トヨタ物語24 | 平林良人の『つなげるツボ』

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■□■ 平林良人の『つなげるツボ』Vol.422 ■□■
― ISOマネジメントシステムのテクノファ ―
― つなげるツボ動画版はじめました ―
*** トヨタ物語24 ***
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トヨタ大野耐一氏の50年前の話は、品質不正と対照的なトヨタ
創成期のチャレンジあり、苦労ありの七転び八起き物語ですが、
これを読むと多くの示唆が得られます。品質不正の発覚が続いて
重たい空気の漂う産業界にフレッシュな風を吹き込みたいと思い
トヨタ物語を話させていただいています。

■■ はっきりとした目的とニーズ ■■
トヨタ生産方式の基本思想および基本をなす骨格を順次、述べて
きたが、それらはいずれもはっきりとした目的とニーズがあって
具現化されてきたことを強調したい。今でもトヨタの現場の改善
はニーズに基づいて行なわれている。ニーズのないところで行な
われる改善は思いつきに終わったり、投資しただけの効果を得ら
れなかったりすることが多い。「必要は発明の母」である。現場
に対していかにニーズを感じさせるか、これが全体の改善を大き
く進める鍵であるといってもまちがいあるまい。
私自身、これまで述べてきたトヨタ生産方式を1つ1つつくり上
げてきたことも、「3年でアメリカに追いつく」ために、ムダを
排除する新しいつくり方を見つけ出さねばならないという強烈な
ニーズに基づいたものであった。たとえば「後工程が、前工程へ
取りに行く」という発想も、従来のやり方では前工程が後工程の
生産状況にはおかまいなしにどんどんできた品物を送り込んでく
るために、後工程では部品の山ができてしまう。このため後工程
では、置場の確保や品物をさがし出すことに手をとられて肝心の
生産が進まない。なんとかこのムダを除かなければ、そのため前
工程の送り込みを押えなければ、という強いニーズを感じて従来
とは逆の発想を思いついたのである。

■■ 機械の多数台持ち ■■
私の実施した機械工場における機械の配置換えによる流れづくり
は、つくりだめによるムダを排除すると同時に、作業者の機械の
多数台持ち、正確には「多工程持ち」を実現することによって、
生産効率を2倍にも3倍にも上げうる意義あるものであった。
この職種の違った機械の多数台持ちは、アメリカにおいてはなか
なか実行がむずかしいことについてはすでに触れた。日本でなぜ
可能かといえば、ひとつには日本には欧米のような職能別組合が
ないからである。したがって、単能工から多能工への移行は、職
人気質という抵抗はあったものの日本では比較的スムーズにでき
たのである。
この事実は、日本の企業別組合が欧米の職能組合に比べて、立場
が弱いことを示しているのではない。多くは歴史と文化の違いに
よるものである。日本の企業別組合はタテ割り社会の例であり、
流動性が少なく、欧米の職能別組合はヨコ割り社会の例で流動性
に富む、と一般には言われるが、実態はそうであろうか。旋盤工
はあくまで旋盤工であり、溶接工はあくまで溶接工でなければな
らないアメリカのシステムと、生産現場において旋盤も扱えば、
フライス盤も扱う、ボール盤も扱う、さらには溶接も行なうとい
う、幅広い技術を身につけることのできる日本のシステムと、ど
ちらが優れたシステムといえるのだろうか。

■■ 歴史と文化の違い ■■
優劣を論じにくい問題である。両国の歴史と文化の相違によると
ころ大であろう。それぞれにメリット、デメリットはあるだろう。
そこで、それぞれのメリットを求めていけばよいであろう。日本
のシステムでは、作業者1人1人が幅広い生産の技術を体得する
ことを通じて、生産現場のトータルなシステム、私はそれを「製
造技術」と呼んでいるが、それをつくり上げることに参画する。
そして重要な役割を演じてもらう。それこそが、働きがいに通じ
るであろう。ニーズとは、待っていて生まれるものではない。こ
ちらからつかみ取りにいかなければならない。自分自身をぎりぎ
りの線に追い込んでみることも、実質のあるニーズをとらえるた
めには必要なことである。
低成長下の企業のいちばんのニーズは何であるか。繰り返すが、
量がふえなくとも、生産性を上げるにはどうしたらよいのかとい
うことである。