平林良人「新・世界標準ISOマネジメント」(2003年)アーカイブ 第18回

2.3.4 内部監査の推進

  • ISO 9000シリーズ規格の大きな特徴である「システム」と「手順」が、きちんと確立され、維持されているかを把握するためには、内部監査が有用である。ISO 9001規格8.2.2項「内部監査」に記述されている目的は、次の2つである。
  • 内部監査の目的
    • ① 品質マネジメントシステムが、個別製品の実現の計画(7.1参照)に適合しているか、この規格の要求事項に適合しているか、及び組織が決めた品質マネジメントシステム要求事項に適合しているか。
    • ② 品質マネジメントシステムが効果的に実施され、維持されているか。
    • ISO 9001規格8.2.2項では、監査の対象として品質マネジメントシステム(QMS)にしかふれていない。しかし、①QMSの継続的改善の最終目的はパフォーマンスの改善にあること、②トップマネジメントのコミットメントで法遵守にふれていることから、内部監査の対象には「品質パフォーマンス」及び「遵法」も加えておこなうのがよい。
    • ISO 9001規格は8.2.2項で“監査員の選定及び監査の実施については、監査プロセスの客観性及び公平性を確保すること。監査員は自らの仕事は監査しないこと。”と規定し、内部監査員の独立性を要求している。信頼性の高い内部監査を行うためには「自分の仕事は自分で監査しない」のが基本的な考え方である。
    • 内部監査員の資格要件はISO 9001規格8.2.2項ではふれられていないが、ISO 19011:2002規格“7.監査員の力量及び評価”に以下のガイドがある。各々の組織で決めればよいが、組織の状況に応じて訓練された監査員であることが望ましい。
  • 個人的特質(ISO 19011:2002規格7.2個人的特質)
  • 監査員は次のようであることが望ましい。
    • a) 倫理的である。すなわち,公正である,信用できる,誠実である,正直である,そして分別がある。
    • b) 心が広い。すなわち,別の考え方又は視点について進んで考慮する。
    • c) 外交的である。すなわち,目的を達成するように人と上手に接する。
    • d) 観察力がある。すなわち,物理的な周囲の状況及び活動に敏感に気づく。
    • e) 知覚が鋭い。すなわち,状況を直感的に認知し,理解できる。
    • f) 適応性がある。すなわち,異なる状況に用意に合わせることができる。
    • g) 粘り強い。すなわち,根気よく,目的の達成に集中できる。
    • h) 決断力がある。すなわち,論理的な思考及び分析に基づいて,時宜を得た結論に到達できる,及び
    • i) 自立的である。すなわち,他人と効果的なやりとりをしながら独立して行動し,役割を果たすことができる。
  • 内部監査と第三者審査の比較表
  • 内部監査 第三者審査
    目 的 QMSの改善 QMSの適合性
    内 容 システム監査
    + パフォーマンス監査・法規適合性監査も可
    (組織内での活動の妥当性の確認)
    システム審査
    (組織の活動状況が妥当であるか否かを、第三者が客観的に確認)
    監査員 内部監査員 審査機関の審査員
    方 法 全数監査も可 サンプリング
    期 間 年間を通じても可 短期間
    判 定 適合性の合否
    + 改善提案も可
    適合性の合否
    処 置 是正処置
    + 改善処置も可
    是正処置
  • 2.3.5 WDI制度
  • WDI は Method for Maintaining Certification / Registration of Well Developed and Implemented ISO9001(2/3) Quality Management Systems の略である。WDIは、「WDIに関する基準及び指針」(JAB R301:2001)として、JAB(公益財団法人 日本適合性認定協会)から2001年11月に公表されている。
  • 第三者審査についての批判の一つとして“コストが高くつく”ということがかなり以前からいわれてきた。第三者審査を受けなくても、「自己宣言」という手段で社会に自組織のシステム構築を認めてもらえればよいではないか、そうすればコストは安く済むのではないかといわれてきた。
  • しかし、過去10年を振り返ってみて、「自己宣言」は現実的な制度として社会に定着しなかった。その理由は、世の中では自己評価だけでは信用度が薄いということであろう。どうしても他者評価が必要になるということである。
  • 第三者審査と自己宣言の間の制度としてありうるものが、代替審査、成熟審査として浮上したが、アイデアとしてしか話題にならなかった。JABが2001年に発表したWDIは、以上のような背景においては今後実証に耐え得る評価の高い制度であるといえる。
  • この制度で審査登録を受けることができる組織の資格は以下の通りである。
  • WDI審査を受けることができる組織
    • ① 3年以上継続して審査登録証が維持されていること。
    • ② 次の3項目が効果的に運営、対処されていること。
      • ・顧客満足
      • ・マネジメント・レビュー
      • ・内部監査
  • また、WDIを用いて審査することのできる審査登録機関もその資格が決められている。
  • WDI審査のできる審査登録機関
    • ① JABの認定が継続して3年以上継続していること。
    • ② WDIに関する能力を実証できること。
    • ③ WDIに関する手順を明確にし、必要な教育訓練を実施すること。
    • ④ WDIの運用開始に当たっては、事前にJABに通知すること。