ISO9001キーワード 外部・内部の課題―気候変動3 | 平林良人の『つなげるツボ』

2025年3月5日
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■□■ 平林良人の『つなげるツボ』Vol.499 ■□■
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*** ISO9001キーワード 外部・内部の課題―気候変動3 ***
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IPCC評価報告書の最新版は6次報告書です。2021年~2022年にかけて第6次
評価報告書が発行されました。気候変動のリスク抑制の中心となるのは、大幅
かつ持続的な温室効果ガス(GHG)排出量の削減です。

■■ IPCC第6次評価報告書 ■■
GHG排出の抑制は温暖化のスピードだけでなく、その規模を縮小させることに
なることから、気候変動への適切な対応に使える時間は、場合によっては、数
十年増加します。
しかし、温暖化を2度以内に抑えるという各国政府が設定した目標を、達成す
るためには大幅な排出量削減をしなければなりません。GHG排出の抑制を今後
数十年間で実現する道はいくつか存在します。第6次報告書によると、追加的
な抑制をもし2030年まで先延ばしにすれば、技術的、経済的、社会的、制度
的課題は大幅に増大することになります。
「技術的に見て、低炭素経済への移行は実現可能です」。IPCC 第3作業部会の
ユバ・ソコナ共同議長は、こう述べています。「しかし、適切な政策と制度が欠
けています。行動を遅らせれば遅らせるほど、気候変動に適応しこれを緩和す
るための費用は高くつくことになります」。

■■ 気候変動への緩和処置 ■■
第6次報告書によると、気候変動緩和措置を講じない場合、21世紀の世界の経
済成長率は年率1.6%~3%成長と見込まれています。この経済成長率を鈍化させ
て意欲的な気候変動緩和措置を講じることが重要なのです。気候変動緩和措置
としてGHG排出削減を進めた場合、成長率は約0.1%低下すると見られていま
す。
0.1%の経済成長率の鈍化であれば、GHG排出削減を確実に進めて行くべきであ
るというのがソコナ共同議長の主張ですし、また多くの専門家が考えているとこ
ろです。
ソコナ共同議長は「取り返しのつかない気候変動の影響という甚大なリスクに
比べれば、経済鈍化は対応可能なリスクである」と語っています。
しかもこうした気候変動緩和費用の経済的推計は、気候変動緩和による利益も、
健康や暮らし、開発に関連する数限りない副次的利益も考慮していないという
ことです。
「気候変動対策を優先課題とすることの科学的論拠は、これまで以上に明確に
なっている」とラジェンドラ・パチャウリIPCC議長(故人)は語りました。
「温暖化を2度以内に抑えるチャンスが無くなるまで、残された時間はほとん
どありません。対応可能な費用で、温暖化を2度以内に抑えられる可能性を十
分に保つためには、2010年から2050年までに全世界の排出量を40~70%減少
させるとともに、これを2100年までにゼロとすべきです。私たちにはそのチャ
ンスと、選択の余地が残されているのです」

■■ 包括的評価―統合報告書 ■■
第6次報告書の前に出されたIPCC統合報告書はパチャウリ議長のリーダーシ
ップにより執筆されました。単一作業部会からの報告書に比較すると、数ある
作業部会の報告書を統合するには多くの時間と労力がかかります。作業部会ど
うしの調整をする必要があるからです。IPCC のメンバー195カ国の政府が承
認した概略に基づき、過去14カ月の間に、「自然科学的根拠」(2013年9月)、
「影響・適応・脆弱性」(2014年3月)、「気候変動の緩和」(2014年4月)と
いう3つの作業部会報告書が発表されていますが、これらを統合したものが
IPCC統合報告書です。

IPCCの報告書は、気候変動を調査する学術関係者による長年の研究を基に作
成されています。3つの作業部会による報告書は、幅広い科学的、技術的、社
会経済的な見解と専門知識を有する80カ国以上の830人を超える執筆者が作
成しました。担当編集者は1,000人を超える寄稿者の支援を受けましたし、査
読、見直しのプロセスでは、2,000人を超える査読専門家が知見を提供してい
ます。統合報告書の作業を可能にしたのは、統合報告書技術支援ユニットによ
る貢献と熱心な取り組みがあったからだと言われています。

■■ IPCC批判 ■■
第6次報告書で一定の評価を得たIPCCですが、第5次報告書にいたるまで世
界のあちこちでIPCC批判がくすぶっていました。IPCCは気候変動という「人
為的とは決めつけられていない現象をあたかも経済活動のためである」として
世界の人々を不当に煽り、自分たちの活動への評価を上げさせ莫大な研究費を
かすめ取っている、といった類の批判が代表的なものでした。中にはパチャウ
リ議長への批判もあり、IPCCの運営について独立委員会が設置されることにな
ったのです。これは温暖化問題に関する「報告書に誤りがあった」ことが指摘
された問題で、パチャウリ議長は次のような声明を発表しました。声明では
「批判を受けていること、応対する必要があること」を認識しているとして重
要な結論は「数千の専門家の評価や独立した研究からの圧倒的多数の証拠に基
づいている」と指摘し報告書(第4次報告書)の正当性を主張しました。
出典 www.ipcc.ch