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平林良人「新・世界標準ISOマネジメント」(2003年)アーカイブ 第7回
1.2.4 ISO競争力、幸運と不運
- 国際規格の作成は、民主的な手続きによって行われているが、時として投票数によっては日本が痛い目にあうこともある。数年前、NHKテレビでも紹介された電気洗濯機(脱水機能)の例がある。日本では、以前、二槽式洗濯機の脱水機が主流であったが、1993年、この日本製の洗濯機がクリアできない規格値がIEC規格で規定された。東南アジア諸国、中国、韓国は1995年頃から、国際規格であるIEC規格を採用し始めたため、アジア諸国の日系企業の二槽式洗濯機が現地で売れなくなってきた。特に、シンガポールでは輸入がストップとなる事態が生じた。
- キャッシュカード(銀行カード)では、以前、日本のキャッシュカード(銀行カード)の磁気ストライプは表面に付いたタイプであった。日本は世界に先駆けて開発及びATMの普及を行い国内のATM台数は11万台を超えたが、1985年、ISOで規定されたものは磁気ストライプが裏面に付いたタイプとなってしまった。このため、日本発行のキャシュカードが海外で使えない、海外で使うためにはISO/IEC仕様の磁気ストライプを裏面に貼り付ける必要が生じた。一時期、カードの両面に磁気ストライプを付けたものが出回った時期もあった。
- デジタル携帯電話(第2世代移動体通信)では、国際規格ではITU規格として、欧州のGSM方式と日本のPDC方式のどちらも規格化されている。しかし、世界市場においてはGSM方式普及国:190カ国以上、PDC方式:日本のみとGSM方式が市場を制したため、デファクト標準としてGSM方式が世界市場を制することとなった。こうなってしまった原因は、「日本メーカーが国内市場のみを視野に入れて販売戦略を立てていたこと」、「国内規格を決める立場にある通信事業者が国際標準化戦略を重視していなかったこと」等によると思われる。
- 少し堅くなるが、塗料の促進耐候性試験機として、諸外国ではキセノンランプの使用が主流であった。日本ではサンシャイン(オープンフレーム・カーボンアークランプ)が主に使用されていた。1994年、当然の結果としてISO規格はキセノンランプのみが規定された。これを受けて、1999年、JISはISOへ整合させた結果、サンシャインを使用していた事業者は、キセノン装置の追加購入が必要となるとともに、サンシャイン装置の塗料業界への販売は急速に減少していった。
- 国際規格の制定で不利益を被った悪い例ばかりでない。よい例も数多く、デジタルスチ-ルカメラのファイルフォーマットがその例である。この分野では、日本のExif/DCF規格と米国のTIFF/EP規格の2方式が存在していた。このため、日本方式を一般家庭用、米国方式を高画質業務用として棲み分け、デファクトスタンダードにすることが実質合意され、その後、2001年、2方式ともISO規格化された。現在、日本のデジタルカメラのシェアは世界市場で約80~90%を占めるに至っているが、この主な要因は、①日本方式を一般家庭用の対象としたこと、②当該ISO規格のコア技術である画像圧縮方式に、日本の独自技術であるJPEGを採用できたことと言われている。
- 日本が強いと言われている時計は、過去のISOの場では、欧州対日本の構図となり、数的に有利な欧州案が投票により採択されていた。日本は、アジアの時計生産国(中国、インド、韓国)にISO活動への積極参加を働きかけるとともに、欧州との事前協議も密に行った結果、2002年、日本提案の性能評価試験方法がISO規格に採択され、これにより日本製時計の高性能さ、多様性をPRし易くなった。