4.6 監査の手順

 内部監査手順の概要は次の通りです。

  • ① 初回会議
    • ・ 監査チームを被監査者に紹介し,またその逆の紹介を行う。
    • ・ 監査の目的,範囲,日程及び手順を説明する。
    • ・ 被監査者は監査の内容をあまり知らないかもしれないので,注意深く説明して,被監査者を安心させる。
    • ・ 監査プログラム,まとめ会議,最終会議について確認する。
  • ② 調査(観察)
    • ・ その部署(職場)で何が行われているか観察する。
    • ・ 何を観たいのかは監査員自身が決める。
    • ・ 第一印象も大切である。その場所,状態に不適合の存在を暗示するヒントがある。
    • ・ 掘り下げて見る。(重箱の隅をつつくように見るのではなく,システムの欠陥がないかを見る)
  • ③ 不適合の摘出(発見)
    • ・ その部署で実際に仕事をしている人に適切な質問をする。
    • ・ 調査を通じ,不適合と考えられる “もの” あるいは “状態” を摘出(発見)する。(不適合とは,“マネジメントシステムおける要求事項に対して満足していないもの” でありシステムの欠陥である。製品そのものの技術的欠陥を指すものではない。)
    • ・ 監査員は不適合を発見する都度,それを記録しておく。
  • ④ 検証
    • ・ 不適合と思われる事項が本当にそうであるか証拠を集める。
    • ・ 客観的証拠を集め,それを記録する。
    • ・ 不適合である根拠が何であるか被監査者に理解できるように努める。
  • ⑤ 不適合の指摘
    • ・ 不適合事項とその証拠を被監査者に説明する。
    • ・ 不適合がどの規定要求事項に抵触しているのか説明する。
    • ・ 被監査者にとって是正処置をとり易い要求事項に絞って説明する。
  • ⑥ チームミーティング
    • ・ 監査チームリーダーは監査員を集め,監査内容の確認を行う。
    • ・ 見解に違いがあれば調整する。
    • ・ 軽微な不適合が多い場合は,それを重大な不適合とするか協議する。
  • ⑦ 不適合報告書の作成
    • ・ 不適合報告書に必要事項をすべて記入する。
    • ・ 重大な不適合/軽微な不適合であるかの区分を記入する。
    • ・ 客観的証拠を示すことによって不適合を被監査者に同意してもらう。
  • ⑧ まとめ会議
    • ・ 被監査部門に指摘事項について説明する。
    • ・ 最終会議の前に不適合指摘の同意を得る。
    • ・ 監査の進捗を見直し,若干の監査時間割の変更を依頼する。
  • ⑨ 最終会議
    • ・ 出席者を確認する。
    • ・ 内部監査の特長を説明する。
    • ・ 不適合事項について説明する。
    • ・ 是正処置予定,フォローアップ監査の日程を確認する。
  • ⑩ 監査報告書の作成
    • ・ すべての不適合報告書を添付する。
    • ・ 最終会議で合意した是正処置,フォローアップ監査予定日を記入する。
    • ・ マネジメントレビューのために経営者及び各部門長へ配付する。
4.7 調査の方法

 不適合を発見するための最も有力な手段は 「観ること」 と 「聞くこと」です。では,監査員は何を観ればよいのでしょうか。その部署で何が行われていることを観察するといっても簡単ではありません。内部監査員は外部監査員と違ってその部署で行われていることの概略を既に知っています。社内における今までのその部門の業務の進め方に,あなたは批判的であるかもしれません。批判的であるが故に,あなたは最初からその部門のみを詳細に観察しようとするかもしれません。あるいは,あなたが今までその職場の仕事の進め方に好意を持っていたとすると,あなたは最初から半分目をつぶって観察することになるかもしれません。
 社内で関係する業務を推進しているのですから,当然あなたはその部署に好悪の感情を抱いているでしょうが,あくまでもその感情または情報は糸口であって,あなたの観察に本質的な影響を与えるものであってはなりません。具体的に観るポイントとして,マネジメントシステムの要素には次の6つがあります。

  • a) 組織
  • b) 仕事の手順
  • c) 人,装置及び材料
  • d) 作業,工程及び作業環境
  • e) 製品,成果品
  • f) 文書,記録

 マネジメントシステムを構築した初期の段階では,文書と記録のチェックのみを行う監査になりがちですが,上記のすべての要素を観るべきです。内部監査であれば、すべての要素を観ることは可能です。
 監査実施の場面で,監査員は次のことを行います。

  • ① 起きていることを実際に観る。
  • ② 何を観たいのか自分自身で決める。他人から言われて決めるのではない。サンプリングは自分で行う。
  • ③ “掘り下げて”観る。
  • ④ 第一印象も大切である。
  • ⑤ 管理された状態に見えても実際は異なる場合あるので,注意深く事実のみを見る。
4.8 不適合の摘出(発見)

 インタビューは不適合の摘出(発見)に欠くことのできない手段です。インタビューとは質問することですが、質問の仕方の良し悪しが監査の成功を決めることにもなります。効果的な監査をするためには, 次にあげる基本的な6つの質問を使い監査を進めます。
 たとえば, ある手順書を前にして次の質問をします。

  • ① これは何ですか?(What)
  • この質問をすることによって手順書に対する認識がわかる。
  • ② 誰が使っていますか?(Who)
  • 手順書の活用度合いがわかる。誰が使用しているかわかる。
  • ③ それはどのように使われるのですか?(How)
  • マネジメントシステムがどのように運用されているかわかる。
  • ④ それはいつ使われるのですか?(When)
  • 時期を聞いたら,その記録を見せてもらう。
  • ⑤ それはどこで使われるのですか?(Where)
  • “どこで?”という質問はいろいろな記録を聞くきっかけになる。
  • どこに要求事項が規定されていますか?
  • どこで規定要求事項を満足させていますか?
  • どこに文書化していますか?
  • どこに記録していますか?
  • ⑥ どうしてそれを使うのですか?(Why)
  • 注 : あまりこの質問は使用しない。なぜなら,被監査者の気持ちを逆なですることがある。

この基本的な質問のなかから,適切なものを選ぶことによって,効果的なインタビューが構成されます。監査をする場合は,この6種類の質問を使い分けます。

4.9 検証の方法

 質問をして,その答えを吟味するなかから,“これは実際に実行されていないのではないか”と,感じることに遭遇します。しかし,証拠を把握するまでは不適合であると断定することはできません。あくまでも客観的な証拠(objective evidence)を得なければなりません。この客観的な証拠を掴むことが検証です。
 具体的には,次のようにして証拠を集めます。

  • ・ 複数の人々に質問をして,証言を得る。
  • ・ 文書を調べる。
  • ・ 記録を調べる。
  • ・ 作業そのものを調べる。
  • ・ 工程設備及び装置を調べる。
  • ・ 材料及び製品を調べる。

 被監査者は状況が客観的に不適合を示していても,それを簡単には認めない場合が多いでしょう。被監査者は神経質になり,人の言葉に耳をかさないようになっていることが多いものです。監査員は,自分の発する言葉(質問)の内容が明確であるように気を付け,被監査者が正しく内容を理解しているかを確認しながら監査を進めるように努めなければなりません。
チェックリストを使用して監査を進めるなかで,不適合と思われる事象を発見しなかった場合,スムーズに次の監査に移っていくべきです。監査員がそこでなお,執拗に不適合の証拠を探そうとすることはよくありません。

4.10 不適合の指摘

 不適合を指摘する場合,何に対して不適合なのかを明確にしなくてはなりません。しかも,それは被監査者にとって理解できるものでなければなりません。不適合と指摘しておきながら,被監査者を納得させることができないようでは監査員として失格です。不適合の理由を正確に被監査者に説明する必要があります。
 ISO9001:2015規格を基準とした内部監査を実施した場合の事例をあげ,不適合指摘の手順を述べましょう。
発見した不適合は,ISO9001:2015規格の,どの条項に対して不適合であるのか?

  • ①規格条項の中から抵触しているとはいえない条項を削除する。
  • ② 残った条項から,抵触している可能のある条項のリストを作成する。
  • ③ 次のことを考慮し,指摘可能な条項を考える。
    • ・ 不適合を解決するのには,どの条項が必要か。
    • ・ その条項に従った行動は,恒久的な解決を導き出すか。
  • ④ 不適合は次のどれによる欠陥であるか。
    • ・ 人,システム,工程
  • ⑤ その不適合が重大なものか,軽微なものかを区別する。
    • ・ 重大な不適合( それだけで品質に大きな影響を及ぼす。)
    • ・ 軽微な不適合( それだけでは品質に大きな影響を及ぼさない。)
  • ⑥ 不適合報告書を作成する。

5. 不適合品の内容確認及び処置

 不適合品の内容確認の責任及びその処置の権限は,明確に規定する必要があります。不適合品は,手順書に従ってその内容を確認しなければなりません。その処置には,次のようなものがあります。

  • a) 規定要求事項を満たすように手直しする,
  • b) 修理して,又は修理しないで特別採用とする,
  • c) 用途変更のために再格付けする,又は,
  • d) 不採用又は廃棄とする。

契約で要求されている場合,規定要求事項に適合しない製品の使用又は修理の提案を,特別採用として顧客又はその代理人に申請することが必要です。受け入れられた不適合及び修理の内容については,実際の状況を示すために記録します。修理及び/又は手直しした製品は,品質計画書及び/又は手順書に従って再検査する必要があります。

5.1 原因の究明

 原因を究明する場合,プロセスの4つの要素(下記)に対して,それぞれ原因を調べてくと効果的な解決策をとることが容易になります。

  • (1) インプット 材料,情報
  • (2) 管理方法 目標値,管理標準
  • (3) 経営資源 人,ノウハウ,データベース,装置,資金
  • (4) アウトプット 製品,サービス,情報

製品・サービスの品質問題に関する原因究明では,真の原因を明確にするこが大事です。そのためには,製品仕様及びサービス仕様から,すべてのプロセスにわたって問題の解析をしなければなりません。原因を究明する場合はQC手法や統計的手法を用います。QC手法の例として,QC7つ道具について,その用途を説明します。

  • ・ パレート図 : 重点を発見する。
  • ・ チェックシート : 点検する。
  • ・ ヒストグラム : 層別して分布を見る。
  • ・ 散布図 : 2つ以上のデータの関係を示す。
  • ・ 管理図 : 工程を監視する。
  • ・ グラフ : データの視覚化する。
  • ・ 特性要因図 : 原因を発見する。
5.2 是正処置

5.2.1 解決策の策定

 是正処置とは,不適合が再発しないようにすることです。是正処置の対象はプロセスです。プロセスのなかにある不適合発生の原因を除去することでなければ是正処置とはいえません。日常のプロセス管理において,管理図を使用した是正処置の効果確認を実施することがよいでしょう。
 是正処置として検討する解決策には,次の要素に関する変更内容を明確にしておきます。

  • ・ 製品仕様及びサービス仕様
  • ・ 購入材料の仕様
  • ・ 作業手順
  • ・ プロセス,設備
  • ・ 作業者の教育・訓練及び資格認定

 また,是正処置の案を検討する際には,QMSでしたら品質に影響するその問題が重要性について,顕在及び潜在的な影響の両方の面から評価しておくことが必要です。その影響の例として次のものがあります。

  • ・ 生産コスト
  • ・ 品質関連コスト
  • ・ 製品の性能
  • ・ ディペンダビリティ
  • ・ 安全性
  • ・ 顧客満足

5.2.2 是正処置の実施

 是正処置に対しても,すべて問題に対して最大限の処置を実施することは困難でしょう。現実的には問題の大きさに応じた適切な程度の処置であればよいとします。
是正処置はひとつの部門が実施すればよいというものではありません。なぜなら,実施しようとする是正処置には,関係する部門が多く存在するからです。ひとつの是正処置といっても,実際には具体的な是正処置を実施する責任が組織内で割り当てられた複数の部門責任者にあります。不適合及び潜在している不適合の原因を除去する活動は,特別な活動ではなく,プロセス管理のなかの管理項目に組み入れられていなければなりません。
 当然のことですが,是正処置は不適合の処置が実施されていることを前提としています。不適合の処置は暫定処置であり,その水平展開をした後に恒久処置として是正処置を行う必要があります。

5.3 効果の確認

 効果の確認として不適合が再発しないということをどのようにして保証すればよいのでしょうか。
是正処置の効果を確認する適切な手段とはどのようなものでしょうか。QMSの場合では、統計的手法は活動を計画し,管理し,検証するための手段として有効です。

  • a) 実験計画法,及び要因効果の解析
  • b) 分散分析,及び回帰分析
  • c) 有為性検定
  • d) 管理図及び累積和法
  • e) 統計的サンプリング法
5.4 標準化

 ここでいう標準化とは,マネジメントシステムの文書化と解釈してもよいでしょう。規定要求事項を確実に行われるようにするためには,その組織が供給する製品及びサービスを生み出すためのマネジメントシステム規程,及び具体的な基準を文書化することが要求されます。製品及びサービスを作り出すためには、多くの人が理解できる標準の可視化が必要です。

以上