平林良人「新・世界標準ISOマネジメント」(2003年)アーカイブ 第10回

1.3.3 マネジメントと管理の違い

  • マネジメントシステムをどう翻訳するかについて、当時、ISO 14000の国内委員会(委員長:茅陽一 慶応大学教授)で議論があった。当初、「Environmental Management System」を「環境管理システム」と訳していたが、「管理」ではコントロールの意味が強いので新しい規格名称を考えようということになった。従来の環境管理は、公害基準を守るための「D」「C」の色彩が強く、組織では末端の仕事と思われていた。ISO 14001は、PDCAの「P」「A」を含み、PDCAを回して継続的に改善し、経営層が責任をもって関与すべき経営管理のあり方、仕組みを規定したものである。そこで、「環境経営システム」「環境マネジメントシステム」の二つの案が提案された。
  • 前者は、「Environmental Management System」の意味を「Management System for Environment」と置き換え、規格の体をよく表したものであったが、最終的には後者の環境マネジメントシステムをとることになった。漢字、カタカナ、ひらがなを使える日本語の便利なところである。
  • ISO 9001でも、「Quality Management」の訳語について、当初、日本の品質管理にはマネジメントの意味も含んでいるということで品質管理とした。しかしながら、その後、QC(Quality Control)とQM(Quality Management)の用語を区別するために、現在、JIS規格では、従来の伝統的な品質管理に「品質管理(狭義)」、品質マネジメントに「品質管理(広義)」という言葉を当てている。歴史が長いと、どうしても訳語の混乱を起しがちである。2000年の改正では、ISO 9001は品質マネジメントという言葉で整理された。
  • われわれが従来行ってきたマネジメントは、ややもすると、まとめよう、まとめようとするマネジメントである。これが激しくなると右向け右といったマネジメントになるが、本来、個人の自由を認めつつ管理していくのがマネジメントである。こうなるとトップの力量が問われることになるが、グローバル化のなかでわれわれが体得しなければならないのは、このマネジメント力である。将棋の世界で言えば、すべての駒が動いているのがマネジメントにたけた名人の駒である。素人はどうしても飛車と角など限られた駒だけの動きになってしまい、これでは、マネジメントができているとは言えない。最近のTQM活動が「全員参加」から「一人一人の参加」と表現することもあり、マネジメント本来の色彩が少し出てきた。
  • もともとマネジメントの行動モデルは、経営学ではP(Plan)、D(Do)、S(See)として、経営工学ではP(Plan)、D(Do)、C(Check)、A(Act)として良く知られているものである。ISO 14001は、システムを円滑に導入できるようにするため、企業の経営スタイル、PDCAのサイクルに即して作られている。このため、ISOマネジメントがなかなか導入できないのは、組織の質に問題があると疑ってもよい性格のものでもある。
  • 最近では、ISO 14001のマネジメントに着目し、これを行政に導入する地方自治体が数多く出始め、その数は300を超えている。当初、千葉県白井町(現在、白井市)、新潟県上越市、滋賀県工業技術総合研究センターの三つの自治体がISO 14001を取得したが、このシステム構築をリードしたのは環境部門でなく、総務企画部門であった。特に、縦割りの壁が厚い行政部門では、全体をうまくマネジメントしていくには、総務企画部門でシステムを構築し、その維持を環境部門に移すほうが円滑にISO 14001を導入できるようである。
  • 従来の環境対策に閉じている限りは問題ないが、組織全体に広がるISO 14001のようなシステムでは、環境部門が全面に立つと、ややもすると他部門から不満が出てシステム構築に時間がかかってしまいがちである。ISO 14001は、マネジメントシステムに環境シールが貼ってあると考えるほうがわかりやすい。
  • つまり、仕組みを作ることで従来の無駄がどこにあるかわかり、結果として無駄がとれるものである。最近では、環境マネジメントを「無駄取りシステム」と呼んでいる審査登録機関もある。
  • われわれの周囲の業務も、与えられた仕事のなかでできることは限られているが、全体の仕組みのなかで考えるとより多くの改善点が見いだせるもので、これがマネジメントである。例えば、10のステップを改善するためにコンピュータを導入して処理時間を半減することも大事であるが、もっと重要なことは10のステップが本当に妥当であるか、場合によっては5つのステップで処理できるかもしれない。そうすれば何ら投資することなしに処理時間を半減できるというものである。このように全体を見ながら管理していくのがマネジメントである。