特別採用(トクサイ)を考える8 | 平林良人の『つなげるツボ』

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■□■ 平林良人の『つなげるツボ』Vol.456 ■□■
― ISOマネジメントシステムのテクノファ ―
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*** 特別採用(トクサイ)を考える8 ***
― 公差設計 ―
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最近「公差設計」という言葉を聞かなくなりました。この言葉は
戦後日本が物つくりで世界の頂点に立った頃、産業界で盛んに設
計者向けに教育していたカリキュラムにあった言葉です。モノは
一つとして全く同じようには作れません。多量にモノを生産する
ときに悩まされるのはいろいろな要素がバラツクということです。
例えば、機械は経時変化してだんだんと劣化していきます。原材
料も調達先によりますが、同じ成分、寸法、構造のものは手に入
りません。人のスキルの変化も考えなければなりません。

■■ 公差設計とは ■■
「公差」とは、部品個々の寸法のバラツキを容認できる範囲のこ
とをいいます。公差は2つの側面を持っています。一つは、設計
者側からの側面です。もう一つは、公差を受け入れる製造側から
の側面です。「公差」は、この2つの側面を考えながらトータル
で経済的になることを考慮して決めます。公差を厳しくすれば設
計上は自由度が増しますが、製造は厳しい管理をしなければなり
ません。場合によっては全数選別をしなければならないかもしれ
ません。逆に公差を緩くすれば設計の自由度はなくなり、ある制
限下でしか機能を果たさせることがなくなりますが、製造では条
件を広くして製造することができます。設計者には、製品仕様
(設計)と製造条件及びコスト(製造)を考慮したバランス感覚
が求められ、設計者は物つくりのトータル的視点から公差を設定
しなければなりません。このトータル的視点から「公差(許容範
囲)」を設定する方法の一つが、統計学的手法を活用する「公差
設計」です。

■■ 幾何的寸法許容差設定 ■■
ISO 9001セクター規格IATF16949には公差設計の要求がありま
す。自動車部品を設計するには次のスキルを必要であるとされて
いますが、その中にある「幾何的寸法許容差設定及び表示法(G
D&T)」がそれです。ちなみにその他の要求されているスキルは
以下のようです。
1. 品質機能展開(QFD)
2. 製造設計(DFA)
3. 価値工学(VE)
4. 実験計画法(DOE)
5. 故障モード影響解析(FMEA)
6. 有限要素解析(FEA)
7. 立体モデル法
8. シミュレーション手法
9. コンピュータ支援設計(CAD)/コンピュータ支援エンジ 
ニアリング(CAE)
10.信頼性工学計画

完成品性能がある範囲に入るためには、組立主要寸法がある範
囲に入ることが要求され、そこから各部品の公差が割り付けら
れます。完成品からは出来るだけ厳しい公差を要求したい(小
型、性能等)のですが、部品側からは逆に公差をゆるめて欲し
い(コスト上)ということですが、そうしますと(公差を大き
くすれば)完成品の不具合の確率が増加する関係になります。
IATF16949でも設計者の意図と、製造上の条件の関係を分析し
トータルコスト等を総合的に判断したバランスの良い公差を設
定することを求めています。

■■ 日本における公差設計 ■■
腕時計業界では精密部品を大量に扱っていますが、1960年頃、
日本独自の腕時計を開発するにあたり、「公差設計」を盛んに
研究、活用し、超小型・薄型かつ高品質で競争力あるウォッチ
を商品化していきました。腕時計業界以外でも、工業製品の新
規開発においては限界設計のために「公差設計」は不可欠であ
り、「公差設計」を採用している企業が多く、「公差便覧」とい
った本も1960年前後に出版されていました。その後、日本の
国際競争力が上がるにつれて、公差設計は「標準化」が進み、
従来設計されたものを使用することが多くなり、各種工業会で
「公差設計」が研究されることはあまり見られなくなりました。
また設計現場にCADが導入され、ソフトの指示で設計者が公
差を決めることも普及し、「公差設計」の伝承は半ば途絶えま
した。ただし、当時盛んに公差設計を活用した設計者は定年に
なっているとはいえ長寿命時代に入ってリスキリングする人も
増えてきていると聞きます。

■■ 公差設計を理解しないと不正を根治できない ■■
失われた30年の中で頻発する品質不正は、「良いものが作れな
くなった」、「20年、30年と同じ公差で物を作っている」こと
が大きな要因です。良いものが作れなくなったので、その原因
を特定し手を打つのが王道ですが、それができないためデータ
改ざんという不正に走る、経営層も暗にそれを知っていて見過
ごすという事象が多くの組織に起きています。製品開発当初の
設計がどんな公差設計のもと行われたかの後輩設計者への伝承
が行われていないところに日本産業界の脆弱性があります。
(つづく)