「設計審査標準 KDR105」を対象にした内部監査の実践について続けていきます。
「ナラティブ内部監査」を実践して「新しい物語作り」を「起承転結」で行っていきます。
「新しい物語」は、「起承転結」を【起】―いまのこと、【承】―いままでのこと、【転】いまからのこと、
【結】―問題(課題)の歯止めを書く、という原則に沿うと書きやすいと思います。

前回は指摘事項3の【承】でしたので、今回は【転】を実践します。

「新しい物語作り」をする前に、「ナラティブ内部監査」の5ステップについて続きの説明をします。

  • 第1ステップ : 今行っている内部監査をレビューする。
  • 第2ステップ : どのような内部監査を行いたいか、行うべきかを組織内でコンセンサスを得る。
  • 第3ステップ : 内部監査員、被監査者の共同作業の基盤を作る。
  • 第4ステップ : 発見された問題(不適合、観察事項、気づき事項)などを解決する。
  • 第5ステップ : 問題解決したことを水平展開、歯止めして改善する。さらに、改善したことを革新へのインプットにする。

前回は第4ステップを説明しましたので、今回は第5ステップの説明です。
https://www.technofer.co.jp/tsubob/index.php/2022/01/12/vol-342/

ここで言う「水平展開」は歯止めの前に行う(あるいは並行して)活動です。改善を行った部署とは異なった部署、部門などに同様なことを行うことを意味しています。当然のことですが、行った改善がすべての部署、部門で同様な効果を発揮するわけではありません。しかし、組織の中における改善が同じ組織の中でありながら他の部署、部門に展開されず、改善した部署だけで限定的に行われているという例は多く見受けられます。 
水平展開したら歯止めです。坂道で車が動かないように車止めに使う木製或いは鉄製の道具が「歯止め」ですが、インターネットで自動車部品のカタログを見るといろいろなタイプの歯止めが売られています。
道具の「歯止め」に倣って、元に戻らないようにすることを改善の歯止めと呼んでいます。具体的にいいますと、改善したことを「見える化」することです。関係者に改善したことのやり方を周知徹底させ,確実に実施できるようにするためには、関係者が忘れないように、何らかの形で「見える化」すること、すなわち実物、絵、チャート、手順書など(見える化)にしておくことが必要です。
さらにそれらの文書に基づいて関係者に教育・訓練することも忘れてはなりません。歯止めがきちんとされないと,せっかく進めてきた改善がそのときだけの活動になってしまいます。

では、<指摘事項3>について【転】の「新しい物語」作りをしていきたいと思います。
【転】は、いまからどうするのかについて書きます。

  • いまについて【起】と、いままでについて【承】の両方で議論してきたことを踏まえ、いまから改善すべきことを議論する。
  • どのようになれば問題が解決できるか考える。
  • 問題が解決すると、どんな成果が組織にもたらされるか考える。

●指摘事項3
DR委員会で指摘された事項について議事録を見せてもらい、DR対象製品の市場での評価を確認した。
市場で問題が出ている製品について、その問題と該当DR後の対策について聞いたが「具体的対策が設計に反映された」記録は無く、DR活動の実施状況を品質管理部が確認した記録も見ることが出来なかった。これは「設計審査標準 KDR105」第14条に違反する。

「設計審査標準 KDR105」(←設計審査標準の確認はここをクリック)

<第14条>(フォローアップ)
 設計部は、DR委員会で指摘された事項について、担当設計部門の採否を踏まえ、その具体的対策が設計に反映されたか否かを確認し委員長に報告する。品質管理部は、DR活動の実施状況を確認する。

議論
内部監査リーダー:まずは「設計審査標準 KDR105」14条(フォローアップ)を見直すこととして、いままでの議論を纏めますと、いまから改定することは、次のような内容になると思います。 

  1. DR会議で指摘されたことがその後確実に設計課で評価され、対応策が取られ、後工程への影響についても考慮されること、並びにその記録が残されることを明確にする。
  2. 品質管理部は、DR活動の実施状況を確認する。実施状況には次のことが含まれる。
    • ―DR会議指摘事項の評価結果
    • ―設計部での対応内容(設計変更)
    • ―設計変更によるアウトプット(図書)の確認
    • ―設計変更の評価
      • 検証
      • 妥当性確認
  • 被監査者:そうですね。今のままだと市場クレームが起き、その原因を調査して設計に起因する問題だと絞り込めても、その先に分析を進めていけませんね。その意味では提案の1.は標準の改訂をすべきであると思います。
    しかし、2.の提案は品質管理部には重たいと思います。我々設計課が行わなければならないことであると改めて考えます。現在第14条の品質管理部の関与はほとんどされていないのではないでしょうか。
  • 内部監査員:そうです。今回の内部監査では、本件の確認先として品質管理部へ行って、第14条について聞いてみましたが、誰も明確に答えてくれませんでした。品質管理部の多くの人が第14条の中に「品質管理部は、DR活動の実施状況を確認する。」という規定があることを知りませんでした。
  • 被監査職場責任者:今回のA製品の市場クレームについては、DR指摘事項をもっと技術的掘り下げをしていれば、問題発生は防げたかもしれないという反省があります。設計課としては提案の2.は自分たちが実施すべき事項であると課内で議論し、部長とも相談しているところです。
  • 内部監査リーダー:それはいい提案ですね。設計変更の内容がDR指摘事項に合致したものになっているか、その効果がどのようなものか、後工程に及ぼす影響にはどのようなものがあるのか、などは設計でないと本当のところは分かりませんからね。
  • 内部監査員:設計変更に関しては、「4M変更管理標準KPT105 附則変更管理項目」の設計区分に次の規定があり、変更管理をすることになっています。
  • 設計
    • ①契約仕様書
    • ②適用規則(新規/変更)
    • ③配置の変更
    • ④部分的又は全体的な材質の変更
    • ⑤部分的又は全体的な機能の変更
    • ⑥使用環境の変更
  • そういうことで、提案2はこの内容に当たると思いますが、どうでしょうか。

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≪4M変更管理標準 KPT105≫

  • (目的)
  • 第1条 この標準は、「品質に係る各種変更を行う場合に不具合の未然防止を図るために実施する変更管理について規定する。
  • (定義)
  • 第2条 この標準における変更管理とは、受注、設計、調達、製造、検査、出荷(引渡し)の各段階において、すでに実績のあるものを変更する場合に特別に行う管理のことをいう。
  • (適用)
  • 第3条 受注、設計、調達、製造、検査、出荷(引渡し)の各段階の変更管理について適用する。
  • (変更の抽出)
  • 第4条 各部門は、担当製品(業務)について、自部門の変更の抽出を行う。
    • ② 各部門は他部門の変更抽出に対して提案することができる。
    • ③ 各部門長(課長以上)は変更の程度、影響、重要性等を考慮して変更管理を適用する項目を選定する。
  • (検討)
  • 第5条 変更管理における内容検討は次のいずれか又は組合せによって行う。
    1. 部門内容検討
      • (1) 各部門は変更管理項目について自部門内で検討を行う。
      • (2) 自部門で検討した結果は関係部門に対して通知する。
      • (3) 変更通知書の情報を受けた部門は、自部門の業務に与える影響を把握しその対応につき「受取側記入欄」等にて指示する。また、必要に応じ自部門の変更管理項目として取りあげる。
      • (4) 変更通知書の内容についてコメントがある場合は適宜担当部門にフィードバックする。
    2. 依頼検討
      • (1)他部門に対して協議依頼事項がある場合は、協議依頼先に依頼書を送付する。
      • (2)依頼を受けた部門は依頼事項を検討し、その結果を記述して担当部門に回答する。
      • (3)担当部門は回答内容により、必要あれば対策案等の見直しを行い関係部門に通知する。
    3. 会議体検討
      • (1)重要な変更管理項目について、各部門は関係部門の代表者を招集して会議体において検討できる。この場合既存の会議体を利用してもよい。
      • (2)担当部門は検討結果を記録にまとめ関係部門に通知する。
  • (指示)
  • 第6条各部門は変更管理により決定した事項を、手順書、図面等に反映し、指示書として発行する。
  • (評価)
  • 第7条各部門は変更管理による対策実施結果を評価し、以降の製品(業務)において必要な見直しを行う。
  • (管理確認)
  • 第8条各部門は変更管理のための管理台帳等を作成し、検討・指示・評価等の各段階において必要な措置が適切・確実に実施されていることを確認する。
  • (付則)
    1. この規程は2020年10月1日から実施する。
    2. この規程の改廃にあたっての立案者は品質保証部長とする。

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被監査職場責任者:今回問題になっているA製品については設計課長として責任を感じています。また、DR会議で指摘されたことがその後確実に設計課の中でフォローできているかというと、これも定かでありませんので進め方を見直ししたいと思います。
「設計審査標準 KDR105」規定も改善する必要があると同時に、業務のプロセスも確認します。いままでの議論からいろいろ我々の弱さが見えてきました。
「4M変更管理標準 KPT105」にも、設計課として該当することが規定されていますので、これについても検討しました。
ただ、「4M変更管理標準 KPT105」は、日常管理の中で変更が生じたときの対応について規定されていると考えます。日常の管理の中で設計変更の必要が生じた場合は「4M変更管理標準 KPT105」で対応します。今回のDRに関することは「設計審査標準 KDR105」に規定されるべきものですので、今回は「4M変更管理標準 KPT105」ではなく、「設計審査標準 KDR105」に絞って検討させていただきたいと思います。
内部監査リーダー:そうですね、内部監査とは別にチームを作ってDRの進め方について今後の進め方を検討しましょう。内部監査責任者にも検討に入っていただくようにお願いをしてみます。

(つづく)