前回はISOマネジメントシステムの認証制度の信頼性がどのようにして確保されているかのお話をしました。審査をする認証機関の活動は、その上部団体である認定機関が管理監督しているというお話でしたね。

 そうそう、前回一つお話を漏らしていたのですが、ISOの認証を取得すると社員の皆さんの名刺にISO認証取得したことのアピールとしてマークを入れられる組織も多いと思います。その際に、認証機関のマークだけが入れられている名刺をお見掛けするときがあるのですが、厳密にいうとこれはよろしくありません。マーク規定というものがあって、認証機関から取得した際には、その背後にある認定機関のマークも同時に表示するのがルールなのです。マークが2つも並ぶのは名刺の限られたスペースでは避けたいところではあるのですが、その認証機関がどこから認定されているか、を表示することによって本来であれば第三者から見たその取得した認証の意義がわかる、ということなのです。特に海外企業との取引のある会社の方はお気をつけください。

 さて、前置きが長くなってしまいました。
 今日のテーマの審査員のお話に移りましょう。

 認証機関が認証取得を希望する組織を審査するわけですが、その際に実際に現地に出向くのが審査員です。認証機関に所属する人であればだれでも行って審査ができるというものではなく、これも国際的に定められたルールに基づき力量認定された人が審査員として審査現場に出向くことになります。

 現在はこのISO審査員には3つのグレードがあります。上位から言うと、主任審査員、審査員、審査員補の3つです。
 審査をする際には必ず主任審査員資格を持った人が審査を主導し、責任をもって審査結果を出す必要があります。複数名で審査を行うときには一人以上の主任審査員がそのメンバー内にいますし、審査員が一人で相手組織に出向いて審査を行う際には、必ずその人が主任審査員資格を持っている人である必要があります。
 主任審査員に求められる力量は、単に審査ができれば良い、というものではなく、審査計画を作る、審査現場の時間管理を含めてマネジメントを行う、チームメンバーがいればその統率を行う、審査の結果を出し、その結果に責任を持つ、そして報告書を書き上げる、万が一不適合(不具合)が発生すればその是正処置対応まで責任をもって見届ける、という様々な役割があります。単に知識を持っていればよいわけではなく、様々な社会経験を持った人でないと主任審査員を務めるのは難しいのです。

 今回は、エントリーレベルの審査員補についてのお話をしましょう。
 審査員補の資格は、何も審査業務を行う方だけが取得しているものではありません。
 えっ!と驚かれましたか?
 そうなんです。日本の産業界においては、現在審査員補の資格をお持ちの方がISO9001(品質)で約5,000名程度います。その大半は認証機関に所属しているのではなく、認証を取得している組織の側にいらっしゃる方なのです。審査をするのではなく、審査を受ける立場の方々ということなのです。
 何で審査を受けるのに審査員の資格を持っているの?と疑問におもわれた方もいらっしゃるでしょう。ごもっともです。審査を受ける際に審査員資格を持っていないといけない、ということは全くありません。審査を受けるときには、組織がしっかりとISOの要求事項に基づく組織の仕組みを作り、運営をしていればよいわけですから。

 ではなぜ、特にISO事務局がいらっしゃるような組織規模の会社(要するに大企業です)では、ISO審査員の資格を取得されている方が多いのか、それは審査で有利に作用するからではなく、しっかりとした仕組みを自分たちで構築する際に、ISO事務局の方の力量向上に審査員資格取得が役に立つからです。

 ISOの審査員資格取得のためには、その専門教育を行っている研修機関の研修コースに参加し、最後にある試験に合格しなければなりません。
 殆どの研修機関では、平日の5日間連続のコースでこの審査員になるための研修コースを行っています。毎日夜遅くまで研修を行い、最終日には2時間にも及ぶ試験があります。とは言え、決してこのISOの審査員資格取得は弁護士資格取得のような難関資格ではありません。全くISO規格を見たこと、読んだことがない方が審査員研修コースを受講した場合は、合格はかなり厳しいでしょうが、事前に規格の自主勉強をそれなりに行って、コース実施中も晩酌を控えて、復習をしっかり行えば、多くの方が合格できるレベルです。
 しかし手を抜いた方、あるいは審査員として必要な力量を身に付けられなかった方は残念ながら不合格になるケースも毎回のように出ています。なめたらあかん、ということですね。

 今日は最後に少しご案内です。

 テクノファで実施している審査員資格取得の講座は下記のもの等があります。ご興味のある分野については調べてみてください。

 尚、テクノファ以外でも審査員研修コースを実施している機関はあります。
 私たちの業界団体の集まりがありますので、そちらのホームページも見ていただくとよいでしょう。
 JATA(審査員研修機関連絡協議会)