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■□■ 平林良人の『つなげるツボ』Vol.405 ■□■
― ISOマネジメントシステムのテクノファ ―
― つなげるツボ動画版はじめました ―
*** トヨタ物語 14 ***
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依然として品質不祥事が無くなりません。ソーシャルメディアが
以前よりも大きく取り上げないだけで、品質データ改ざんに関す
る不祥事は相変わらず起きています。ちょうど水の底に溜まって
いる泥のようなもので、かき混ぜると見えてくるような様です。
品質不正18社の調査報告書に書かれている要因、原因について
の話はまだ半分ですが、真逆の明るい話?をしたいと思います。
Vol.399からの続きの「トヨタ物語」です。下記の話は1970年
代に私が聞いた大野耐一氏(当時副社長)の講演記録からです。
■■ オイル・ショックで目が覚めた ■■
1973年秋のオイル・ショックをきっかけとして、世間はトヨタ
生産方式に強い関心をもち始めたようである。なにしろ、オイル・
ショックの影響は政府、企業、個人生活いずれに対しても大きか
った。翌年の日本経済はゼロ成長に落ち込み、産業界全体が、一
時は、恐怖のどん底に沈んだ感があった。
不況のために、多くのほうぼうの 会社が非常に苦しんでいたとき
に、トヨタは減益になったものの他社よりも多くの利益を確保で
きたので、世間で注目されるようになった。トヨタという企業は
ショックに強いつくり方をしていると……。
私はオイル・ショックのずっと以前から、トヨタ式の製造技術、
トヨタ生産方式とは何かについて、会う人ごとに話してきたつも
りだったが、その当時はあまり興味をもってもらえなかった。
オイル・ショック以後、1975年、1976年、1977年と時間の経過
とともにトヨタの利益が上がり、他社との格差が大きくなるにつ
れて、トヨタ生産方式が注目され出した。
■■ 生産方式はアメリカ式でよかった? ■■
日本が1973年まで持続してきた高度経済成長時代には、企業の
生産方式はアメリカ式でよかった。ところが、高度成長がとまり、
成長率が低くなってくると、アメリカ式の計画的な量産方式では
やっていけなくなる。日本の工業は、たとえば設備であろうが工
場レイアウトであろうが、みんなアメリカをまねてやってきた。
たまたま2桁の成長率があった時分は、計画的量産方式にのって
非常によかった。
ところが、高度成長がストップし、しかも減産になったとき、従
来の大量生産方式では採算が合わなくなることは目に見えていた。
戦後の1950年、1951年、私どもは自動車の量が現在のように多
くなるとは想像もしていなかった。それよりずっと以前に、アメ
リカでは、自動車の種類が少なくて量産によって原価を安くする
方法が開発され、それがアメリカの風土の中にしみ込んでいたが、
日本ではそうではなかった。
私どもの課題は、多種少量生産でどうしたら原価が安くなる方法
を開発できるか、であった。ところが日本は、昭和1960年から
15年ものあいだ、経済の面で非常な高度成長を遂げたために、
アメリカ式と同じやり方をしても、量産効果が相当いろいろの面
で出た。
■■ 日本人でなければ開発できない ■■
アメリカ式の量産方式をいたずらにまねていたのでは危険である
ことを、私どもは、1950年、1951年から一貫して念頭において
きた。多種少量で安くつくる、これは日本人でなければ開発でき
ないことではないか。そして、その日本人による生産システムの
開発は、いわゆる大量生産方式をも凌駕できるはずだと考え続け
てきた。トヨタ生産方式は、多種少量で安くつくることのできる
方法である。多種大量であればなおさら結構である。要するに、
オイル・ショック以後の低成長時代、コストをいかに安くするか
をめぐって、トヨタ生産方式が世間からクローズ・アップされて
きているように思う。
■■ 「低成長」は恐い ■■
オイル・ショックをきっかけにして世に広まった「安定成長」
または「低成長」なる言葉を、私は冷静に受けとめている。かつ
ての高度成長時代、景気の波は2、3年の好況と、せいぜい半年
の不況というサイクルを描いた。ときには、3年もの好況が続い
たこともあった。「低成長」とは、まさにこれまでの逆のサイク
ル、いや、それ以上に厳しい時代を意味すると思う。経済成長率
6~10%の好況はせいぜい半年ないし1年であり、2、3年は数
パーセントの微成長、悪くすれば1年や2年はゼロ成長以下に落
ち込むことも覚悟しなければならない時代にすでに突入している
と考えている。自動車産業もそうだが、日本の産業界はおしなべ
て、つくれば売れる時代に慣れきってきた。そのために、多くの
経営者の気持ちも量の関数に染まりきっている嫌いがある。
自動車産業では、「マクシー・シルバーストーン曲線」なる語が
しばしば使われてきた。コスト・ダウンの程度にはもちろん限界
はあるが、つくる量がふえるとそれに比例して自動車のコストは
著しく低減していくというこの量産効果の原理は、高度成長期に
いかんなく実証され、自動車産業の関係者の心に染みついてはな
れない。ロットをできるだけ大きくして量産効果をねらう生産方
式、たとえばプレスの動きひとつを例にとってもそうだが、同じ
金型で単位時間内にできるだけたくさん打ち続けるという、生産
方式が通用しない時代に入ったのである。いや、この生産方式は、
通用しなくなっただけでなく、それがあらゆる種類のムダを生み
出していることを知らなくてはいけない。