■□■ 平林良人の『つなげるツボ』 Vol.12 ■□■
*** ダブルスタンダード ***
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テクノファ代表取締役の平林です。
「ダブルスタンダード」は、組織の中に2つの仕組みができて
しまい、目的達成の支障になるとされていますが、最近ダブル
スタンダードこそが日本の生きる道であるとの論調があります。
では宜しくお願いいたします。
■□■ ダブルスタンダードが必要? ■□■
先月(2009年4月)行われた環境省、日本経済新聞社などが主催
する「環境コミュニケーションシンポジューム」で“世界二制度:
ダブルスタンダード”の提案がありました。
環境問題というと対症療法的な技術論と抽象的な文明論が中心
ですが、両者の間にあるべき社会の仕組みを作ることが重要で
あるという論調のなかでの提案でした。
20世紀、我々はローカルよりグローバル、遅いより速い、安定より
成長が優れていると考えてきました。
しかし、これでは環境問題が解決されないのは明らかです。
しかし、両者が共存できる仕組みでなければ世界全体も個人も
存在していけないのではないか、すべての経済活動に関して
「ローカルでスローなルール」と「グローバルでファーストな
ルール」 といった二階建てルール、すなわちダブルスタンダー
ドが必要である という意見です。
スピードを抑制し、多様性を維持できる仕組みづくりの具体的な
ものとして提案されたのが「ダブルスタンダード」です。
■□■ 日本はダブルスタンダードの国? ■□■
日本はもともとダブルスタンダードの国であった、という説が
あります。
古来から日本は、中国からいろいろな文化を取り入れていました。
その都度、日本にあったものと中国からきたもの、すなわち
ダブルスタンダードを上手に取扱ってきました。
例えば、稲作、律令、街並み、文字、焼き物、織物、食べ物など
多くのものが中国からきましたが、日本人は2つのものを程よく
融合させ独自の文化をつくってきました。
典型的なものは宗教です。日本には古来から自然崇拝の宗教-
神道がありました。日本人は、石から草木までに八百万の神が
いるとして森羅万象を神と見立ててきました。
中国から仏教が入ってきたとき、時の天皇は深く仏教に帰依
しましたが、だからといって神道が途絶えたわけではありません
でした。
2つの宗教、神道と仏教、すなわちダブルスタンダードをうまく
取り扱ってきたのです。
■□■ 一神教と多神教 ■□■
日本は多神教の国です。それに対してよく引き合いに出されるのが
西欧の宗教です。キリスト教、イスラム教、ユダヤ教などいずれの
宗教も自身以外の宗教を認めません。
一神教は排他的ですから、西欧では宗教の違いによる戦争が
何回も引き起こされてきました。それも絶対に妥協することのない
厳しい戦いです。
日本では聖徳太子の「和をもって尊しとする」という教えもあってか、
宗派が異なるかといって徹底的に争うということはありませんでした。
それどころか、2つのそれぞれいいところを取り込んで、
より良いものに 仕立て上げていくという文化を作り上げて
いきました。
日本人は、2つの異なるものを融合することに長けているのです。
古くは和魂漢才、新しくは和魂洋才という言葉が示すように、
ダブルスタンダードを混合することに得意であったのです。
■□■ 二重構造が組織を強くする ■□■
実はものごとは二重にすることで強くすることができます。
家でも 車でも物理的な強さは二重にすることで達成されて
いることが 多くに見つけられます。
生物の遺伝子が二重構造であることは有名です。アデニン(A)・
チミン(T)・グアニン(G)・シトシン(C)の4つの塩基がらせん状に
二重に絡みついた構造をとっています。
文化も日本のように2つのものを組み合せたり、お互いに補強
し合ったりしたほうが1つのものより強固にすることができる
と思います。
企業の組織もそうだと思います。金太郎飴のようにどこを切っても
同じ顔が出てくるような組織は一見強いように見えますが、
意外ともろいものです。
違った意見を持つ人々がお互いに意見を交換しながら目まぐるしく
変化する外界に立ち向かうイメージが、長い期間継続して
存在できる組織像であると思います。
■□■ そして多様性 ■□■
ダブルスタンダードには、多様性が必要です。いろいろな考え方が
あって初めてダブルスタンダードが成り立ちます。
多様性とはお互いがその存在を認めて成り立つ性質です。もし、
片一方が相手を認めないと多様性は成り立ちませんし、ダブル
スタンダードも成立しません。
ここで重要なことはお互いを認める多様性がダブルスタンダードを
成り立たせているという点です。
お互いが認めない、すなわち一方が明らかに偽者、いつわり、
悪性のものは多様性とはいいませんし、ここでいうダブルスタ
ンダードの概念にはいりません。
■□■ ISOのダブルスタンダード ■□■
ISO9001認証制度の弊害としてよく指摘されることに「ダブル
スタンダード」があります。いままで述べてきたものと言葉は
同じでも、ISOでいうダブルスタンダードは概念が違うものです。
QMS(品質マネジメントシステム)を構築しても、会社の中に
二重の仕組みができてしまって、言っていることとやっている
ことが違う、というダブルスタンダードは避けなければなりま
せん。
ISO9001規格が要求していることは、“What”すなわち「何を
やりなさい」ということだけです。「このようにやりなさい」
すなわち“How”ということは要求しておりません。
しかるに、組織のISO9001事務局は、“What”を理想的に展開して、
組織の部署に頭で考えた実施すべきことを規定書にして
トップダウンで指示をしています。
現場では、従来からの先輩から脈々と引き継がれてきた仕事の
やり方がありあます。自分たちが慣れ親しんできたやり方は
そう簡単に変えることはできません。
「ダブルスタンダード」という言葉でお互いが繋がっているように
みえても、一方は肯定的なもの、一方は否定的なものです。
このように、世の中には表面は同じように見えても内容が異なる
ということが多くあります。