平林良人「ISO 9001 有効活用のためのビジネス改善ツール」(2005年)アーカイブ 第37回

2.3.2 品質管理の教育・訓練

日本式TQCの特徴の一つに教育・訓練がある。全員による品質管理に実践に不可欠なものが、この教育・訓練である。PDCA、顧客志向等の概念を企業の中に広めようとすると、必然的に企業の構成員全員に品質管理に関する教育・訓練をしなければならない。日本はその国民性からして教育に関して熱心であり、そもそも全員が一定の教育レベルに達していることから、各階層に品質管理教育を実施していくことは、比較的スムーズに行われていった。欧米のようにラインとスタッフの区別が厳然とあり、職業的組合(ギルド)が影響力を行使している風潮下とは対照的に、多くの組織で全員に向けて徹底した教育が実践されていった。

当時の様子を石川馨著「TQCとは何か、日本的品質管理」(前出)から引用する。
「 私は昔から次のように言っている。“QCは教育に始まって、教育で終わる。”“全員参加でQCを進めるには、社長から作業者まで、全員にQC教育を行わなければならない。”“QCは、経営の一つの思想革命であるから、全従業員の頭の切り換えを行わなければならない。そのためには何回も何回も、繰り返し教育しなければならない。”

日本くらいQC教育を熱心にやっている国は世界にない。1967年ごろ、日本のQCを研究にきたスウェーデンのQC屋がこういって驚いていた。“日本へ来て一番びっくりしたのは、企業が従業員のQC教育を熱心にやっていることである。日本は終身雇用制だから、教育すればするだけ、本人は成長するし、企業もよくなる。スウェーデンは転職率が高く、せっかく教育してもすぐ転職してしまうから、とても日本のように教育するわけにはいかない。”こういっていたのが印象的であった。

① 各階層別のQC教育

  • 日本では、たとえば日科技連において、社長・重役、経営幹部、部課長、技術者、現場長、QCサークル推進者、リーダー・メンバー、作業者また営業部門、購買部門のためのなど、きめ細かいQC教育プログラムが実施されている。欧米においては、技術者の教育はあるが、それ以外、特に末端作業者まで含めての教育はほとんど行われていない。

② 長期間のQC教育

  • 欧米では5日間から10日間くらいの教育が普通であるが、これでは不十分である。日科技連の品質管理基礎コース(通称ベーシックコース)は、日本のQC教育のモデルになっているものでだが、このコースは毎月5日間*6ヶ月の長期コースである。1週間勉強したことを一度、工場へ持ち帰り、3週間かけて、工場の実際のデータを用いて実践する。その結果を持って翌月のコースに参加する。すなわち、学習と実習のくり返し教育で、そのため受講生2~3名に1人の指導講師がつき個別指導も行うことになっている。この指導の進め方は、受講生自身の勉強のためにも、講師自身のためにもなっている。いろいろな業種の例に居ながらして触れることができるわけで、講師の訓練にもなっているのである。こういう教育を30年以上続けてきたことが、日本のQCの底辺の拡大と、基盤の強化に役立っているのである。

③ 企業内における教育・訓練

  • 上に述べたことは専門団体による教育・訓練であるが、これでは不十分であることから、企業内教育・訓練も盛んである。多くの企業では、それぞれ企業独自のテキストまで作成し、全従業員の教育・訓練にとりくんでいる。

④ 教育は永久に続けなければならない

  • 日本では1949年以来、連続的に、しかも教育コースを増加しながら、継続して行ってきた。人間は年に1つずつ年をとっていくし、若い人も毎年入ってくる。それぞれに応じた教育を続けていかなければならないのである。

⑤ 集合教育は教育の中の3分の1以下

  • 集合教育は全体の一部でしかない。これ以外に、上司が実務を通して、仕事を通して部下を教育する(これは上司の責任である)。その上で部下に権限を委譲し、大きな方針だけ示し、自主的に仕事を行わせる。これによって人は育つのである。

以上述べたように、日本ではいつも教育・訓練(education & training)といっているが、欧米では訓練(industrial training)とだけいっていて、教育という言葉をつけない。これはどちらかというと訓練して腕を磨いてうまく使ってやろうという気持ちが強いように思われる。私は教育も行って、頭を磨き、考え方をかえなければならないと思っているのだが。」

最初の「QCは教育に始まって、教育で終わる」という格言は、その後多くの場面、著書に引用され、教育・訓練を通じてTQCを推進しようとする基盤になっていった。デミング賞実施賞の審査においても、「教育・普及」について重視し、次のチェックポイントにより審査が行われてきている。

  • ① 教育計画と実績
  • ② 品質意識、管理意識、品質管理に対する理解度
  • ③ 統計的考え方および手法の教育と浸透状態
  • ④ 効果の把握
  • ⑤ 関連会社の教育
  • ⑥ QCサークル活動(3.3参照)
  • ⑦ 改善提案の制度と実態