上国などには受け入れられなかった。

 以下にISO 45001に無く、厚生労働省「労働安全衛生マネジメントシステムに関する指針」には求められている項目の概要を示す。

(1) システム各級管理者

  • 組織は労働安全衛生マネジメントシステムの責任及び権限の割り当てにおいて、システム各級管理者を指名する。
  • システム各級管理者とは、事業場における部門の労働安全衛生マネジメントシステムを担当する者をいう。組織によって異なるが、部長、課長、係長、職長、作業指揮者等の管理者又監督者などが指名される。

(2) 安全委員会、衛生委員会又は安全衛生委員会

  • 組織は、働く人との協議について、安全委員会、衛生委員会又は安全衛生委員会を活用する。これらの委員会が設置されていない場合は、安全衛生の委員会、働く人の常会、職場懇談会等で働く人の意見を聴く。

(3) 危険源の特定、労働安全衛生リスクの評価

  • 危険源の特定、労働安全衛生リスク評価の実施に際しては次のことを求めている。
    • 作業内容を詳しく把握している者(職長、班長、組長、係長,作業指揮者等の作業中の労働者を直接的に指導又は監督する者)に検討を行わさせる。
    • 機械設備及び電気設備の危険源の特定、労働安全衛生リスクの評価には、設備に十分な専門的な知識を有する者が参画する。
    • 化学物質等の危険源の特定、労働安全衛生リスクの評価には、化学物質等に係る機械設備、化学設備、生産技術等についての十分な専門的知識を有する者が参画する。
    • 必要に応じて外部コンサルタント等の助力を得る。

(4) 労働安全衛生目標

  • 安全衛生目標の設定に当たっては、過去の安全衛生目標の達成状況などを考慮することを推奨している。
  • 例えば、
    • 過去の労働安全衛生目標を達成するための計画の実施状況
    • 過去のモニタリング、測定、分析及びパフォーマンス評価の結果
    • 過去のインシデントの調査、不適合のレビューの結果、インシデント及び不適合に対して取った措置
    • 過去の内部監査の結果

(5) 健康確保の取組み

  • 例えば、次のようなことを推奨している。
    • 健康診断
    • ストレスチェック
    • メンタルヘルス対策
    • 過重労働対策
    • 感染症対策
    • 健康保持増進の取組み(職場体操、ストレッチ、ウォーキング等)

以上