—————————————————————
■□■ 平林良人の『つなげるツボ』Vol.438 ■□■
― ISOマネジメントシステムのテクノファ ―
― つなげるツボ動画版はじめました ―
*** 番外編_日経品質管理文献賞受賞8 ***
—————————————————————
日経品質管理文献賞をいただいた「JSQC-TR 01-001 テクニカ
ルレポート 品質不正防止」の概略を説明してきましたが、今回
がその最終回になります。今回は7章「品質不正をなくすため
に社会はどうしたらよいのか」についてです。組織は品質不正
を起こさない組織能力、組織文化を構築することが求められま
すが、組織が良い組織文化を獲得・醸成するためには、組織の
このような取り組みを社会として後押しする仕組みも大切です。
■■ 7章 品質不正をなくすために社会はどうしたらよいのか ■■
(1)内部通報制度、SNS活用、マスコミ報道
内部通報やSNSは、今まで内部に潜んでいた問題や課題を掘り
起こす社会基盤として優れたものです。マスコミ報道に関して
は、品質不正が発覚した時には一時的に過熱するものの、すぐ
に関心を失ってしまう傾向があります。マスコミ報道について、
報道のあと事案が変わっても継続的に品質不正について発信す
ることも必要です。
(2)行政処分発令、行政指導
品質不正の対象が人の命に関係するものになると、国からの行
政指導、改善指導などが発令される例が出てきます。行政処分
発令や行政指導の実施に至った例をみると、それまで長い間見
逃されてきて、内部告発やSNSを契機に発覚に至ったものが多
いようです。なぜ、このような見逃しが起こったのかを掘り下
げ、効果的な行政処分や行政指導が行なわれることが必要です。
(3)コーポレートガバナンス・コード
コーポレートガバナンス・コードは、5つの基本原則に個々詳
細の原則が計31、その下に補充原則が計47示されていますが。
品質に関する要求が書かれていません。環境、安全と同様に品
質に関する記述の追加が望まれます。
(4)日本経済団体連合会
日本経済団体連合会は、2021年、会長より「品質管理に関わ
る不正といったことは、日本の製造業の強みである品質保証
を揺るがす問題である。調査委員会の報告書を踏まえ、再発
防止に取り組んでほしい。経団連としても、これまで以上に、
この問題について真摯に向き合っていく。」と経済団体とし
てこの問題に正面から取り組む姿勢を示しています。
(5)経済同友会
組織の品質不正問題に対して、代表幹事は会見で、経営者は
品質不正を起こさない経営の重要性を強調し、全国地域ブロ
ックや都道府県の支部において企業から提起された問題や課
題に対して、問題解決や課題達成活動に長年取り組んでいま
す。
(6)日本商工会議所
日本商工会議所は、古くから毎年11月に開催される「品質
月間」を一般財団法人日本科学技術連盟、一般財団法人日本
規格協会と共に主催団体として活動を行っており、2023年
には64年目になります。加盟組織において品質問題は重要
な問題であり、品質不正の未然防止に一役を担っています。
(7)QCサークル本部・支部・地区
QCサークル本部・支部・地区では、地域別や業種別、また
サークルの熟成度合いに応じた大会、研修会、フォーラムな
どの各種行事を企画・開催するとともに、支援について議論
するための委員会、幹事会等、手厚い体制を整備しており、
品質不正に関しても組織で活動することが望まれます。
(8)人を育てる仕組み
人の意図的なルールへの不遵守を防ぐためには、倫理観や問
題解決能力を持った人を育てることが必要です。このことを
一つの組織で行うのは必ずしも容易ではありませんが。組織
が人を育てることを社会として支援することは大変重要なこ
とです。
a)教育のための社会的リソースの強化
社会に組織が活用できる教育リソースが整備され、組織がこ
れらを有効に活用できるようになると良いのですが、たとえ
ば、基本的な技術者倫理教育については、APRIN(Association
for the Promotion of Research Integrity、公正研究推進協会)
が教材を提供しています。個別の技術的な内容について自組
織内で教育を行うことができない場合でも、学協会などがセ
ミナーなどを提供しています。最近では、MOOC(Massive
Open Online Course)を活用するなどの方法もあります。
b)学協会等における倫理綱領の整備
学協会などが品質不正に関連する倫理綱領をまとめ、積極的
に会員に共有していくということも社会的活動として必要で
す。日本品質管理学会では倫理的行動のための指針をまとめ
てはいますが、この指針に基づく啓発活動を積極的に推進し
ていく必要があります。また、一度学んで終わりではなく、
繰り返し活動に参加して認識をその都度リフレッシュし、各
組織に持ち帰って共有、展開することが期待されます。
c)初等中等教育の役割
人の意識の多くは若い時の経験に基づきますが、必要な力量
の根底を支える基礎的な知識や考え方、倫理観を身につける
のは初等中等教育における役割であると思います。現在の学
習指導要領では、「問題発見・解決能力及び情報活用能力」
が重要視されており、QCストーリーに基づく問題解決の考
え方やデータの取り扱い方を学ぶ機会が増えると期待されて
います。先駆的な事例を学協会主導で進め、ベストプラクテ
ィスの共有・展開を社会全体で進めていくことが望まれます。