平林良人「ISO 9001 有効活用のためのビジネス改善ツール」(2005年)アーカイブ 第34回

(2)方針管理

企業は一つの集団であり、進む方向が明確になっていなければならない。この進む方向は経営者が決めなければならない。経営者の責任は重大である。社員の運命を背負って集団の進むべき品質管理の方向を、数ある道の中から選んでいかなければならないからである。
とうぜん、経営者の示す方針は企業の成長とともに変化する。起業したばかりの企業と、例えば50年の社歴を持つ企業とではおのずから進むべき道は異なる。起業して間もない企業であれば、進むべき道は新製品開発、市場開発、製品品質改善等に関するものであろう。社歴が増加するに比例して、顧客満足、人材開発、教育訓練、IT戦略、取引先等に関するものに進むべき道は幾本にも広がっていく。このように、進むべき道、すなわち方針には幾つものタイプ、種類がある。

水野滋は、その著書「全社総合品質管理」(1984、日科技連)において、方針管理について次のように述べている。

「方針には、

  • ① 方針一活動の方向,姿勢を示すもの。
  • ② 目標達成すべきゴールを示すもの。
  • ③ 方策一目標を達成するための方法を示すもの(これが展開され具体的な「実施計画」となる)がある。

方針管理における経営者の役割は以上述べたところで明らかと考えられるが、次のごときものである。

  • ① 会杜の現状および将来の問題点を明らかにして、これを解決するための長期経営計画、年度方針などを設定し、これを明示すること。
  • ② 方針の伝達、展開の状況を調査し、必要な指示をすること。
  • ③ 方針の達成状況、妥当性たどにつき、診断を行い、その結果を次期方針の設定にフィードバックすること。
  • ④ 上述の方針の満たすべき条件が満たされているかどうかを確認し、不備な点について必要な指示をすること。

方針は次の条件を満たしていることが必要である。

  • ① 経営の目的と現状との分析から作られたものであること。
  • ② 品質優先の姿勢と企業の体質改善の方向を示したものであること。
  • ③ 明確に簡潔にわかりやすい言葉で述べられていること。
  • ④ 具体的に目的を示したものであること(目標値が明確であること)。
  • ⑤ 重要問題を示したものであること。
  • ⑥ 目的を達成するための方策が明らかにされていること。
  • ⑦ 強制,妥協でなく職位の上下間の約束事であること。
  • ⑧ 下の職位にいくにしたがって具体的なプログラムになっていること。
  • ⑨ 期限,目標,範囲など実行の条件が明らかになっていること。
  • ⑩ 伝達の方法,チェックの方法が明らかになっていること。

方針達成のためのプログラムは、計画、作業、チェック、改訂など、管理のサークル(PDCA)の形となっていて、いつ、だれが、どのようにして、というように実現可能な形に作らなければならない。」

適切な方針が作られたとして、次に組織が実施しなければならないことは、実施状況のチェックである。4半期ごとに部門毎の達成度を確認し、目標との差異分析と今後の方向付けをしなければならない。その時に重要なことが、実施状況のチェックにおいて何を対象にするかである。方針管理では、このチェックポイントのことを管理項目というが、これを何にするかは十分に考える必要がある。

評価のない管理は薫りのしないコーヒーみたいなものだ、といわれるが、方針管理においてまず重要なことは方針そのものが最適であること、次に重要なことが評価の対象である。評価にどのような「ものさし」を選ぶかが、ここでいう管理項目を何にするのかということである。しかし、この管理項目を何にするのかが実は難しいのである。例えば、製造であると、不良率、クレーム件数、出荷検査合格率、工程不良率、設備故障率、稼働率、製造原価率、生産性向上率、直行率、不良損失額、操業率、収率等になるであろう。これが、設計になると、設計ミス件数、設計変更率、創意工夫率、特許件数、設計レビュー回数、新製品件数、技術資料登録件数、納期確保率、試作件数等になるであろう。
日本の多くの企業は、この方針管理を採用し、組織活動のレベル向上、高い目標に挑戦する環境整備、問題の共有化・相互啓発、計画的な人材育成等に効果を上げたといわれる。

さらに、飯塚悦功は、その編書「TQM21世紀の総合「質」経営」(1998、日科技連)の中で、TQCの総合的な評価をして次世代TQMへの橋渡しをする記述の中で、次のように述べている。
「方針管理とは、環境への変化への対応、自社のビジョン達成のために、通常の管理体制(日常管理の仕組み)のなかで満足に実施することがむずかしいような全社的な重要課題を、組織を挙げてベクトルを合わせて確実に解決していくための管理の方法論であり、TQCにおける代表的な経営管理の方法論である。
方針管理の成否を左右するポイントを以下に示す。

  • ① 重点を絞った合理的かつ明確な全社(全事業部)方針の設定(方針策定)
  • ② 各部門・各階層への十分な伝達・理解(方針展開)
  • ③ 方針達成のための具体的方策の立案(具体的方策)
  • ④ 実施過程における進捗チェックとフォロー(プロセス管理)
  • ⑤ 年度末などにおける未達成原因の深い解析(問題解決力)」