平林良人「ISO9001内部監査の仕方」アーカイブ 第8回

これは1994年に日科技連出版社から出版されたものです。以下は本書の趣旨です。
「第三者である審査登録機関が,6カ月おきに,審査登録した会社(組織)に対して立入調査をするのが代表的なフォローアップの仕組みであり,サーベイランスと呼称されている。審査登録を済ませた会社は,この仕組みによって半ば強制的に,確立した品質システムを見直しさせられる。しかし,外部からの圧力によって品質システムの見直しを実施するというのは,ISO 9000/JIS Z 9900シリーズ規格の本来の考え方ではない。ISO 9001 / JIS Z 9901規格の条項中に次の規定要求事項がある。
『「4.1.3 マネジメント・レビュー(経営者による見直し):執行責任をもつ供給側の経営者は,この規格の要求事項及び供給者が定めた品質方針及び品質目標を満足するために,品質システムが引き続き適切,かつ,効果的に運営されることを確実にするのに十分な,あらかじめ定められた間隔で品質システムの見直しを行うこと。この見直しの記録は,保管すること。』
このことを経営者は肝に銘じて内部監査を自分の代行として行うことを組織内に徹底することが肝要である。」


3.4.3 監査におけるコミュニケーションの役割
コミュニケーションは監査活動をスムーズに行うために必要不可欠なものである。監査という,ともするとお互いが対立しやすい状況下では,協力が得られずコミュニケーションがうまくいかない,ということは致命的である。批評家としての監査員の言動は,被監査者に守りの姿勢をとらせるだけである。そんな状況のなかではコミュニケーションはうまくいかない。
われわれは,どうやってこの課題を監査員自身の言葉と行動で,最小限にすることができるのかを考えていかなくてはならない。
書くことと話すことは,監査過程におけるコミュニケーションとして,最も頻繁に行われる手段である。いろいろな種類のコミュニケーションが監査過程で応用される。

  • (1)監査準備
  • 監査の範囲と目的,時間は関係者のあいだで十分に根回しされることが大切である。監査員は自身の詳しい要求を,被監査者にとって十分準備時間があるように設定して,連絡文書で知らせる。被監査者は,その設定が受入れ可能であれば,その旨を連絡文書で出す。最終的に,監査計画が実施可能なものと同意されれば,計画が正式にスケジュールに組み込まれて被監査者に連絡される。
  • (2)事前監査または初回会議
  • 監査に参加するすべての人が,事前監査または初回会議において,監査員と被監査者としての立場で新しい出会いをする。両者にとって大切な機会で,ここで交わされる情報と会話は,その後のコミュニケーションに重要な影響を与える。
  • この打ち合せの結果は,議事録として文書にしておかなければならない。そして,打ち合せに出席できなかった,監査のある領域に責任を持つ者には,この議事録を配布して「事前打ち合せ」の内容を承知させておく。文書化された議事録は,この打ち合せをより建設的かつ実質的なものにするために有用である。
  • (3)監査活動
  • 監査活動中に集められたあらゆる情報は,監査結果の決定に用いられる。したがって,監査活動中に交わされる会話によるコミュニケーションは,監査活動成功のために非常に重要なものとなる。
  • 監査員のコミュニケーション技能はこの局面で厳しく試される。監査員にとっては,この段階で明確になった課題(不適合を含む)が,被監査者によって同意されていることが大切でそのため被監査者のサインをもらっておく。また発見事実は,正確な記録とするためにノートにとっておく。チェックリスト/質問書を使うと,結果の記録の保持と監査を順当に進めることに役立つ。
  • (4)発見事実の見直し
  • 是正処置が必要な発見事実は,即刻関係者に報告(連絡)されるべきである。監査員が即刻,不適合の是正処置をとらせれば,監査は両者にとってよりメリットのあるものになる。ただし,暫定処置をとっただけでは,是正処置が終ったことにはならないことに注意をする必要がある。
  • 対策に時間がかかるものの場合は不適合の報告がなされる。この報告書に不可欠な情報は,参照番号と日付,誰が誰に発行したか,不適合の記述と該当する規格条項,あるいは標準書名,被監査者の不適合への同意(誰がいつ),推奨する対応策,対応策への同意(いつと上司の承認)などである。
  • また,幾日間かにわたる監査によって発見された事実の一覧は,最終会議で,改めて「まとめた形で」確認されることが望ましい。こうした記録は会社の定めた基準にしたがって保管されなければならない。
  • (5)最終報告とミーティング
  • 監査終了時の最終会議のやり方は,監査の目的,特に監査員の役割(内部,外部,第二者,第三者)によっていろいろある。ここでは一般的に用いられるやり方について説明する。
  • この段階での報告や発表は,監査を通じて発見された“客観的事実”に基づいていなければならない。指摘された不適合が客観的事実として,監査中に被監査者によってすでに理解同意されていれば,この段階で両者のあいだで議論になることはない。不適合が事実として認められていれば,引き続くコミュニケーションに影響を与える感情的な障害は起こらない。今後のフォローアップ活動を進めるにあたっても,客観的な発見事実であるという両者間の了解は,良好なコミュニケーションの基盤になる。
  • 最終会議においては,チェックリストに基づいてすでに文書化された発見事実のまとめと,それに対する是正活動が議論される。このとき,監査チームのリーダーによってなされる被監査者への説明は大変重要である。監査で発見された客観的事実に基づいた十分に説得力のあるコミュニケーションが必要である。

3.4.4 効果的なコミュニケーションヘの案内
 コミュニケーションの準備に時間をかけることは潜在的な障害を避けるためであり,重要な要素である。

  • (1)目的
  • コミュニケーションの目的または目標をはっきりさせる。たとえば,あなたは相手からどんな反応を得たいと思っているのか?記述することか?説明することか?図解することか?説得することか?情報を探すことか?伝えることか?行動を起こすことか?
  • (2)相手の分析
  • コミュニケーションについて受信者に関することで知っていることをすべて考える。相手が知らない人なら情報を集める。年齢は?背景は?経験は?そして知識はどうなのか?
  • 彼らの心理と物理的環境がコミュニケーションにおいてどのように影響するのだろうか?大きく影響するのか?彼らのニーズ,責任,期待にそえる返事はできるだろうか?彼らの地位は何か?それはあなたよりも上なのか下なのか?こうした情報を事前に収集しておくことは,知的ギャップ・感情的障害を避けるのに非常に有効である。
  • (3)情報の提示
  • 情報は論理的に提示する必要がある。たとえば,重要度にしたがって,運営順に,場所順に,時間順に,など。概要と一般事項から始め,だんだん必要項目の特質,例示などの詳細に入っていく。説明中は聞いている人の興味をとらえ続けるようにしなくてはならない。話の筋の進み具合(スピード)は大切である。
  • 聞いている人にコメントや議論をさせて参加者を巻き込みながら説明をしていくことも大切である。積極的に聞き手を参加させることにより,相手が持っている能力以上に効果的に興味を引くことができる。聞き手がかつて経験した話題などを材料に使うと,より理解をしてもらえる。これに失敗すると,先に述べたような知的ギャップの障害に陥る。
  • (4)メディアの選択
  • コミュニケーションを有効に進める手段としていくつかの方法が考えられる。目標に対してどんなコミュニケーションの様式を選ぶかは大切なことである。
  • 書くコミュニケーションは,話すコミュニケーションより選択の幅が広いが,話すコミュニケーションと同様な注意を必要とする。書くコミュニケーションとして利用できる例には,報告書,会議録,ハンドブック,メモランダム,指示用紙,プレゼンテーション用紙(OHP)などがある。話すコミュニケーションの様式としては,講義,提案,面接,集団討議,打ち合せなどがある。
  • 相手の姿勢を変えることに目的があるときは,個々で議論をするよりも,集団討議の形がより効果的である。
  • (5)応答をする,させる
  • コミュニケーションの目的はある種の応答を相手から引き出すことにある。したがって,自分の望むような応答を相手がしてくれたかどうか考えねばならない。同意をするか? 何か行動を約束するか? 理解はされたか? どのようにしてチェックされるのか? など。
  • 希望する応答が得られるかどうかは,今までに述べた多くの要因にかかっている。第三者から,客観的に,よいコミュニケーションと評価してもらえるかどうかは,発信者の能力がどの程度あるかにかかっている。発信者が一歩立ち止まり自分自身を見直すことによって,また受信者が偏見のない観察者の目で物事に対応することで,お互いの応答がうまくいく。「この形でのこの発信は,この意味でこの聞き手に受け入れられるか」といった自問自答をしてみるとよい。