044-246-0910
平林良人「新・世界標準ISOマネジメント」(2003年)アーカイブ 第23回
第3章
3.1 ISO 14000シリーズ規格 (省略)
3.2 労働安全衛生規格
- 3.2.1 安全の原理
- 3.2.2 ISO労働安全衛生規格の浮沈
- 3.2.3 OHSAS 18001規格とは
- 3.2.4 ILOの労働安全衛生指針
- 3.2.5 OHSMSの第三者審査登録
- 3.2.6 中災防のJISHA方式適格OHSMS 認定事業
3.3 情報セキュリティマネジメントシステム(ISMS:Information Security Management System)規格
- 3.3.1 ISMSとは
- 3.3.2 ISMS規格制定の経緯
- 3.3.3 JIPDEC基準
- 3.3.4 ISMS審査登録制度
3.4 食品安全マネジメントシステム
- 3.4.1 食品安全マネジメントとは
- 3.4.2 食品安全マネジメントシステム規格とHACCP
- 3.4.3 日本における総合衛生管理製造過程承認制度について
第3章
3.1 ISO 14000シリーズ規格 (省略)
3.2 労働安全衛生規格
3.2.1 安全の原理
- 1) 安全についての基本的考え方
- 安全管理とは「事業運営に伴う災害の根絶を目的として、経営者が行う合理的、組織的な一連の施策(安全用語辞典:中央労働災害防止協会1984)」をいう。安全管理の目的は、人間尊重の理念に基づき、産業活動がもたらす危険を排除して、災害や事故を防止し、さらには技術革新等による新しい型の危険の発生をなくし、労働者はもちろん、国民一般も健康で快適な生活を享受できるようにすることである。
- これらの目的を達成するための基本は、企業経営を行う事業者自らがその責任において災害や事故の未然防止を図ることが必要である。ノウハウや技能、経験に依存する安全技術はそのままでは標準とはなりにくい。安全を標準化し、「制度」としての安全を確立していく思考が必要である。
- ① 安全対策は、設計者や製造者の側で考える。
- ② 災害の原因を単なる人間のミスとして安易に処理をしない。
- ③ 機械は故障し、人間は誤りを犯すことを前提に安全対策を考える。
- ④ 機械の計画、設計、製造、据付、運転、保守、サービス前段階で安全対策を考える。
- ⑤ 安全の判断は客観的証拠による。(安全の立証)
- ⑥ 不確定な状態は安全でないとみなす。
- 2) 安全と危険
- 「安全」とは、どのような「こと」あるいは、「状態」をいうのであろうか?説明しようとするとなかなか難しいことに気がつく。安全な「こと」あるいは「状態」を、労働環境の場に限った場合、「作業する人が、作業現場においてその身に危険がないこと」と説明できるが、具体的ではない。
- 身の危険がないこととは、果たしてどのような状態をいうのであろうか?また「危険がないこと」と「安全であること」は同じことであろうか。我々は経験で、危険ではないといっても必ずしもそれが「安全である」とは言い切れないことを知っている。
- いわゆる「何となく不安」である状態がそれである。地震に例えていうならば、過去大きな地震が発生していないからといって、この地が地震に対して安全であるとは言い切れない。むしろ不安な状態にある。この「不安な状態」の方が多いのではないだろうか?
- この「安全」、「不安」及び「危険」の関係を別図(省略)に示す。
- 3)安全確保の基本概念
- 安全確保の基本理念は次の通りである。
- ① 安全システムには「人」を含むこと。
- ② 「人」のヒューマンファクターを考慮すること。
- ③ 安全はその「人」の危険からの解放である。
- ④ 安全は教育・訓練だけでは達成できない。
- ⑤ 安全は世界に通用する論理と技術で構築すること。
- ⑥ 安全は機械(ハード)と制度(ソフト)で確保すること。
- ⑦ 安全の弁証責任(アカウンタビリティー)を果たせること。
- 4)安全確保の3要素
- 安全確保のための要素は、大きく分類して次の3つに分類される。
- ① 管理によるもの
- 事故、災害等を起こさないために、主に人間の行為、行動を管理することで安全を確保しようとする要素である。禁止、強制、勧告、指導、等がある。
- ② 安全確認によるもの
- 人の判断や管理手段によらず、主としてハード的手段により、安全を確認、判断して、安全を確保しようとする要素である。
- ③ 災害低減化によるもの
- 事故は確率で起こることを認め、事故が起こっても具体的な災害に到達しないようにするか、到達しても残存許容リスクの範囲に留めるような、安全化対策を実施することで、災害発生の可能性を可能な限り小さくし、安全を確保しようとする要素である。
- 5)管理責任者に求められる考え方
- 安全を管理する管理責任者はその職務を遂行するに当たって、以下のような安全に対する大前提を考慮する必要がある。
- [大前提]
- ① 人の安全は何物にも優先するものである。
- ② 安全は論理的に確認され、かつ又、立証される必要がある。
- ③ 安全管理はシステムとして運営される必要がある。
- ④ 「危険は忘れたころやってくる」の原則による。
- ⑤ 安全の向上は生産性を向上させる。
- 上記の大前提をベースに更に具体的に次の3点を原則とする。
- ① 「人は誤りを犯す」という「人間特性」を認める。
- 安全を確保するためには、「人間特性」として「人は誤りを犯す」という事実を明確に認めることが必要である。「人」に安全を委ねてはならない。安全管理システムが機能するためには、そのシステム遂行に「人」の判断が入らないようにすることが必要である。「ヒューマンエラー」といわれるものを収集し分析して、「人は誤りを犯す」という「人間特性」を認めることが大切である。
- ② 「機械・設備は故障する」という事実を認める。
どんなに信頼性が高く、故障しないといわれる機械設備であっても、必ずいつかは故障する。故障する確立が低いというだけである。信頼性に基づいた確率論的安全ではなく、論理的に不安全はありうることを認める。 - ③ 具体的に以下の業務を推進する。
- (ア) 「人」の作業内容とそこに顕在或いは潜在する「人」へのリスクの解析を行う。
- (イ) 組織としてリスクに対応した適切な安全計画を確立し、設備の安全化を図る。
- (ウ) 全活動に対して組織全体の行動の監視、測定、監査を行い、実行のパフォーマンスを把握する。
- (エ) 日常的な「改善活動」により、安全レベル及びパフォーマンスの向上を図る。
- (オ) 経営理念として安全文化の創造をはかる。