平林良人「ISO 9001 有効活用のためのビジネス改善ツール」(2005年)アーカイブ 第3回

よく知られている事業モデル

この節では2つの事業改善モデルを論じます。ボルドリッジモデルと、EFQM優良モデルの2つです。ボルドリッジモデルは、アメリカ賞の基礎を形成し、中東のようなアメリカの影響を強く受けた、多くの地域の中で使用されています。アメリカには多くの州に、ローカルな州賞があります。

ヨーロッパの全域で使用されている、欧州品質マネジメント財団(EFQM)の優良組織モデルは、ボルドリッジモデルと類似しており、欧州諸国の国内品質賞と同様に、年に一度の全ヨーロッパ品質賞の基礎として使われています。欧州諸国の限られた地域の中には、そこの優良組織のための地域賞があります。

この両方に含まれない、世界的なもう一つの事業改善モデルがあります。よく知られた日本のデミング賞です。デミング賞は、世界で最初に開発された事業改善モデルで、他のものはすべてこのモデルにそれらのルーツを持っています。デミング賞の評価基準は、非公開で日本語原文は翻訳されてきませんでしたので、他のモデルとの比較は困難です。デミング賞は数年かけて若干の改正を行い、EFQM優良モデルとボルドリッジモデルのいくつかの概念、例えば持続性に焦点を当てることを採用しました。

マルコム・ボルドリッジ賞

背景

マルコム・ボルドリッジ品質賞は、1987年にアメリカの法律によって生まれ、事業組織の優良化を目指した政府と民間部門の間の、新しいパートナーシップ形成となりました。モデルは、アメリカの競争力を強化する、次の3つの重要な役割を持っています。

  1. 組織的なパフォーマンス、能力、結果を改善することの支援
  2. あらゆる種類のアメリカの組織に、最良の慣行の情報を共有化すること、及びコミュニケーションの促進
  3. パフォーマンスを理解し管理するための、及び計画及び学習の機会をガイドするための、作業ツールの提供

ボルドリッジのガイドラインは、元々は民間組織に向けてのものでしたが、健康と教育を取り扱う公共組織、そしてボランタリー組織にもその対象が広げられました。アメリカにおけるモデルの人気は極めて高く、毎年25万以上の組織がガイドラインのコピーを要求し、約30~50組織がマルコム・ボルドリッジ賞に応募してきます。

研究者は、ボルドリッジ賞が成功裏に確立されたことを受けて、組織がモデルへ応募することで、どのような利益を受けるのかを調査しています。最近のHendricksとSinghal(1999年)の研究では、事業優良組織は「見事な結果」で、競争力向上の源にしていると結論を下しています。しかしながら、ボルドリッジ賞は組織戦略に置き換わるものではないこと、成功を約束するものではないこと、も指摘しています。

核となる価値と概念

モデルは、相互関係のある一連の中核的な価値と概念の組み合わせで、構築されています。

  • 展望のあるリーダーシップ
  • 顧客駆動による優良性
  • 組織と個人の学習
  • 従業員と協力者の価値
  • 機敏性
  • 将来志向
  • 革新の経営管理
  • 事実に基づく経営
  • 社会的責任
  • 結果志向と価値創造
  • システム的展望

以上の価値と概念は、高いパフォーマンスを示す組織に埋め込まれている信念と行動です。これらの価値と概念は、結果志向の枠組み(活動と結果の基礎を作る)に主な事業要求事項を統合するための土台です。

構造

2003年のボルドリッジ賞基準の枠組みは、次の7つのカテゴリーから成っています。

  1. リーダーシップ
  2. 戦略計画
  3. 顧客重視と市場重視
  4. 測定、分析とナレッジマネジメント(knowledge management)
  5. 人的資源重視
  6. プロセスマネジメント
  7. 事業成果

適用

7つのカテゴリーの各々は18項目へと分類されます。ボルドリッジ賞基準の枠組みを適用しようとする組織は、最初に対象となる活動を特定し、次に要求事項に対して活動の実態を調査します。この調査は「自己評価法」と呼ばれています。

  • 各項目に対する強みと改善領域を上げる。上げる領域が多ければ多いほどこの分析はよくできる。
  • 最大100点のスコアは2分類からなる。アプローチ展開と結果の2つである。
  • カテゴリー 1~6 はアプローチ展開に対して点数付けされ、カテゴリー 7(事業成果)は結果に対して点数付けされる。
  • 総合的なスコアは7カテゴリー各々に対して計算され、そして1,000点からなるスコアを計算するために重みがかけられる。カテゴリー 1~6 は55パーセントの重みをもつ。

品質旅行の出発点に立つ組織は、250点未満が普通ですが、「世界クラス」の組織は、800点以上を得るでしょう。

自己評価法を行うには多くの方法があります。単純な調査としては、独立チームが作成した評価報告書への照合を行う方法があります。あらゆるアプローチには良い点と悪い点がありますが、報告書作成と評価チーム(ボルドリッジ賞適用の中で用いられるアプローチ)の活用は、最も正確な結果と品質フィードバックを与えることから、勧められるものです。

ボルドリッジモデルの主要な強さ

  • 顧客重視/市場重視及び戦略重視の強化
  • 人重視とプロセス重視
  • 統合システムアプローチ
  • パフォーマンス改善のための、事実に基づいたシステム
  • 結果重視