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■□■ 平林良人の『つなげるツボ』Vol.486 ■□■
― ISOマネジメントシステムのテクノファ ―
― つなげるツボ動画版はじめました ―
*** ISO9001キーワード 人々12 (JOB型人事について)***
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人的資本の話から従業員エンゲージメント、人事評価にまで話が広がりました。
ISO共通テキストには次の記述があります。
「5.1 リーダーシップ及びコミットメント
XXXマネジメントシステムの有効性に寄与するよう人々を指揮し,支援する。」
■■ JOB型人事指針と審査 ■■
内閣官房では本年8月にJOB型人事の指針を発表しました。
新しい資本主義実現本部/新しい資本主義実現会議|内閣官房ホームページ
今回から数回にわたって政府が目指していて経団連がコミットしている(後押
ししている)「JOB型人事指針」について説明します。ISO審査員が審査でトッ
プインタビューする時の話題に使えるかもしれません。ただし、次の2点が留
意事項です。まず、上場企業に限るということ、次には決してISO審査におけ
る要求事項ではないということです。あくまでも最新の企業を取り巻く話題と
して大手企業(上場企業)へのトップインタビューで話題にするとよいと思い
ます。
■■ JOB型人事の背景 ■■
いままでの雇用制度を続けていると、
i)最先端の知見を有する人材など専門性を有する人材が採用しにくい、
ii)若手を適材適所の観点から抜てきしにくい、
iii)日本以外の国ではジョブ型人事が一般的となっているため社内に人材を
リテイン(保持)することが困難、
との課題が各種委員会、会議、フォーラムなどにおいて日本企業から提示され
てきました。
「キャリアは会社から与えられるもの」から「一人ひとりが自らのキャリアを
選択する」時代となってきたからです。すなわち、職務(ジョブ)ごとに要求
されるスキルを明らかにすることで、従業員が自分の意思でリ・スキリングを
行え、職務を選択できる制度に移行していくことが重要になっています。そう
することにより、内部労働市場と外部労働市場をシームレスにつなぐことがで
き、社外からの経験者採用にも門戸を開き、従業員が自らの選択によって、社
内、社外を問わず人々が労働移動できることが、日本企業と日本経済の更なる
成長のために必要であると方向付けされてきています。
■■ JOB型雇用と人事 ■■
従来の我が国の雇用制度は、新卒一括採用中心、異動は会社主導、企業から与
えられた仕事を頑張るのが従業員であり、将来に向けた自己啓発(リ・スキリ
ング)が活きるかどうかは人事異動次第であり、従業員の意思による自律的な
キャリア形成は行われにくい制度でした。個々の職務に応じて必要となるスキ
ルを設定し、スキルギャップの克服に向けて、従業員が上司と相談をしつつ、
自ら職務やリ・スキリングの内容を選択していくジョブ型雇用及び人事に移行
する方向にトップ企業は動き出しました。
他方で日本企業といっても、個々の企業の経営戦略や歴史など実態が千差万別
であることに鑑み、自社のスタイルに合った導入方法を各社が検討することが
大切です。内閣官房の研究会では「JOB型人事」を先行する企業の実践事例
を紹介する形で「JOB型人事指針」を発表しています。
ここでは10年かけて人事構造改革をした日立製作所の事例を取り上げていきた
いと思います。
■■ 伊藤レポート ■■
日立製作所の例をお話しする前にJOB型人事の検討に入るきっかけとなった伊
藤レポートについて触れます。
伊藤レポートとは経済産業省の研究会である「持続的成長への競争力とインセ
ンティブ ~企業と投資家の望ましい関係構築~プロジェクト」あるいは「 持
続的な企業価値の向上と人的資本に関する研究会」などの一連の報告書のこと
です。これらはバブルがはじけてなかなか浮上しない日本経済の立て直しの議
論が2013年から2020年まで継続的に行われ、いくつかの報告書が出されてい
ます。
引用元 持続的な企業価値の向上と人的資本に関する研究会 報告書 ~人材版伊藤レポート~(METI/経済産業省)
伊藤レポート.pdf
一連の議論の中で検討された一つが「人的資本(Human Capital)」でした。人を
従来のように資源とみなさず、資本とみなそうということを軸に人々の活性化に
ついて議論がされたのです。以下伊藤レポートから引用します。
「特に、グローバルマーケットで競争している企業において、ポストに求められ
る職務内容を明確にし、その職務の遂行に必要なスキルを有する人材の活躍を促
す「ジョブ型」雇用の促進が求められる。現在でも、中途採用・経験者採用では、
ジョブを明確にした雇用形態が多いが、新卒採用の段階でも、一部の企業では、
職務内容を明確にした採用が行われている。例えば、専門性が明確なAIやコンピ
ューターサイエンス等の職種においては、新卒採用の段階からジョブ型雇用とな
ってきており、この対象は拡大されていくことが見込まれる。また、ジョブを明
確にした長期インターンシップ等も個人のキャリア形成にも有効であり、今後、
増えていくことが見込まれる。」
「ジョブ型」雇用については、一般的に欧米では、職務・労働時間・勤務場所に
ついて契約で限定された雇用の在り方をさすが、ここでは、一般社団法人日本経
済団体連合会の「2020年版 経営労働政策特別委員会報告」も参考に、当該業務
等の遂行に必要な知識や能力を有する社員を配置・異動して活躍してもらう専門
型業務・プロフェッショナル型に近い雇用区分も含めている。」
(つづく)