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平林良人「新・世界標準ISOマネジメント」(2003年)アーカイブ 第11回
1.3.4 システムとは仕組み作り
- システムという言葉もわかりにくい言葉である。ISO 9000、ISO 14000の要求事項をよく読むと、「……手順を確立し、維持しなければならない」と表現されており、システムとは仕組み作りと考えるのがわかりやすい。そして、各人が決められたシステムの下で、決められたルールにそって仕事を行えば、効率が上がるというものである。ルールがはっきりすれば、ミスが生じても個人が攻められることはない。悪いのはルールであり個人ではない。もし間違っていれば、ルールを見直せばよいのである。何となく、周囲の人にスミマセンと謝るよりは、かえって気持ちの良いものである。最近の経済の低迷期の下で揺れ動くサラリーマンの気持ちも、システムやルールがはっきりしていればもう少し楽である。最近では、管理職に対して会社はコンピュータが使えないとダメ、英語が話せないとダメと圧力をかける。20年前の入社当時は、同期の仲間とのノミニケーションが大事と毎日のように赤提灯へ繰り出した若い日々。なぜ、入社時に会社は将来の管理職に求めるものは、コンピュータと語学力であると言ってくれなかったのか。もう少し若いうちに、会社が将来の雇用システムやルールを事前に提示してくれれば自分なりに身の振り方も考えることができ、こうも苦労しないのにと愚痴も言いたくなると。こんな話を米国の知人に話したら、会社が言う言わないという問題でなくサラリーマンとして仕える限りは当然のことであり、日本人はデシプリン(鍛錬)が足りないと一蹴されてしまった。
- では、既存のものにシステムがないかというとそうではない。それなりに機能しているが、その仕組みが明確でないことが多い。組織や責任範囲を明確化し、横とのコミュニケーションを増し、かつ、文書化によって管理の質の確保を図ろうとするためには、ISO 9000、ISO 14000のシステムを導入することが望ましいと思われる。ただ、この際に注意しなければならないのは、単にそのまま新しいシステムを導入するのではなく、既存のシステムとの「ギャップアナリシス」を十分に行って導入することが重要である。
- ただ、「システムはコピーできるが、カルチャーはコピーできない」ことを知っておくべきである。システムは人が作るものである。人が中心の日本社会では特に重要で、システムをいかに動かすかに配慮が不可欠である。例えば、社内の内部監査では人の良さそうな人を監査人にしたほうがうまく機能するという話がある。監査制度になじみの薄かった日本人にとって、昨日まで一緒に赤提灯に行った仲間が、翌日から監査という逆の立場に立つとわかっていてもなかなか素直になれないものである。また、まだまだ年功序列の日本社会では、審査員には白髪の本数が少し多いほうが好感をもたれるという話もある。ISO 14012(環境監査の指針-環境監査員のための資格基準)にも、監査人の資格要件として「……対人関係の技能、例えば、外向性、気転及び聞き取る能力など、……監査を実行する国又は地域の慣習及び文化に感受性をもって対応する能力」ということが指摘されている。
1.3.5 なぜ、文書化は難しいのか
- ISOマネジメントシステムの特徴は、要求事項(What)の規定はあるが、それを実現する手段(How)が規定されていないことである。これは、規格の自由度が大きいということであるが、一方で、どう考えたらよいのか頭を悩ます。この自由度の大きさが、日本人には逆に規格を難しくしている。
- そして、もう一つの特徴として、規格の要求事項に関連して、文書およびデータを管理する手順を設定、維持するというものがある。これが日本人を悩ます種となる。イギリスの政府刊行物センターで見つけたISO 9000の解説本「ISO 9000/BS5750 Made Easy」に、ISO 9000の秘訣、7つの原則という章があった。そこには、①役割をはっきりさせる組織化、②手順や手続きの文書化、③鍵となる文書の管理、④良い記録、⑤定期的な検査の遂行、⑥過失の確認とその是正措置、⑦コミュニケーションと、文書化にまつわる話は多い。
- 例えば、ISO 9000は、顧客に製造者の品質システムを理解し信頼してもらうため、目に見えるかたちに整えて規定や業務手順等の文書および各種記録を実証の証拠として要求する。このため、多くの企業では品質マニュアル作成などの文書化に戸惑い、審査のためだけの形式的な対応になりがちで、これでは定着したシステムとは言えない。
- 小さなポンプ群を考えてみると、各々のポンプは多くの部品から成り立っている。しかも、その部品は順序正しく据え付けられている。ここで重要なことは、ポンプがどのように組み立てられているかを正確に書き留めることで、これが組立の手順や手続きである。この手順や手続きを書き留めるのが文書化である。そして、何かの理由で新しいポンプが導入されたとき、ポンプをどのように組み立てなければならないかという新しいポンプの手順や手続きを作らなければならない。この場合、新旧の二つの手続きが混在することになるので、この時に文書の変更・改訂の文書管理が必要になるのである。
- 文書化の難しさは、日本人だけのことではない。ISOの会議で中国の代表とISO 9000の難しさは文書化であると雑談したとき、韓国の代表がわれわれの輪に入ってきて、韓国も同じだということになり、どうも文書化はアジア共通の課題であると意見が一致したことがあった。米国の国際企業である某大手コンピュータメーカーの幹部も、日本支社は世界のなかでもどうも文書化が下手で困ると話していた。
- ISOの特徴(ISO ways)は、「Say it(方針)」、「Do it(実行)」、「Document it(文書化)」である。しかし、何でも文書化することを規格では要求していないし期待もしていない。また、システムは、自社のために構築するものであって、他人に見せるものではないことを肝に銘じることである。
- また、よく文書化のポイントとして、キッス(KISS)を上げる人がいる。これは、「Keep it simple and slim」の頭文字をとったものだ。つまり、文書は簡潔で大部でないことが重要である。この話を中小企業大学校で品質管理の指導を長くしている国際品質経営研究所の平井直治氏に話したところ、システムは人が作るもの「Keep it simple and slim + smile(プラス・スマイル)」が大切であるという答えが返ってきた。組織にスマイルがないと、特に、日本では構築したシステムはうまく機能しないことが多いことも肝に銘じなければならない。