044-246-0910
平林良人「ISO9001内部監査の仕方」アーカイブ 第1回
これは1994年に日科技連出版社から出版されたものです。以下は本書の趣旨です。
「第三者である審査登録機関が,6カ月おきに,審査登録した会社(組織)に対して立入調査をするのが代表的なフォローアップの仕組みであり,サーベイランスと呼称されている。審査登録を済ませた会社は,この仕組みによって半ば強制的に,確立した品質システムを見直しさせられる。しかし,外部からの圧力によって品質システムの見直しを実施するというのは,ISO 9000/JIS Z 9900シリーズ規格の本来の考え方ではない。ISO 9001 / JIS Z 9901規格の条項中に次の規定要求事項がある。
『「4.1.3 マネジメント・レビュー(経営者による見直し):執行責任をもつ供給側の経営者は,この規格の要求事項及び供給者が定めた品質方針及び品質目標を満足するために,品質システムが引き続き適切,かつ,効果的に運営されることを確実にするのに十分な,あらかじめ定められた間隔で品質システムの見直しを行うこと。この見直しの記録は,保管すること。』
このことを経営者は肝に銘じて内部監査を自分の代行として行うことを組織内に徹底することが肝要である。」
第1章
文書化された品質システム
1.1 品質の定義
- (1)品質とは
- われわれは“品質”という言葉を,日常生活のあらゆるところで,無意識のうちに用いている。品質という言葉に対して特別の定義付けもせずに使用している。
「あそこの店の品質はよい」という場合,多くは「あそこの店の製品の品質はよい」ということを意味している。まれに「あそこの店のやり方はよい」という意味で用いることもある。
この場合,“製品”と“やり方”の品質とでは,言っていることの意味は明らかに異なる。
あるいは「ハイビジョンTVの画像品質はよい」ということがある。既存のTVに比較して,ハイビジョンTVのほうが画像品質が絶対的に優れていることを指しているのだろう。
同じような例で「1等船室は品質が高かった」ということがある。これも2等3等船室に比べて,船室の仕様なども含めて接客品質が高かったことをいいたいのであろう。
しかしここでもし,コストという観点を含めて品質を考えた場合,ハイビジョンTVや1等船室は必ずしも高い評価を受けるとはいえないのである。次項で述べるが,コストの低いか高いかで自ずから品質に対する評価も異なってくるからである。
日常生活においては,このように多少曖昧な使い方をしても許されるが,品質システムを論じる場合には,まずこの“品質”という言葉の定義を明確にしておく必要がある。
ISO 8402においては“品質”を次のように定義している(ISO規格の訳語については,久米均編訳,『品質保証の国際規格』,日本規格協会発行,1994年を使用した)。
「ある“もの”の,明示された又は暗黙のニーズを満たす能力に関する特性の全体。
参考 文献によっては,品質は“使用適合性”又は“目的適合性”,若しくは“顧客の満足又は“要求事項への適合”とされることもある。……」
ここで“もの”とは,「“もの”,実在/アイテム」として「個別に記述され考慮されうるもの」。参考として「“もの”,実在とは,例えば以下のものである。/-活動動又はプロセス,/-製品,/組織,システム又は要員,/-これらの組合せ」と定義されている。 - (2)適合性とグレード(等級)
- 上の定義によれば,品質は“使用適合性”または“目的適合性”とされることもあると述べられている。これは,使用する者が望んでいるレベルあるは目的に“いかに適合しているか”で品質を測るという考え方である。
先のハイビジョンや1等船室は,既存のTVや2等船室,3等船室など,明らかにグレード(等級)の異なるものを比較した例である。日常生活のなかでは多く経験することだが,ロールスロイスと大衆車を比較しているようなもので,あまり意味はない。
グレード(等級)を,ISO 8402では次のように定義している。
「同一の用途を有するが品質要求事項が異なるような“もの”に対して与えられる区分又 は順位。
参考 等級は品質要求事項における計画した差異,又は認識された差異を表す。ここで強 調されているのは機能的用途及びコストの間の関係である。……」
品質を論じる場合には,必ずグレードを意識していなくてはならない。言い換えれば,品質を1つの価値として議論する場合は,もう1つの価値である価格(コスト)を同時に含めて議論しなければならないのである。 - (3)顧客からみた品質
- さらに品質は“顧客の満足度”とされることもあるという。
この場合の“顧客”とは,いったい誰のことを指すのであろうか。供給者からみた顧客には2種類のタイプがある。
1つは名前がはっきりしているタイプの顧客である。親会社,取引先,OEM先などはこのタイプに属する。こうした顧客との取引においては,品質は,ふつう顧客からの仕様書という形で明確に示される。顧客から示された品質は絶対的なもので,この場合,顧客の仕様書に書かれている仕様を実現すれば,顧客の満足度を上げることができる。供給者は,顧客の仕様をいかに実現するかに注力すればよい。このタイプの製品は特注製品(契約型商品)と呼ばれる。
これに対して,不特定多数の名前のはっきりしない第2のタイプの顧客がある。相手が不特定多数であるだけに,事前に顧客の満足する品質を明確に把握することはむずかしい。供給者としては,市場を調査するなり,時代の趨勢をはかるなりして,最大多数の満足するであろう品質を推測して決定しなければならない。しかし,いちど決定した品質も,競争相手の動向によって変更しなければならない場合もある。顧客の満足度は,市場にたくさん存在する競合製品のなかから相対的に選択され,決められるからである。この第2のタイプの製品は市場開発型製品(市場型商品)と呼ばれる。
ところで,顧客は,自分の使用する製品の品質がよければそれで満足する。たとえその製品が多数の不良の山のなかから生まれてきたものだとしても,顧客には関係はない。顧客の満足度とは,あくまでも顧客が使用するときの品質の善し悪しをいうのである。したがって,顧客の満足度には,供給者の行うアフターサービスの善し悪しは大きな影響を与える。
ISO 9000/JIS Z 9900シリーズ規格は,購入者が供給者に対して要求している品質システムであるから,基本的には,購入者自身が使用するときの品質がよければ,それで満足する規格であるともいえる。 - (4)供給者からみた品質
- さらに品質は“要求事項への適合”ともされる,とある。供給者は,要求事項が明確に示されている場合は,その要求事項にいかに適合させるかを考えればよい。
問題は要求事項が明確に示されているかどうかである。
先の第1のタイプの製品,すなわち特注製品の場合は,要求事項は顧客からの仕様書に明確に示される。しかし第2のタイプの製品,市場開発型製品は状況が異なる。不特定多数の顧客の要求事項を供給者が推測して決定しなければならない。市場に出そうとしている製品のねらいを明確にして,それにふさわしい品質を定めなければならない。製品によっては,法律で規制されている事項が存在するかもしれない。顧客が海外の場合は,海外市場の調査も行わなければならない。
ISO 9000/JIS Z 9900シリーズ規格では,供給者に対していくつかの規定要求事項を定めているが,こうした要求事項への合致性が“要求事項への適合”として,供給者の品質を決めることになる。
供給者の立場から品質をみた場合,“顧客の満足度”は当然であるが,それだけでは十分ではない。顧客にわたる最終製品の品質がよいというのは,いわば必要条件を満足しているだけである。十分条件として,製品を製造している工程中の製品の品質もよくなければならない。最終工程における検査で,あるいは全数選別して品質の確保をしているようでは,仮に顧客の満足は得られたとしても,供給者の品質の観点からは失格である。検査や全数選別からでは決してよい品質は得られないと同時に,コスト的に立ち行かなくなる。したがって,供給者は,工程のなかで,よい品質を作り込むシステムを考えていかなければならないのである。
日本ではこれまで,供給者(製造者,メーカー)側からの品質の作り込みが盛んに研究されてきた。この集大成が日本的品質管理と呼ばれるもので,これが戦後一貫して多くの企業で推進されてきたTQC,または全社的品質管理である。
1.2 品質管理と品質保証
- (1)品質管理とは
- ISO 8402には,今まで述べてきた“品質”を達成するための一般的活動として,次の3つの定義が述べられている。
「品質管理(quality management)品質方針,目標及び責任を定め,それらを品質システム の中で品質計画,品質管理手法,品質保証及び品質改善などによって実施する全般的な経営 機能のすべての活動。
品質保証(quality assurance)ある“もの”が品質要求事項を満たすことについての十分 な信頼感を供するために,品質システムの中で実施され,必要に応じて実証される,すべて の計画的かつ体系的な活動。
品質管理(狭義),品質管理手法(quality control 品質要求事項を満たすために用いられ る実施技法及び活動。」
品質管理と品質保証という言葉は,日本ではあまり明確な区別もなく使用されてきているが,ISOでは上の定義のようにはっきりと区別している。
品質管理には,品質のよい製品を作ることはもちろんのこと,不良品の予防,品質改善も含まれている。また適切な品質コストで生産を継続することも含まれている。この品質コストは,予防コスト,評価コスト,損失コストなどに分けて明確にし,測定される。
品質管理に関する責任はトップの経営者にあるが,望ましい品質を達成するためには,組織のすべての人の参加が必要である。
いかなる組織においても第1に関心をもたなければならないことは,そこで作り出される製品およびサービスの品質である。すべての組織は,品質管理を実施することによって,次のような製品およびサービスを提供していかなければならない。 - ① 顧客の要望,期待,用途,目的に適合していること。
- ② 社会の法的要求事項に適合していること。
- ③ 合理的なコストで生産し,経済的に競争力のある価格で供給していること。
- (2)品質保証とは
- 品質保証は,品質が確かであるという十分な信頼感を顧客に供することであるが,複雑な製品でないかぎり,製品を手にとるか使用してみれば,妥当な信頼感の判断はつく。このような製品の場合,品質管理と品質保証は同意語といってもよい。
間題は原子力発電所のような高度に複雑化した製品の場合である。しかも問題が発見されたときには大きな社会的影響を与えるこのような製品では,品質が確かであるという十分な信頼感を顧客に供することが極めて重要なことになる。この場合,製品ができ上がってから品質保証を考えるというのでは,顧客に十分な信頼感を供することはできない。設計から始まって製品の工程すべてについて品質保証のシステムが要求される。
製品が複雑になればなるほど顧客の品質保証への要求は強くなる。でき上がった製品の品質保証を求めるだけでなく,その製品を作り出す過程,工程の品質システムが信頼できる形で確立されているかどうか,それがきちんと維持実行されているかどうかが,要求されるようになる。すなわち,顧客からの,供給者品質システムへの規定要求事項の現出である。
従来,日本では,品質管理はいろいろな形で実行されてきた。QCサークル活動を初めとする業務改善活動や5S活動などの小集団活動も実行されてきた。その結果,実際に,他のどの国よりも品質のよい製品を市場に送り出すことに成功してきた。
しかし,今日のISO 9000/JIS Z 9900シリーズ規格が要求していることは,良質の製品を市場に送り出す品質管理を実行することだけでなく,「品質が確かであるという十分な信頼感を顧客に供する」品質保証の実行である。
品質保証を効果的に行うためには,通常,意図した使い方のための設計または使用の妥当性に影響を与える要素を常時評価するとともに,製造,据付け,および検査作業の確認と監査も必要である。信頼感を与えることには証拠を残す活動も含まれる。