平林良人「新・世界標準ISOマネジメント」(2003年)アーカイブ 第12回

第2章

  • 2.1 ISO 9000シリーズ規格の誕生
    • 2.1.1 BS 5750の広がり
    • 2.1.2 TC176の発足
    • 2.1.3 ISO 9000シリーズ規格1987年版
  • 2.2 ISO 9000シリーズ規格の変遷
    • 2.2.1 1987年版のJIS化
    • 2.2.2 1994年版への改訂
    • 2.2.3 2000年版改訂
  • 2.3 ISO 9000シリーズ規格の有効的な活用
    • 2.3.1 ISO 9000シリーズ規格の特徴
    • 2.3.2 プロセスの分析
    • 2.3.3 文書化の推進
    • 2.3.4 内部監査の推進
    • 2.3.5 WDI制度
  • 2.4 セクター規格
    • 2.4.1 自動車  QS 9000 / TS 16949
    • 2.4.2 航空宇宙 JIS Q 9100
    • 2.4.3 電気通信 TL 9000
    • 2.4.4 食品安全 ISO 15161、ISO 22000
    • 2.4.5 医療機器 ISO 13485

第2章

  • 2.1 ISO 9000シリーズ規格の誕生
    • 2.1.1 BS 5750の広がり
    • 戦後、ヨーロッパには戦勝国の常駐部隊であるNATO(北大西洋条約機構)軍が駐留していたが、軍では調達する物品の品質問題に手を焼いていた。NATO軍の購買部門は、母国の規格管理団体に対して、何とか対策を打ってくれるよう依頼するのだが、その結果がISO 9000シリーズ規格のオリジナルを生むきっかけになったという。アメリカでは、1979年に品質システム規格ANSI/ASQCZ1-15が制定された。フランス、カナダ、英国等でも同様な主旨の国内規格が相次いで制定されたが、中でも英国の規格管理団体であるBSI(British Standard Institute:英国規格協会)が1979年に発行したBS 5750規格は、ISO 9000シリーズ規格の誕生に大きく影響を与えたといわれる。
    • 1970年代各国の品質保証規格
      • 英国  :Quality systems BS5750- 1979
      • フランス:Recommendations for a system of quality management in industry NF X50-110
      • ドイツ :Basic elements of quality assurance systems DIN 55-35
      • カナダ :Quality assurance program requirements CSA Z299
      • アメリカ:Generic guidelines for quality systems ANSI/ASQC Z1-15-1979
    • BS 5750規格は、Quality systems とタイトルにあるように品質システムを規格にしたものである。そのBS5750にはpart1、part2、part3の3種類があり、それぞれpart1が設計、製造、part2が製造、part3が最終検査についての品質システム規格であった。 アメリカANSI/ASQC Z1-15規格がガイドライン規格であったのに対して、BS 5750規格は多水準のrequirement (要求事項)を含んでいるのが大きな特徴であった。
    • 後年1987年にISO 9000シリーズ規格の第一版が発行されるが、このときISO 9001:1987、ISO 9002:1987、ISO 9003:1987の3種類の規格が作られたのはこのBS 5750の影響であるといわれている。
    • いずれにしてもアメリカANSI/ASQC Z1-15規格、英国BS 5750規格が購入者からの要求をベースにしていたということが、将来制定されることになるISO 9000シリーズ規格の性格を決めることになる。
    • 2.1.2 TC176の発足
    • 1970年代にはNATO軍購買部門の要求に加えて、原子力発電の普及を中心とする複雑な製品の品質管理が重要視されるようになってきた。製品品質重視の風潮は、各国の品質システム規格を統合しようとする動きを加速させた。欧州においてはニューアプローチと呼ばれる欧州統一経済ブロックの構想も品質システム規格統合の後押しをした。
    • また、各国に異なる品質システム規格が存在することは、国際的な通商活動を阻害することにも繋がることから、これらの規格を統合して国際規格を作る動きとなった。その結果1976年にISO(International Organization for Standardization:国際標準化機構)に「品質保証の分野における標準化」を活動範囲とする技術委員会TC176が設置された。
    • 幹事国がカナダであったことから、1980年に品質保証規格を審議するTC176の第一回総会がオタワで開催された。日本は国内の体制が整っていなかったため第二回のベルリン大会から出席をした。
    • ISO規格は上述のように、アメリカのANSI/ASQC Z1-15規格と英国のBS5750を下敷きとして検討が進められた。TC176には2つのSC(sub- committee)が設けられ、SC1でterminology (用語)、SC2でquality system(品質システム)が検討されることになった。
    • その結果1984年6月にISO 8402が用語の規格として、1987年3月にISO 9000~9004の5種類が品質保証規格として発行されることになった。
    • TC176 第1回総会(1980年)
      • WG1:Quality assurance terminology(品質保証用語)
      • WG2:Generic quality assurance system elements(品質保証システムの一般事項)
      • WG3:Specifications for quality assurance systems(品質保証システムの仕様)
    • TC176のメンバー国は、発足当時Pメンバー(主要メンバー)21カ国、Oメンバー(オブザーバーメンバー)14カ国であったのに、年を追う毎に増加していき、1989年にはPメンバー33カ国、Oメンバー26カ国にもなり、各国の関心の深さを知ることができる。これに伴い参加者数もうなぎ上りに増加し、特に1990年インターラーケン総会では予想を越える180名の出席者をみた。因みに2000年に入ってからの総会の出席者数は毎年300人にものぼる。
    • なお、このISO 9000シリーズ黎明期に特筆しておかなければならないのは、第三者認証の動きである。TC176では規格制定当時、この規格は購入者と供給者の二者間取引の際に用いるもので第三者の認証には用いないものとされていた。TC176は規格を制定する委員会であり、ここで作成された規格をどのように使うかについては直接関与しないことになっていた。
    • 第4回プレトリア(南ア)総会でもこのことは確認がされた。しかし、ISO 9000シリーズ規格は、いつのまにか認証の基準規格として国際的に使用されるようになった。これは(認証用として使用されるようになったのは)、欧州統一のためであったと思われる。
    • 戦後の欧州の悲願は、狭い国土に多くの国がひしめき合っている現状を変えて、統一欧州という大きな経済・政治ブロックを作りアメリカと対等に渡り合えるようにしたいというものであった。そのために1960年代からEC(EEC,EUと呼称が変わっていく)の協議が数多く持たれた。
    • 統一した経済ブロックを作るためには、多くの通商障壁を取り除かねばならない。1987年当時それらの通商障壁は300種以上にのぼるといわれていた。例えば、自動車の排ガス規制、各種国家資格(医師、弁護士等)、税制等であるが、それらの中に大きな比重を占めるものとして工業製品標準があった。
    • そのような背景でEC各国は、工業製品標準を統一してブロック内の商取引の活発化する政策を取った。その際にISO 9000シリーズ規格は、国を超えて欧州内の商取引を活発にする一つの方策として採用された。ISO 9000シリーズ規格を使用して、供給者の品質保証能力を客観的に補足しようとすることが行なわれたのである。