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平林良人「新・世界標準ISOマネジメント」(2003年)アーカイブ 第25回
3.2.3 OHSAS 18001規格とは
- 1)OHSAS標記について
- OHSASは労働安全衛生アセスメントシリーズ(Occupational Health and Safety Assessment Series)のことであり、次の2つの規格から構成される規格の総称である。
- ・OHSAS 18001(労働安全衛生マネジメントシステムの仕様(要求事項を記述))
- ・OHSAS 18002(OHSAS 18001実施のための指針)
- 類似した用語としてOHSMSがある。しかし、これはOccupational Health and Safety Management System:労働安全衛生マネジメントシステムの略称で、マネジメントシステムの1つの要素であるが、規格を意味しているわけではない。なお、厚生労働省やILOではHealth and Safety をSafety and Healthと言葉の順序を置き換えてOSHMS(Occupational Safety and Health Management System)と標記している。
- 2)OHSAS 18001規格発行の経緯
- BSI(British Standard Institute:英国規格協会)は3.2.1項のように1996年にBS8800を発行した。それを受けて1997年から欧州でOHSMSの第三者審査登録がはじまった。品質マネジメントシステム及び環境マネジメントシステムの第三者審査登録制度の影響を受け、労働安全衛生についても第三者審査登録機関の審査を受けたいとする組織が出てきたのである。
- 組織のニーズに応えて、SGS、BVQI、DNV、LRQA、BSI等の審査登録機関はBS8800に基づいて自主規格を作成し、それを利用して審査登録を行った。しかし、BS8800は労働安全衛生マネジメントシステムの推奨事項を記述したガイド規格であり、要求事項を記述した仕様規格ではない。第三者審査は仕様規格に基づいて行なわれるため、既存の審査登録機関はBS8800に基づき自主規格を作成したわけである。
- 審査登録数が増えるに従って、審査登録機関からは統一のOHSMS規格が必要との声が出てきた。また、本来ならISOが規格を統合する役割を果たすべきであるが、3.2.1節で述べたようにそうならず、ますます規格の乱立状態が加速されるのではないかと懸念も示された。
- BSIは、そんな背景のもと統一規格を作成すべく、コンソーシアムを結成した。メンバーは10数ヶ国、約30団体の各国標準団体、審査登録機関、研修機関等からなっている。日本からは、財団法人日本規格協会、社団法人中央労働災害防止協会、財団法人高圧ガス保安協会、株式会社テクノファの4組織が参加している。
- このコンソーシアムは2年間規格標準化の活動を行ったが、その結果OHSAS 18001:1999とOHSAS 18002:2000が制定された。1999年4月OHSAS 18001が発行され、2000年2月OHSAS 18002が発行されたが、いずれもISO規格ではない。
- 3) OHSASの2002年改訂
- 2002年12月、OHSASは改訂されたが、OHSAS 18001及びOHSAS 18002ともに本文そのものに変更は無い。変更点は別表の通りである。
- OHSASの2002年改訂
- ① 参考文献にISO 9001:2000が追加された。
- ② 附属書Aは、従来は「OHSAS 18001、ISO 14001:1996及びISO 9001:1994との対応」であったが、「OHSAS 18001、ISO 14001:1996、ISO 9001:1994及びISO 9001:2000との対応」に変わった。
- ③ 附属書B「OHSAS 18001、OHSAS 18002及びILOガイドラインとの間の対応」が新たに追加された。
- 附属書Bは、ILOガイドラインとOHSASとの主要な相違点を明らかにして相対評価し、それらの間には重大な相違部分は確認されなかったことを指摘している。このためOHSAS 18001に準拠したOHSMSを実施した組織は、そのシステムがILOガイドラインにも適合すると考えてよいとも記述している。ILOガイドラインの事業場レベルのガイドラインとOHSASとの主要な相違点は次の通りである。
- ① 適用範囲
- ILOガイドラインは、労働者に主眼をおいている。OHSASは、従業員及びその他の利害関係者に焦点が当てており、着目する範囲がより広い。 OHSASは「危険源」を、「傷害又は疾病、財産の損害、職場環境の損害、又はそれらの組合せからの危害をもたらしうる潜在的な源や状況」と定義しているが、これも人の健康への傷害又は損害の可能性だけに着目しているILOガイドラインよりも範囲が広い。
- ② OHSASの主要素を図示したモデル
- 両方とも全く同じである。
- ③ 労働者の参加(ILOガイドライン3.2.4)
- ILOガイドラインでは、「使用者は、適切なときは、国内法令及び国内慣行に従って安全衛生委員会を設置すること、これを有効に機能させること及び安全衛生に関する労働者代表を承認すること」ことを推奨している。
- OHSAS 18001は、組織が、その処置を文書化して促進し、さらに(適用範囲がより広範であることから)より広いコンサルティング対象者、すなわち、利害関係者を統合することを求めている。ILOガイドラインは、国内法令及び国内慣行でこうした要求事項が定められていない場合、組織が安全衛生委員会を廃止することを認めている。
- ④ 責任及び説明責任(ILOガイドライン3.3.1(h))
- ILOガイドラインでは、災害防止プログラム及び健康促進プログラムの策定を推奨している。OHSASは、組織のリスクアセスメント又はOHSMS及び目的で要求された場合だけこうしたプログラムを求めている。
- ⑤ 能力及び教育・訓練(ILOガイドライン3.4.4)
- ILOガイドラインの、「教育・訓練は、可能な場合は、すべての参加者に対して費用を求めることなく行なわれ、また、就業時間中に行なわれること」はOHSASでは要求事項になっていない。