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平林良人「新・世界標準ISOマネジメント」(2003年)アーカイブ 第20回
2.4.2 航空宇宙 JIS Q 9100
- 1) 規格の内容
- この規格は航空宇宙産業におけるQMSの要求事項を標準化したものである。素材から最終製品までのサプライチェーンのすべてのレベルで使用されることを意図し、世界中の組織による共通要求事項を制定している。
- この規格が、これらの組織のマネジメントシステムに使用されることによって、組織独特の要求事項や組織に対する様々な期待のばらつきが縮小化されるので、品質及び安全性の改善だけでなく、コスト削減についても効果が期待される。
- ISO 9000品質システムに初回検査、特殊工程、形態管理(Configuration Management:構成管理ともいう)を追加し、厳密な管理を要求しているものである。形態管理の目的と定義は次の通りである。
- ① 目的:製品の開発から製造、運用・整備、廃棄までのライフサイクルにおいて、その製品の形態及びその物理的(寸法、重量など)、機能的(性能など)要求事項の達成状況を文書化し、完全に把握すること。
- ② 定義:ア)形態;技術文書に規定され、製品に達成されている機能的及び物理的特性である。イ)形態文書;製品の要求事項、設計、製造、組立及び検証を規定する文書。ウ)形態管理;形態文書が正式に作成された後、その変更を管理すること。
- 2)経緯
- アメリカでは、1996年のMIL-Q-9858A の廃止に伴い、Boeing, GE等の主要11社は1995年にSAE(Society of Automotive Engineers)の下にAAQG(American Aerospace Quality Group)を設置し、品質システム規格(AS 9000)を作成、発行した。その後も、業界での品質システム規格の標準化等を進めるとともに、アメリカ以外のメンバーも参画し名称もAAQG(Americas Aerospace Quality Group)に変更した。
- 欧州では、1996年よりEU内の各国工業会の連合組織であるAECMA(European Association of Aerospace Industries)の下で、EAQG(European Aerospace Quality Group)がEU共通の品質システム規格(EN 9000シリーズ)等の作成及びAECMA-EASE(European Aerospace Supplier Evaluation)を設置し、品質システム審査の共有化等の活動を開始した。
- 1997年欧米の業界は、二つの規格を統一して国際規格を作るべく、欧米間の話し合いを始めるとともに、ISO/TC20総会に航空宇宙品質システム規格の原案を作成することを提案した。ISO/TC20は、原案作成のためのWG11の新設を議決し、日・米・英・仏・独・中国・ブラジル・メキシコの8カ国が参加した。
- 1999年6月、WG11は国際統一品質システム規格の最終原案に合意した。
- 1999年12月、社団法人日本航空宇宙工業会はWG11の作業を引き継ぎ、規格を作成したが、それらの規格がSAE AS 9100、AECMA pr EN 9100、及びSJAC 9100である。
- 2000年8月、社団法人日本航空宇宙工業会は、航空宇宙産業の内外で民需に限らず広くSJAC 9100が採用されることを期待し、JIS原案として編集、提案しその結果JIS Q 9100が制定された。2001年3月IAQGにおいてISO 9001:2000を取り入れた改正版が発行された。
- 3)利用状況
- 現在IAQG(International Aerospace Quality Group)による審査登録制度が確立し、運用されている。国別認定機関数は、2002年10月現在で9ヶ国9機関、審査登録機関は、2002年9月現在37機関である。
- 日本では2001年11月からJABを認定機関とする審査登録制度が運用開始されている。
2.4.3 電気通信 TL 9000
- 1)規格の内容
- ISO 9001を基礎に通信サービス業界特有の要求事項、ハードウェア、ソフトウェア及びサービスに特有な要求事項、これらの測定基準(Metrics)に関する要求事項からなる5層構成とした規格である。
- 主な追加要求事項は、顧客満足度、継続的改善、測定法(Metrics)等からなる69項目である。審査登録、ロゴの使用に関する要求事項も含んでいる。
- TL 9000 階層構造
- 国際規格ISO 9001:2000
- TL 9000共通要求事項
- ハードウェア、ソフトウェア及びサービスに特有な要求事項
- TL 9000共通測定法
- ハードウェア、ソフトウェア及びサービスに特有な測定法
- 2)経緯
- 1996年4月、アメリカを中心とする通信事業者(Bell Atlantic, Bell South , Pacific Bell , Southwestern Bellに加えて北米通信サービス提供者)は、各社それぞれ品質システム要求事項を設定、統一することを目的にQuESTフォーラムを結成した。
- 1996年6月、QuESTフォーラムでは品質要求事項の標準化作業を開始した。標準化の作業を推進する傍ら、供給者と通信設備の購入者である電気通信プロバイダにより、共同で問題解決にあたるための機関としてのQuESTフォーラムの目標と効果を次のように明確にした。
- QuESTフォーラムの目標
- ① 測定可能な業界のパフォーマンスを改善する。
- ② 世界的に認められるフォーラムの基礎を築く。
- ③ TL 9000ハンドブックを作成し、公表する。
- ④ 組織のTL 9000審査登録を促進する。
- ⑤ フォーラムの会員を増やす。
- QuESTフォーラムの効果
- ① 顧客の要求事項を満足させる。
- ② 品質改善を達成する。
- ③ コストを削減する。
- ④ 顧客満足度を高める。
- 1999年5月、QuESTフォーラムは、ISO/TC176にTL 9000を基にした通信サービスのISO9001セクター規格の開発の提案を行ったが、その後まだ開発段階であるとの理由から自ら提案を取り下げた。
- 2001年3月QuESTフォーラムは、ISO 9001:2000を取り入れた規格リリース3.0を発行した。
- 3)利用状況
- 1998年、QuESTフォーラムは世界で15企業が参加するパイロットプログラムを実施し、審査登録の実証確認を行なった。この時は、RAB(アメリカ適合性認定協会)は積極的に関与し、その後LRQA、UL等を認定した。
- 並行して欧州では、モトローラ、アルカテル社が中心となってシステムの構築活動を展開した。
- 2000年6月横浜でQuESTフォーラムの世界大会が開催され、日本でもJABがパイロットプログラムの検討を開始し実施に移った。
- 2002年10月1日現在、認定された審査登録機関は36機関(アメリカ21、カナダ3、中国2、韓国6、イギリス1、シンガポール1、アイルランド1)であるが、日本では3機関がパイロットプログラムで審査を受けたが、その後格段の進展はない。
- なお、QuESTフォーラムのメンバー数は、2001年当時でサービスプロバイダ13社、供給者102社、リエゾン48社で合計163社になっている。