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平林良人「新・世界標準ISOマネジメント」(2003年)アーカイブ 第21回
2.4.4 食品安全 ISO 15161、ISO 22000
- 1)規格の内容
- これらの規格は、HACCP(Hazard Analysis and Critical Control Point:危害分析重要管理点)が重要管理点を特定するために重要であり、かつISO 9001はそれを管理、監視するのに適したものとして両者の融合を図ったものである。HACCPとISO 9001の両者の適用は効果的な食品衛生上の品質システムを構築するのに有効とされている。
- HACCPは、食品の安全確保の手法として、現在広く取り入れられている衛生管理手法である。HACCPシステムとは、原材料の飼育、栽培、加工、製造、保管、輸送、販売、調理の一連の取扱いにおいて、人の健康に影響を与えるすべての危害を予測し、その管理方法を定めて計画的に監視、修正する手法である。
- ISO 15161の構成は、すべてISO 9001と同一であり、ISO 9001の条項ごとに、食品衛生分野での要求事項適用のための手引きが記載されている。構造としては、ISO 9001の枠組みの中に、一般衛生管理、HACCPシステムが取り込まれた形式となっている。なお、この規格に対応するJISの発行はない。また、この規格はあくまでもISO 9001の適用に関する指針であり、認証登録のための要求事項を規定したものではない。
- しかし、現在審議されているISO 22000:Food safety management systems – Requirements(食品安全マネジメントシステム-要求事項)規格は、審査登録にも使用可能なものである。
- 2)経緯
- 1971年、アメリカにおいてHACCPシステムの原型が宇宙開発計画(アポロ計画)のなかで考案された。宇宙飛行士の宇宙食の微生物危害の防止のためにNASA(米国航空宇宙局)及び米国陸軍Natick技術開発研究所が共同でこのシステムを開発したのである。この手法は、それまでの衛生管理が最終製品の抜取り検査に重点を置いていたのとは異なり、危害を未然に防止できるという点で大きな進歩があった。
- 1973 年にHACCPを考案した米国では、FDA(食品・医薬品管理局)により低酸性缶詰食品のGMP(適正製造基準)の中にこの方式が取り入れられた。
- 1989 年にNACMCF(食品微生物基準諮問委員会)が設置され、この委員会から“米国におけるHACCP システムのガイドライン”ともいうべき報告書が提出された。ここで初めて“HACCPの7原則”が示され、体系的なものとなったのである。
- 1995年以降、米国ではこのガイドラインに基づいた法的強制力のある衛生監視法が施行されている。FDA からは魚介類の加工・輸入時の安全性確保に関して、またUSDAからは1996年より食肉、食鳥肉とそれらの製品の取扱いに関して、HACCPシステムの適用が義務付けられた。
- アメリカ以外の国々でも、HACCPシステムは確実に定着してきている。カナダでは、HACCPの実施が法制化(農務省管轄)されており、EU(欧州連合)でも、HACCPを指令として制定している。米国、EU等では、輸入製品にもHACCPシステムの適用が義務付けられている。またオーストラリア、ニュージーランドでは、食肉加工製品、乳製品等に広く適用されている。
- 一方ISOでは、すでに国際的な品質マネジメントシステム規格として定着しているISO 9000シリーズを、食品・飲料産業に対してさらに普及させることを目的として、ISO 9000とHACCPを統合した規格の検討が進められた。
- 1997年に、ISO/TC34(農水産物分野担当の専門委員会)から、国際規格案:ISO/DIS 15161「ISO 9001及びISO 9002の食品及び飲料産業への適用についての指針」が公表された。この規格案は、ISO 9000シリーズの要求するマネジメントの仕組みが、HACCPの要求事項を満たすための基礎になるという考え方により、これらを融合して運用するための指針としてまとめられた。
- 2001年11月一度否決され、発行見送りとなっていたISO/DIS 15161が、ISO 9000シリーズの2000年版に対応する規格として制定された。
- さらに2001年6月ISO/TC34WG8では、食品・飲料産業における安全衛生管理に関するマネジメントシステム、および監査/認証登録を目的とした規格の開発を開始した。この規格の番号/名称は、ISO 22000:Food safety management systems – Requirements(食品安全マネジメントシステム-要求事項)である。この規格の番号は、当初“ISO 20543”であったが、オランダ委員の提案により変更されている。
- 設立当初の参加国は、デンマーク、スウェーデン、オランダ、ハンガリー、イギリス、ドイツ、アメリカの7カ国で、議長国はデンマークである。日本は、TC34に正式メンバーを送っておらず、オブザーバー参加(議事録の入手程度)である。規格の内容は、HACCP、一般衛生管理を含む食品安全のマネジメントシステムであり、ISO 9001の要素も取り入れたものになる予定である。規格の発行予定は、2004年春である。
- 3)利用状況
- ISO 9000シリーズ規格に基づく審査登録件数は、1987年の成立(JISは1991年)以降世界中で増加を続けている。国内の食品関連業においては、食品衛生法に基づく「総合衛生管理製造過程承認制度」が実施されていることもあり、ISO 9001の認証取得件数は、全体の2%程度であるが、取組みを行っている企業は増加傾向にあり、今後導入が進められていくものと思われる。
- HACCPシステムは、食品の製造・流通・販売等の工程における危害を未然に予測して、発生を防止するための手法としては大変優れていることが認められているが、そのシステムを確実に実行するためのマネジメントに関して、やや不充分な点があることが指摘されてきた。
- ISO 9001は、製品の品質を組織全体で管理し、常に改善していくための仕組みを要求しているので、食品の安全確保に特化したHACCPシステムと、製品の品質マネジメント全体に関わるISO 9001を融合したシステムの必要性が提唱されてきたのである。
- このような考え方により、先進的な食品関連組織では、HACCPとISO 9000を融合した品質・安全マネジメントシステムの構築を進めている。またいくつかの審査登録機関では、これらを融合したシステムについて独自に基準を定め、認証登録を行っている。
- かたや、ISO 22000:Food safety management systems – Requirements(食品安全マネジメントシステム-要求事項)が発行されると、世界中の食品・飲料産業における食品安全マネジメントシステムの基準になることが予想され、この規格に基づいた審査登録機関による認証登録も行われるようになるであろう。