箇条9のリソースマネジメントではその資源に焦点を当てたガイドを提供しています。

    組織の資源には次のものがあるとしています。

  • ① 財務資源
  • ② 人々
  • ③ 組織の知識
  • ④ 技術
  • ⑤ 機器,施設,エネルギー及び付帯設備などのインフラストラクチャ
  • ⑥ 組織のプロセスにおける環境
  • ⑦ 製品及びサービスの提供に必要な材料
  • ⑧ 情報
  • ⑨ 子会社,パートナーシップ及び協力関係など外部から提供された資源
  • ⑩ 天然資源

 組織が運用管理すべき資源について個別にその要点を述べています。まず①財務資源ですが、これには組織設立時の資本金、その後の運営資金などがありますが、9004には格別のガイドはありません。箇条9.2には、②の人々についてガイドがされています。
組織にいる人々は、力量があり自分から積極的に仕事をする人であることが望ましいのですが、現実をそのような状況にするためのいくつかの作戦を推奨しています。箇条9.2.2人々の積極的な参画は、人々を動機づけし積極的に参加するようになることへの人的資源管理のガイドです。組織全ての階層にて計画的で,透明で,倫理的な社会的責任を果たす行動を前提とした人的管理の実行が望ましいとしています。

 人々は自分からやる気になった時に本当の力を発揮煤ことができます。

  • ① 人々の仕事の目的、目標を明確にする。
  • ② 必要な知識を共有する。
  • ③ 力量を活用する。
  • ④ 能力開発を促す技能認定、キャリアプラン制度を導入する。
  • ⑤ 満足度合い,ニーズ及び期待の継続的なレビューを実施する。
  • ⑥ 個別指導(mentoring)及びコーチングをする。
  • ⑦ チーム改善活動を促進する。

 箇条9.2.3人々への権限付与は、人を奮い立たせるための権限の付与についてガイドしています。組織全体にわたって,権限の付与を検討し、どこまでを個人に委ねるかを検討します。人々が顧客に価値を提供するために、自らの作業に関連した決定を自ら行うことができ、必要な情報,他部門への要請、必要資材の購入などの権限及び自由度を付与されることは素晴らしいことです。当然ですが権限付与には責任が付きまといます。人々は、権限付与と責任発生とが対になっている構造をよく理解することで、仕事への動機付けが強化されます。

  • ① 明確な目標を定め,権限及び責任を委任し,人々が自らの作業及び意思決定を管理する作業環境を生み出す。
  • ② 人々の業績についての実績を客観的に公平に評価するシステムを導入する。
  • ③ 人々がその主導権により行動するようになるためのインセンティブを提供するとともに,優れたパフォーマンスを表彰する制度を導入する。

 箇条9.2.4人々の力量は、次のようなステップに従うことが望ましいとしています。

    その検討のプロセスは,

  • ① 組織の個性(identity : 使命,ビジョン,価値基準及び文化)、戦略,方針及び目標に従って,組織が必要とする人の力量を明確にし,分析する。
  • ② 組織が必要とする人の力量と現在の力量(組織外も含めて)のギャップを明確にする。また、現在の力量と今後必要となり得る力量のギャップも明確にする。
  • ③ ギャップとして明確になった力量を得るための処置を実施する。
  • ④ 得られた力量を維持する。
  • ⑤ 必要な力量が得られていることを確認し、講じた処置の有効性をレビューし,評価する。

 箇条9.3組織の知識は、組織に固有なもので、知的財産,経験から得た知識,失敗から学んだ教訓及び成功プロジェクト,文書化していないノウハウ、などをいいます。これらは積極的に獲得すると同時に、保有したものを散逸しないように管理し、活用することが重要です。組織は次の事を行うことがよいとしています。

  • ① 知識を知的財産として持続的成功に不可欠な要素として運用管理する。
  • ② 組織の中長期戦略の裏付けとして活用する。
  • ③ 組織の知識の特定,保護、維持、検索の方法を確立する。

 箇条9.4技術は、組織にとって固有なものであり、最も重要な要素の一つであることは論を待たないことでしょう。技術は固有であるがゆえに、周囲との比較において何時の間にか陳腐化して競争力を持たなくなる危険性があります。トップマネジメントは,マーケティング,競争優位,顧客価値などの観点から組織のパフォーマンスに貢献する技術開発を検討しなければなりません。

次の事項により技術開発及び革新をすすめることが望ましいとしています。

  • ① 組織内外の技術レベル及び動向調査
  • ② 技術開発に必要な財務資源の用意
  • ③ 技術変化に適用する組織の能力
  • ④ リスク及び機会の検討
  • ⑤ 市場環境のモニタリング

 箇条9.5インフラストラクチャは、組織の状況を常に監視し、最適な状態にしておくことについてガイドしています。組織は,定期的にインフラストラクチャが望ましいパフォーマンスの達成に貢献できているかを評価すること、が望ましいとしています。インフラストラクチャの運用管理には次の事の検討、実施が推奨されています。

  • ① ディペンダビリティ(入手可能性,信頼性,保全性)、これには安全性及びセキュリティも含む
  • ② 製品及びサービスの提供に必要なインフラストラクチャの確保
  • ③ 必要とされる効率,能力及び投資

箇条9.5作業環境は,組織内の人並びに組織を訪問する人々(顧客,供給者,パートナ)に快適性を与え、それによって生産性、創造性が高まる要素です。作業環境には次のものを含みますが、適切に機能しているか確認することが望ましいとしています。

  • ① 温度,湿度,換気,照明、騒音、衛生,清浄などの物理的特性
  • ② 作業場及び機器
  • ③ 心理的側面
  • ④ 学習,知識の移転及びチームワーク
  • ⑤ 創造的な作業方法及び機会
  • ⑥ 安全衛生に関わる規則及び保護具の使用
  • ⑦ 職場の場所
  • ⑧ 組織内の人々のための施設
  • ⑨ 資源の最適化

 組織は、作業環境が法的要求事項などを順守し,適用される基準(環境及び労働安全衛生など)に適切に対応できていることを検証することが必要であるとしています。

 箇条9.6外部から提供される資源は,製品・サービスの実現のために外部からいろいろな資源を調達することについてガイドします。外部提供者から調達した資源は、組織の製品・サービスの品質に影響を及ぼします。組織は、外部から提供された資源を効果的に運用管理することを経営上重要な要素であるとして認識しなければなりません。外部からの資源の調達は,組織にだけでなく利害関係者にも影響を及ぼすことを考えなければなりません。調達における組織と外部提供者との関係は、相互依存関係にあるとして、組織の活動に参画する全ての者にとって有益となる方法で調達の運営管理することが望まれます。組織は、外部提供者の能力を活用して顧客に価値提供をし、その過程において相互関係を向上させることが望ましいとしています。

 外部提供者・パートナは、組織にはない知識を保有していますので,組織がプロジェクトに関連するリスク及び機会(結果として得られる利益または損失)を共有する際には,外部提供者・パートナとの提携を推奨しています。パートナとは,製品・サービスに関する外部提供者以外,技術的専門組織、金融機関及び公的機関(政府及び非政府組織)及びその他の利害関係者などをいいます。外部提供者の運用管理に関して,次の事項に関係するリスク及び機会を考慮に入れることが望ましいとしています。

  • ① 施設能力又は生産能力
  • ② 技術的能力
  • ③ 外部提供者の資源入手可能性
  • ④ 事業継続性
  • ⑤ サプライチェーン
  • ⑥ 社会的責任

 箇条9.7天然資源は、組織が保有及び扱う資源には次のものがあるとしています。

  • ① 財務資源
  • ② 人々
  • ③ 組織の知識
  • ④ 技術
  • ⑤ 機器,施設,エネルギー及び付帯設備などのインフラストラクチャ
  • ⑥ 組織のプロセスにおける環境
  • ⑦ 製品及びサービスの提供に必要な材料
  • ⑧ 情報
  • ⑨ 子会社,パートナーシップ及び協力関係など外部から提供された資源
  • ⑩ 天然資源
  • 最後に天然資源を上げています。

 地球温暖化が叫ばれている今日、組織は社会への責任を認識し,この認識に基づいて行動しなければなりません。組織は、消費する資源、エネルギーがどのような形で自然環境に影響を与えるかを認識しなければならないとしています。組織の資源、エネルギーの消費は、製品・サービスの提供の観点からは、持続的成功に影響を及ぼす戦略的な課題として捉えることが必要でしょう。

 組織は,水,土壌,原材料などの不可欠な資源をどのように取得し,維持し,保護し,利用するかについて検討を重ねることが必要です。組織は,そのプロセスが必要とする天然資源の現在及び今後双方の利用,並びに製品・サービスのライフサイクルに関連する天然資源の利用による影響を認識しなければなりません。持続的成功のための天然資源の運用管理は、次の事項を検討することが必要であるとしています。

  • ① 資源を戦略的事業事項として取り扱う。
  • ② 利害関係者の期待する効率的な利用に関する新しい技術を得る。
  • ③ 資源入手可能性を監視し,スク及び機会を明確にする。
  • ④ 資源ライフサイクル(発掘から廃棄まで)全体を通じた資源利用の影響を見極める。
  • ⑤ 利用のベストプラクティスを実施する。
  • ⑥ 資源の利用を改善し,その利用による潜在的な影響を最小限に抑える。

 箇条10「組織のパフォーマンスの分析及び評価」についてご説明をいたします。ISO 9001:2015は、適合性よりもパフォーマンスの重視を打ち出しました。組織がマネジメントシステムの要求事項を実施に移しても、期待した結果が得られないのでは、マネジメントシステムを構築した意味がないということです。ISO 9004においても、パフォーマンスを評価するための情報収集,分析,レビューを実施するプロセスの確立が必要であるとしています。組織は,パフォーマンス評価の結果に基づき,学習、改善及び革新活動を促進していきます。収集すべき情報には,次の事項に関するデータを含めることを薦めています。

  • 1. 組織のパフォーマンス
  • 2. 内部監査又は自己評価の結果
  • 3. 組織の外部及び内部の課題における変化
  • 4. 利害関係者のニーズ及び期待

 箇条10.2パフォーマンス指標は、進捗状況を評価する測定及び分析プロセス、すなわち組織の効果的な測定及び分析について述べています。パフォーマンス指標の選定は、次のような情報から組織が実用的で適切であると考えるものからが望ましいとしています。

  • 1. プロセス、製品及びサービスの特性の監視結果
  • 2. プロセス、製品及びサービスに関するリスクアセスメント結果
  • 3. 外部提供者及びパートナのパフォーマンス結果
  • 4. 利害関係者の満足度に関するアンケート調査結果

 主要パフォーマンス指標(以下,KPIという。)として定義することが望ましいものには、次のようなものであります。

  • 1. 組織が測定可能な目標を設定し、傾向を監視し、改善及び革新への処置を講じることができるもの。
  • 2. 戦略的及び運用上の決定を行うための基礎として選定されているもの。
  • 3. 最上位の目標の達成を支援するため,パフォーマンス指標として部署内で展開されているもの。
  • 4. 組織の性質及び規模,製品及びサービス,プロセス並びに活動に適しているもの。
  • 5. 組織の戦略及び目標と整合しているもの。

 箇条10.2.4 KPIの選定は、パフォーマンスが目標を達成しない場合の対応に述べています。KPIの選定に関する情報は,次のような要素から得られます。

  • 1. 利害関係者のニーズ及び期待
  • 2. 組織にとっての個々の製品及びサービスの重要性
  • 3. プロセスの有効性及び効率
  • 4. 資源の効果的及び効率的な利用
  • 5. 財務パフォーマンス
  • 6. 適用可能な外部の要求事項の順守

 箇条10.3パフォーマンスの分析からは,次のような課題の特定が可能になります。

  • 1. 組織内でのムダな資源
  • 2.不十分な力量,不適切な行動
  • 3.組織の十分に対処されていないリスク及び機会
  • 4. 次のリーダーシップにおける弱み
    • 方針の確立及びコミュニケーション(箇条7参照)
    • プロセスの運営管理(箇条8参照)
    • 資源の運用管理(箇条9参照)
    • 改善,学習及び革新(箇条11参照)
  • 5.リーダーシップの潜在的な強み
  • 6.傑出したパフォーマンスを示すプロセス及び活動
    組織は,リーダーシップと組織のパフォーマンスとの間の相互関係について,明確な枠組みをもつことが望ましいでしょう。これにより,組織のリーダーシップの強み・弱みの分析ができるようになります。

 箇条10.4パフォーマンス評価は,利害関係者のニーズ及び期待の項目から評価することについてガイドをしています。ニーズ及び期待に達しないパフォーマンスが見つかった場合は、パフォーマンスに影響を与えるプロセスを特定し分析する必要があるとしています。同時にその原因に応じて,組織の方針,戦略及び目標の展開,並びに組織の資源の運用管理について,適切なレビューを行うことが必要になります。トップマネジメントは,評価の結果を理解し、組織の方針,戦略及び目標に対する影響に基づき,特定されたパフォーマンスを是正するための優先付けをすることが推奨されています。組織のパフォーマンスで達成された改善を,長期的な展望から評価することがいいでしょう。改善の程度が期待されるレベルに達しない場合は,改善及び革新に関する組織の方針,戦略及び目標の展開,並びに人々の力量及び積極的参加について,レビューする必要があります。

 箇条10.4.3ベンチマークとの比較は、組織のパフォーマンスを,確立されたベンチマークと比較することを推奨しています。ベンチマーキングとは,組織が,そのパフォーマンスの改善及び革新的実践を目的として,組織内外のベストプラクティスを利用する測定及び分析の手法です。ベンチマーキングは,方針,戦略及び目標,プロセス及びその運用,製品及びサービス,又は組織構造に適用することができます。
次のような事項に関してベンチマーキングの実施方法を確立することがよいでしょう。

  • 1.ベンチマーキングの適用範囲の決定
  • 2.ベンチマーク先の選定並びに必要なコミュニケーション及び機密保持に関するプロセス
  • 3.比較する特性に対する指標の収集
  • 4.データの収集及び分析
  • 5.パフォーマンスのギャップの特定及び改善の可能性
  • 6.対応する改善計画の策定
  • 7. 組織の知識基盤及び学習プロセスへの取込み

 以上