ISO9001キーワード 人々2 | 平林良人の『つなげるツボ』

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■□■ 平林良人の『つなげるツボ』Vol.476 ■□■
― ISOマネジメントシステムのテクノファ ―
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*** ISO9001キーワード 人々2 ***
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ISO9001の要求事項7.1.2 「人々」に関連して人的資本開示のお話をいたし
ました。日本では、2023年3月の決算期より、上場企業においては人的資本
の情報開示が義務付けられました。
世界的規模ですすむ「人的資本経営」の流れをふまえると、自社の人々につ
いて最適な人事をすすめていくことは、企業経営者にとって重要な課題にな
っています。

■■ ファミリー型からの変化 ■■
戦後、日本が奇跡と言われる復興をなした一つの要因に人事制度があると言
われます。その特徴は、新卒同時採用や終身雇用、年功序列型の人材戦略に
より、多くの企業が、個人を囲い込むような雇用を構築するとともに、将来
を期待する新卒同時採用、終身雇用を前提に、「ファミリー型」といわれる
雇用慣行をつくりあげ、成長のエネルギーとしてきました。
同質性の高い品質の効率的な提供が主目的であった事業環境においては、フ
ァミリー型にはメリットがありました。しかし、事業環境が急速に変化し、
非連続的なイノベーションが頻発するとともに、個人の価値観・ニーズが多
様化する中では、変化に対応した人材の育成・獲得や、従業員の専門性の向
上等の観点がより重要視されるようなってきました。
雇用の在り方については、各社の経営戦略に適した人材戦略を策定・実施し
ていく中で、経営判断していく必要があります。個人が自律を主張し活性化
する中で、企業と対等な関係になっていくことを考えれば、囲い込み型と言
われるファミリー型ではなく、企業と個人が、互いに選び選ばれる、多様性
のあるオープンな雇用形態を推進していくことが求められるようになってき
ました。

■■ ジョブ型の台頭 ■■
こうした雇用形態の変化の中では、人材の国籍や属性も多様になるとともに、
中途・経験者採用、兼業・副業の推進や受入れ、ギグ(単発)ワーカーやフ
リーランスの活用も増え、多様な価値観や専門性を持つ人材で雇用形態が構
成されるため、個人のモチベーションの発揮も多様になります。こうした、
多様な価値観や高度な専門性を持つ人材にアクセスし、獲得・活躍してもら
うためは、特に、グローバルマーケットで競争している企業において、ポス
トに求められる職務内容を明確にし、その職務の遂行に必要なスキルを有す
る人材の活躍を促す「ジョブ型」雇用の促進が求められるようになっていま
す。
現在でも、中途採用・経験者採用では、ジョブを明確にした雇用形態が多い
のですが、新卒採用の段階でも、一部の企業では、職務内容を明確にした採
用が行われています。例えば、専門性が明確なAIやコンピューターサイエン
ス等の職種においては、新卒採用の段階からジョブ型雇用を採用しています。
ジョブ型雇用については、一般的に欧米では、職務・労働時間・勤務場所に
ついて契約で限定された雇用の在り方をさします。日本では、経団連の
「2020年版 経営労働政策特別委員会報告」に、業務等の遂行に必要な知識
や能力を有する社員を配置・異動して活躍してもらう専門型業務・プロフェ
ッショナル型に近い雇用であると説明されています。 1日本でもジョブを
明確にした長期インターンシップ等も含め、個人のキャリア形成に有効なこ
の雇用形態が、今後、増えていくことが見込まれています。

■■ ジョブ型への移行の課題頭 ■■
ジョブ型への雇用形態の転換に際して、イノベーション創出を含めた自社の
競争優位性を強化する観点や、働き手の専門性や意識面の観点も含めて、どう
いった時間軸で、具体的にどの様な方向性を目指すのか、業種や会社の状況に
応じた各社の経営判断は重要です。
ジョブ型への移行に向けた移行措置としてファミリー型とジョブ型のハイブリ
ッドにしていく方向性も想定されます。例えば、総合職で入社して20代は配
置転換等も経験する中で専門性を高め、30代からはジョブ型に移行し、管理職
クラスは全ポジションを公募制にして年功序列を打破するなど、働き手の専門
性や意識面も踏まえながら取り組むアプローチなどが想定されています。企業
の成長フェーズや業種等によっては、ファミリー型からジョブ型雇用に雇用の
ポートフォリオを組織全体で順次移行していくアプローチも考えられています。
なお、多様性のあるオープンな雇用形態を推進していく際には、企業間での育
成出向(交換留学)や、投資先企業への出向、兼業・副業の推進など、組織を
軸にしながら、その枠にとらわれない個人の成長機会や経験の設計が重要とな
ります。

(つづく)