ISO9001キーワード  コミュニケーション2 | 平林良人の『つなげるツボ』

2025年3月26日
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■□■ 平林良人の『つなげるツボ』Vol.502 ■□■
― ISOマネジメントシステムのテクノファ ―
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*** ISO9001キーワード  コミュニケーション2 ***
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ISO9001箇条7.4に要求されている「コミュニケーション」についてお話をして
います。

7.4 コミュニケーション
組織は,次の事項を含む、品質マネジメントシステムに関連する内部及び外部の
コミュニケーションを決定しなければならない。
a) コミュニケーションの内容
b) コミュニケーションの実施時期
c) コミュニケーションの対象者
d) コミュニケーションの方法
e) コミュニケーションを行う人」

■■ コミュニケーションの方法 ■■
「b) コミュニケーションの実施時期」、「c) コミュニケーションの対象者」につ
いては、「a) コミュニケーションの内容」が明確になれば自ずから決まってくる
ので、次の「d) コミュニケーションの方法」についてお話をします。
コミュニケーションの方法は言語(対面)とツール(非対面)によるものに分か
れます。ツールは電話、メール、インターネット、SNSなどを指しますが、近年
になって飛躍的に種類が増え、性能も向上しました。ツールによるコミュニケー
ションはここ数年大きな問題になっています。SNSなどによる誤情報(フェイク)
の流布ですが、ここではそうした近年のツールは横に置いておいて、言語(対面)
によるコミュニケーションについて話したいと思います。決してツールに課題が
ないとは思いません(それどころか大きな課題を持っている)。ツールは社会的
な課題へと拡大していきますので、組織内に絞る意味でまたの機会に話してみた
いと思います。

さて、言語(対面)によるコミュニケーションは大変重要な目的、意義、結果を
含んでいます。多くの人にとって対面によるコミュニケーションは効果的に行え
ば大変有用なものになりますが、反対に逆効果になることも少なくありません。
人と人が対面で行うコミュニケーションの原則はたった2つのことです。次の2
つについて留意すればよいのですが、人間は思惑、損得、作戦、計画、感情など
多くの特性を持つ生き物ですから、それらは場合によってはコミュニケーショ
ンの阻害要因となって、単純に2つのことを実践することが大変困難になる場合
が多くあります。
 1.相手の言うことを聴く。
 2.自分の思っていることを伝える。
この2つのことを上手にやることができればコミュニケーションは飛躍的に効果
的なものになります。

■■ 相手の言うことを聴く ■■
お互いの会話がよくかみ合わないということがあります。その原因のほとんどが
相手の言うことをよく聴いていないからだと言われます。「聴く」という字は耳
偏にプラスして目と心を作りに含んでいます。ただ、目が横に寝ているのが玉に
傷ですが・・・・。
門構えの「聞く」は耳に音が入ってくる物理的な現象であると言われています。
街を歩いていると自動車の音の否が応でも耳に入ってくることを指す言葉だとい
います。
それに対して「聴く」は、耳をそばだてて、目でよく観察して、心で相手の真意
を探る言葉だというのです。対面によるコミュニケーションにはこの「聴く」姿
勢が非常に重要だと多くの識者が説いています。私も数十年前にこの話を聞き、
できるだけ実践しようと思っていますが大変エネルギーを使う行為であり、なか
なか思うようにいきません。

■■ 自分の思っていることを伝える ■■
一方で、自分の思っていることを相手に伝えることも大変難しいことです。自分
と相手とは基本的に違う考えを持っているものと考えなければなりません。相手
がどんな考えでいるのかは最初の数分で分かる場合が多くあります。自分の考え
と相手の考えとの違いを知り、自分が考えていることとのギャップを把握するこ
とがポイントになります。相手の考えに分がある(有利である、優勢である、う
まくいきそうである)場合もありますし、そうでない場合もあるでしょう。前者
においては自分の考えは若干控えめにし、相手の意見を補強するものにします。
そうすることで、相手の考えを優先第一にすることがコミュニケーションのポイ
ントになります。後者であれば、自分の考えのメリットを相手に上手に伝えるこ
とが必要です。その場合、相手の立場から見てどこに課題があるのかを考えて、
その部分を重点的に説明することで相手とのギャップを埋めていくことがポイン
トになります。
自分を主張はするところはするのですが、それはあくまでも自分の考えに分があ
る場合と部分についてだけです。

ISO9001キーワード  コミュニケーション | 平林良人の『つなげるツボ』

2025年3月19日
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■□■ 平林良人の『つなげるツボ』Vol.501 ■□■
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*** ISO9001キーワード  コミュニケーション ***
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今回からはISO9001箇条7.4に要求されている「コミュニケーション」について
お話をしていきたいと思います。

7.4 コミュニケーション
組織は,次の事項を含む、品質マネジメントシステムに関連する内部及び外部の
コミュニケーションを決定しなければならない。
a) コミュニケーションの内容
b) コミュニケーションの実施時期
c) コミュニケーションの対象者
d) コミュニケーションの方法
e) コミュニケーションを行う人

■■ 組織活動の基盤 ■■
コミュニケーションはいつの時代にも求められる古くて新しい課題です。人間は
一人では生きていけませんから、何らかの形で他人と協力しながら生きていかな
ければなりません。家族から学校、地域社会そして会社でとあらゆるところでコ
ミュニケーションが求められます。
ISOでも9001をはじめ、9000、そして9004規格でコミュニケーションに関する
指針、要求が規定されています。9001:2015年版では従来からの要求を一歩深め
てa)~e)までに細分化されました。
2015年版まではISOでのコミュニケーションは「朝会、会議、メール」が3大コ
ミュニケーションとして囁かれ、審査機関もマニュアルにどれかが書かれていれば
問題にしないという時代が続きました。

しかし、2015年版では要求が深くなりました。組織にはあらゆるところに解決し
なければ問題があります。問題解決には、まず何が今解決を求められている問題な
のかを明確にする必要があります。「a) コミュニケーションの内容」は問題を明確
にしていると自ずから決まると思います。

■■ 階層、業務の性格 ■■
「a) コミュニケーションの内容」には、階層、業務の性格によって次のようなも
のがあります。
1)経営層が行うコミュニケーション
  ・年度事業計画
  ・中期経営計画
  ・社内年次イベントでの方針説明 など
 「7.4 コミュニケーション」では品質マネジメントシステム(QMS)に関連する
 内部及び外部のコミュニケーションを要求しています。箇条の記述ではQMSと
 はなっていますが、EMSもOHMS、あるいはISMSも含め会社全体に関しての
 内部及び外部のコミュニケーションと考えてよいと思います。
 その意味では外部コミュニケーションとして、
  ・機関投資家への業績報告 
  ・株主総会報告
 は経営層が行うコミュニケーションには必須であると思います。以下の2)、3)に
 は外部のコミュニケーションの機会は少ないと思います。
 
2)部・課長が行うコミュニケーション
 部・課長のコミュニケーションで圧倒的に重要なものは部下とのコミュニケーシ
 ョンです。日常の業務を通じて指示、報告などの巧拙は業務結果のパフォーマン
 スに大きく影響を与えます。
 また、業務の成果に対する評価もコミュニケーションのあり方によって不満、そ
 うでもない、理解したというような結果になり、このことが次の業務へのモチベ
 ーションの多寡に繋がります。

2)監督者が行うコミュニケーション
 建設現場、工場現場におけるコミュニケーションは労働環境から大きな影響を受
 けます。暗い、うるさい、暑い、寒い、防護服・靴・マスク着用などの現場では、
 事前のコミュニケーションの他に作業中のコミュニケーションに阻害要因となる
 ものが多々あり、それらの阻害要因をクリアする工夫が大変重要です。
 例えば、建設現場で高所クレーンを扱う場合、クレーン操作者とクレーン末端の
 玉掛けをする作業者との間の通信によるコミュニケーションは事故防止の観点か
 ら、重複したコミュニケーションが必要になります。
 「b) コミュニケーションの実施時期」、「c) コミュニケーションの対象者」、
 「d) コミュニケーションの方法」、「e) コミュニケーションを行う人」について
 は次回お話をしたいと思います。

第31回テクノファ年次フォーラム―気候変動4 | 平林良人の『つなげるツボ』

2025年3月12日
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■□■ 平林良人の『つなげるツボ』Vol.500 ■□■
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*** 第31回テクノファ年次フォーラム―気候変動4 ***
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このメルマガの第1号は、2008年12月「マネジメントシステムはつながって
いますか」というタイトルで発信させていただき、それがメルマガの嚆矢(こ
うし)となりました。それから16年経って今般500号となりました。
振り返ってみて、我ながらよく続いたと思います。これは読者の皆様から折に
触れてご質問を含む叱咤激励を頂いた賜物です。中には私の記述の誤りを指摘
していただいたVol.もあり、毎回緊張をしながら発信させていただいてきまし
た。今後ともどうぞ宜しくお願いします。

■■ 第31回テクノファ年次フォーラム ■■
2025年3月5日、新橋の新虎通り(旧称マッカーサ通り)のビルで第31回テ
クノファ年次フォーラムが開催されました。今年のテーマは「サステナビリティ
へのISOマネジメントシステムの対応」でした。登壇者には、JAB専務理事
森内譲氏、東京大学名誉教授 山本良一氏、(株)SUBARU/JAQG規格検討WG
主査 小田晴信氏を迎えての盛大なイベントとなりました(参加者1000名、WEB
含む)。ここでは山本先生の講演を抜粋してお伝えします。山本先生からは、地
球環境が一刻の時間余裕もないほどに逼迫した状態になっていることをいろい
ろな事実、論文、科学的データを駆使しての講演いただきました。
以下は、先生の講演の中からの抜粋で、ぜひ皆様方にも知っていただきたいと
思います。

■■ トラファルガー広場に出現したCO2風船 ■■ 
CO2の排出削減といいますが、私たちはCO2 1トンという量をよく知りませ
ん。2021年のCOP26はイギリスグラスゴーで開催されましたが、CO2 1トン
の入った風船がトラファルガー広場に展示されました。
なんとそれは直径10メートルの球体でした。驚くべきはこの巨大な風船が毎日
1億個も地球上から放出されているという事実です。
2020年の世界のCO2排出量は約314億トンです。一日当たり約1億トンのCO2
が排出されているのです。10メートルもの巨大な風船が1億個とは想像がつきま
せんね。
データで見る温室効果ガス排出量(世界) | JCCCA 全国地球温暖化防止活動推進センター

■■ 森林の吸収量  ■■ 
一方で地球上にはこれまた巨大な森林が存在します。2019年のデータでは世界
の1年間の森林のCO2吸収量は約156億トンだそうです。したがって、データ
の年度は違いますが、前項CO2排出量との関係からCO2排出量の約50%は森
林が吸収しているという計算になります。
環境省 000148802.pdf
では、排出されたが吸収されずに大気中の残ったCO2はどうなるのでしょうか。

■■ 大気中に放出されたCO2は永遠に存在する ■■ 
2007年に出された第4次IPCC報告書によると、放出され森林に吸収されずに
残ったCO2の約半分は30年掛かって宇宙に放出されるということです。あと
半分は数世紀から数千年の間大気中に残留するのだそうです。
したがって、長年放出されたCO2は大気中に留まり空気中のCO2濃度を上げ
ていることになります。
温室効果ガス世界資料センターの解析による2020年の世界のCO2
平均濃度は、前年と比べて2.5ppm増えて413.2ppmとなっています。工業化
(1750年)以前の平均的な値とされる278ppmと比べて、約50%増加してい
ます(ppmは大気中の分子100万個中にある個数を表す単位)。
CO2濃度が高くなるにつれて、人間の呼吸器には健康被害が出始め、濃度が
20% (200000ppm) になると死に至るとされています(窒息死)。現在の状況で
は致死量に至ることは考えられませんが、健康への影響でCO2濃度は、オフィ
スや住宅では1000ppm以下、学校や教育機関では1500ppm以下とすべき努力
義務があります(建築物における衛生的環境の確保に関する法律)。密閉された
空間ではある程度の頻度での換気が必要とされる所以です。

■■ 温暖化で蓄積された熱はどこに行っているのか ■■ 
山本先生によると450ppmに濃縮されたCO2はビニールハウスと同じ現象で
(太陽からの熱を地球が反射して宇宙に放出する量を多く捕捉して)地球を暖
めているのだそうです。地球表面に蓄積された熱の89%は海に蓄積されている
そうです。その他、6%は陸に、4%は氷河に、1%は大気に蓄積されていると
いうデータが示されました。
このエネルギーの蓄積による影響はいたるところに現れ始めているということ
です。最近の事例が講演で話されました。
 ・2024年 スペイン バレンシア州の豪雨 8時間の間に1年分の雨が降
      ったため大洪水が起こり217名死亡
 ・2024年 アメリカ海洋大気庁発表 世界の1600カ所以上で歴史上最高
      気温を記録、南極・北極の氷の融解で水が赤道付近に集まり地
      球自転速度を遅くしている。そのため1日の時間が長くなって
      いる。
 ・2025年 アメリカ カリフォルニア州 森林火災 18万人避難、24名
      死亡、岩手大船渡市森林火災

■■ ティッピングポイント ■■
ティッピングポイント(Tipping Point)とは、あることが敷居を超えて一気
に野火のように広がる劇的な瞬間のことを言うのだそうです。この言葉は、
1970年代にアメリカで普及した言い回しで、アメリカ北東部の比較的古い都
市に住む白人の市外への脱出を示す言葉だったという。ある特定の区域に住
むアフリカ系住民がほぼ20%を超えるとその地域に残っていた白人が一斉に
町を出ていく社会現象を指していたのだそうです。
何人かの学者が「地球はもう戻れないところに来てしまった可能性がある」
と警告しています。
 ・アマゾンの熱帯雨林での高頻度の干ばつ
 ・北極海の海氷の縮小
 ・サンゴ礁の大規模な死滅
 ・グリーンランド氷床の加速度的な減少
 ・永久凍土の融解

ISO9001キーワード 外部・内部の課題―気候変動3 | 平林良人の『つなげるツボ』

2025年3月5日
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■□■ 平林良人の『つなげるツボ』Vol.499 ■□■
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*** ISO9001キーワード 外部・内部の課題―気候変動3 ***
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IPCC評価報告書の最新版は6次報告書です。2021年~2022年にかけて第6次
評価報告書が発行されました。気候変動のリスク抑制の中心となるのは、大幅
かつ持続的な温室効果ガス(GHG)排出量の削減です。

■■ IPCC第6次評価報告書 ■■
GHG排出の抑制は温暖化のスピードだけでなく、その規模を縮小させることに
なることから、気候変動への適切な対応に使える時間は、場合によっては、数
十年増加します。
しかし、温暖化を2度以内に抑えるという各国政府が設定した目標を、達成す
るためには大幅な排出量削減をしなければなりません。GHG排出の抑制を今後
数十年間で実現する道はいくつか存在します。第6次報告書によると、追加的
な抑制をもし2030年まで先延ばしにすれば、技術的、経済的、社会的、制度
的課題は大幅に増大することになります。
「技術的に見て、低炭素経済への移行は実現可能です」。IPCC 第3作業部会の
ユバ・ソコナ共同議長は、こう述べています。「しかし、適切な政策と制度が欠
けています。行動を遅らせれば遅らせるほど、気候変動に適応しこれを緩和す
るための費用は高くつくことになります」。

■■ 気候変動への緩和処置 ■■
第6次報告書によると、気候変動緩和措置を講じない場合、21世紀の世界の経
済成長率は年率1.6%~3%成長と見込まれています。この経済成長率を鈍化させ
て意欲的な気候変動緩和措置を講じることが重要なのです。気候変動緩和措置
としてGHG排出削減を進めた場合、成長率は約0.1%低下すると見られていま
す。
0.1%の経済成長率の鈍化であれば、GHG排出削減を確実に進めて行くべきであ
るというのがソコナ共同議長の主張ですし、また多くの専門家が考えているとこ
ろです。
ソコナ共同議長は「取り返しのつかない気候変動の影響という甚大なリスクに
比べれば、経済鈍化は対応可能なリスクである」と語っています。
しかもこうした気候変動緩和費用の経済的推計は、気候変動緩和による利益も、
健康や暮らし、開発に関連する数限りない副次的利益も考慮していないという
ことです。
「気候変動対策を優先課題とすることの科学的論拠は、これまで以上に明確に
なっている」とラジェンドラ・パチャウリIPCC議長(故人)は語りました。
「温暖化を2度以内に抑えるチャンスが無くなるまで、残された時間はほとん
どありません。対応可能な費用で、温暖化を2度以内に抑えられる可能性を十
分に保つためには、2010年から2050年までに全世界の排出量を40~70%減少
させるとともに、これを2100年までにゼロとすべきです。私たちにはそのチャ
ンスと、選択の余地が残されているのです」

■■ 包括的評価―統合報告書 ■■
第6次報告書の前に出されたIPCC統合報告書はパチャウリ議長のリーダーシ
ップにより執筆されました。単一作業部会からの報告書に比較すると、数ある
作業部会の報告書を統合するには多くの時間と労力がかかります。作業部会ど
うしの調整をする必要があるからです。IPCC のメンバー195カ国の政府が承
認した概略に基づき、過去14カ月の間に、「自然科学的根拠」(2013年9月)、
「影響・適応・脆弱性」(2014年3月)、「気候変動の緩和」(2014年4月)と
いう3つの作業部会報告書が発表されていますが、これらを統合したものが
IPCC統合報告書です。

IPCCの報告書は、気候変動を調査する学術関係者による長年の研究を基に作
成されています。3つの作業部会による報告書は、幅広い科学的、技術的、社
会経済的な見解と専門知識を有する80カ国以上の830人を超える執筆者が作
成しました。担当編集者は1,000人を超える寄稿者の支援を受けましたし、査
読、見直しのプロセスでは、2,000人を超える査読専門家が知見を提供してい
ます。統合報告書の作業を可能にしたのは、統合報告書技術支援ユニットによ
る貢献と熱心な取り組みがあったからだと言われています。

■■ IPCC批判 ■■
第6次報告書で一定の評価を得たIPCCですが、第5次報告書にいたるまで世
界のあちこちでIPCC批判がくすぶっていました。IPCCは気候変動という「人
為的とは決めつけられていない現象をあたかも経済活動のためである」として
世界の人々を不当に煽り、自分たちの活動への評価を上げさせ莫大な研究費を
かすめ取っている、といった類の批判が代表的なものでした。中にはパチャウ
リ議長への批判もあり、IPCCの運営について独立委員会が設置されることにな
ったのです。これは温暖化問題に関する「報告書に誤りがあった」ことが指摘
された問題で、パチャウリ議長は次のような声明を発表しました。声明では
「批判を受けていること、応対する必要があること」を認識しているとして重
要な結論は「数千の専門家の評価や独立した研究からの圧倒的多数の証拠に基
づいている」と指摘し報告書(第4次報告書)の正当性を主張しました。
出典 www.ipcc.ch

ISO9001キーワード 外部・内部の課題―気候変動2 | 平林良人の『つなげるツボ』

2025年2月26日
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■□■ 平林良人の『つなげるツボ』Vol.498 ■□■
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トランプ大統領はパリ会議の約束を履行せず、アメリカが気候変動枠組条約から
脱退することを主導しています。そして、気候変動問題などはない、石炭石油を
もっと掘れ、CO2の排出など気にすることはない、と世界のリーダーとしては不
適切な言動を続けています。本当にそれでよいのでしょうか。政治的な思惑には
とらわれず、科学的な見解を知っておくことが大切であると思います。

■■ IPCC ■■ 
気候変動に関する政府間パネル(Intergovernmental Panel on Climate Change)
という先進諸国の政府間ネットワークがあります。40年前くらいに設立され、気
候に関する専門家2~3000名くらいでつくる、地球温暖化についての科学的な研
究の収集、整理のための政府間機構です。学術的な機関であり、地球温暖化に関
する最新の知見の評価を行い、対策技術や政策の実現性やその効果、それが無い
場合の被害想定結果などに関する科学的知見の評価を提供しています。原則5年
おきに研究報告書を発行していますが、20年位前までは気候変動は人為的なもの
であるという説明と太陽活動の活発度など自然の変動によるものであるという説
明が併記されていました。しかし、2007年発行の第4次評価報告書からは、気候
変動の要因は人為的なものである、と一本化されました。
IPCCが発行する「評価報告書」(Assessment Report)は地球温暖化に関する世
界中の専門家の科学的知見を集約した報告書であり、国際政治および各国の政策
に強い影響を与えています。

■■ IPCC第4次評価報告書 ■■
第4次評価報告書には次のような科学的知見が記述されており、結論として人為
的な活動の結果地球温暖化は急速に進んでおり、早急かつ大規模に手を打つこと
が喫緊の課題であると緩和策の必要性を強く認識させる内容となっています。

1.我々を取り巻く気候システムの温暖化は決定的に明確であり、人類の活動が
直接的に関与している。

人間による化石燃料の使用が地球温暖化の主因と考えられ、自然要因だけでは説
明がつかないことを指摘しています。
第一作業部会報告書:自然科学的根拠

2.気候変化はあらゆる場所において、発展に対する深刻な脅威である。

気温や水温の変化や水資源、生態系などへの影響のほか、人間の社会に及ぼす被
害の予測結果についての評価しています。
第二作業部会報告書:影響・適応・脆弱性

3.地球温暖化の動きを遅らせ、さらには逆転させることは、我々の世代のみが
可能な(defining)挑戦である。

気候変動の緩和策の効果、経済的実現性と、温室効果ガスの濃度別に必要な緩和
策の規模や被害等の分類などの評価をしています。
第三作業部会報告書:気候変動の緩和策

■■ IPCC第5次評価報告書 ■■
IPCC 第5次評価報告書が完結:気候変動は取り返しのつかない危険な影響を及ぼ
すおそれがある一方で、その影響を抑える選択肢も存在 | 国連広報センター

第5次評価報告書は2013年から2014年にかけて公表されました。この評価報
告書では、さらに明確に温室効果ガス(GHG : Green House Gas)の排出をはじ
めとする人為的要因が、20世紀中盤から観測されている温暖化の主因であるとい
う事実を指摘しています。
報告書は、温室効果ガスの排出が続けば、さらに温暖化が進むだけでなく、気候
システムを構成する全要素の恒久的な変化が生じ、社会のあらゆるレベルと自然
界に幅広く、深刻な影響が及ぶ公算が大きくなるという調査結果を示しています。
IPCCパチャウリ議長はこう語ります。「個々の主体が別々に自己の利益を追求し
ていては、気候変動への取り組みはできません。そのためには、国際協力を含む
協調的な対応が絶対に必要です」。
「私たちの評価によれば、大気と海洋の温暖化が進み、雪と氷の量は減少し、海
水面は上昇し、二酸化炭素の濃度は少なくとも過去80万年で最高の水準にまで
上昇しています」。
統合報告書は、気候変動の影響が世界各地で表れ、気候システムの温暖化がはっ
きりと進んでいることを確認しています。1950年代以来、観測された変化の多く
は、過去数十年から数千年にわたって見られない規模に達しています。しかし、
適応だけでは不十分です。気候変動のリスク抑制の中心となるのは、大幅かつ持
続的な温室効果ガス排出量の削減です。