平林良人「ISO 9001 有効活用のためのビジネス改善ツール」(2005年)アーカイブ 第49回

3.6 自己評価法

アメリカのPersonnel誌1954年9月号には、組織の監督者の自己評価の事例が、①コミュニケーション(当時の訳は個人的疎通面)過程 ②経営機能への参加 ③給与 ④経営者との同一視 に分類されて掲載されている(1957年、大阪府立産業能率研究所)。
また、1966年に日本訳されているManagement Development Course(JM.Black他共著、桑名一央訳、実務教育出版)には、経営者に対する自己評価質問が120事例にわたって掲載されている。
以上のような例から、本書の著者がいう「自己評価法の生い立ちは、品質賞の最も初期のものであるデミング賞にまで遡ることができます。」(本書、第2部、自己評価法)というのは、多分エクセレントモデルにつきものの自己診断を指してのことだろうが、自己評価法は必ずしもデミング賞の専売特許ではなさそうである。
 
なお、アメリカのWP.Leonard著「経営の自己評価」(1962年、ダイヤモンド社、青木茂男他訳、原書名 The management audit)には、自己評価の手段として、「経営監査(内部監査)」を扱っているが、次のようなくだりがある。(Ⅲ.経営管理手法と業績の評価)

  • 「監査は、あらゆる階層の管理者の能力を調べるものである。それは、表面にあらわれない危険個所を明るみに引き出し、あるいは逆に、かくれた好機を明らかにし、原価を引き下げ、浪費と不必要な損害を除去し、業績を検討して統制の有効性を評定し、会社の方針や手続きが守られているかどうかをたしかめ、良い記録方法と情報の報告方法を経営者に知らせ、会社の全般的な計画や目標を検討し、新しいアイディア・新しい展開・新式の設備を調査し、事業が有利に経営されているかどうかを明らかにする。
  • その仕事の性質は、経営者に対して専門的なサービスを行うものであり、他のタイプのサービスとは性格を異にしている。監査担当者は、あらゆる経営機能を調査することにより、組織体についてくわしい知識をもつようになり、幾つかの部門の要求、技術、方法などを独自の観点からくわしく知っている組織内でも数少ない人の一人となる。こうして、彼は、自分が調査した領域に影響を与える管理の手順の設定や変更については、重要な情報源となる。監査担当者は、その経験を通じて経営監査をますます効果的に実施することができるという点で、企業にとってますます有益となっている。」

そして、自己評価としてチェックすべきポイント(監査ポイント)として、次の要素を上げている。

  • ① 計画と目標
  • ② 組織構造
  • ③ 方法、制度、手続き
  • ④ 統制方法
  • ⑤ 人的物的資源
  • ⑥ 業績の標準
  • ⑦ 結果の測定

加えて、次のような具合的な例を上げている。

  • ① 専門化、単純化、標準化、多様化、拡張、構築、統合などの要素
  • ② 原材料・部品の入手、労働力の供給、工場の配置、作業標準などの要素
  • ③ 予測方法、製品計画、業績測定、技術的プロジェクトに関する原価計算、価格見積り、伝達、資料処理の方法と装置、販売経路、経営効果などの要素

なお、自己評価は複合的に行われるべきであるとして、次のような例を上げている。

  • ① 販売部門で販売事務処理上の手続きを調査し、かつ経理部門で売掛承認手続きとその限度を調査、評価する。
  • ② 工場から倉庫へ製品を発送する方法を評価し、かつ棚卸品の状態を調査、評価する。

3.7 シックスシグマ

シグマとは統計学でいう「標準偏差」であり、シックスシグマ外の確率は10億回に2回である。シックスシグマの不良率とは、5億個に1個という極めて0に近い不良数を意味する。しかし、モトローラが1980年代後半に開発し、総合的な経営改善手法として全米に広まっていったシックスシグマは、製造プロセスにおける5億個に1個レベルの品質管理を意味するものではない。
シックスシグマは、アメリカ流のTQMであるといってよい。TQMといっても、組織の収益改善プロジェクトに焦点を当てているから、日本のTQMよりその範囲は狭い。その特徴は、大きくいって2つある。一つは収益改善プロジェクトの推進者を通常の業務から切り離して選任体制にしている点である。2つ目は、プロジェクトの目標をすべて収益改善金額で表す点である。