JIS Q 45100労働安全衛生MS規格4 | 平林良人の『つなげるツボ』

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■□■ 平林良人の『つなげるツボ』Vol.168 ■□■    
*** JIS Q 45100労働安全衛生MS規格4 ***
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前回から、2018年9月28日に公示されたJIS Q 45100(JISα)に
ついてお話ししていますが、今回はその4回目です。
ここからはOH&SMSの核心であるリスクについて扱います。

気を付けなければならないことは、OHSAS 18000で扱ってきたリスクと
ISO 45001(したがってJISα)が扱うリスクとは異なるということです。
詳細は以下をご覧いただきたいのですが、JISαには2種類のリスクが
あります(これはJIS Q 45001でも同じです)。

■□■ 2種類のリスクとは ■□■

一つはOHSAS 18001が扱ってきたリスクで、「危険な事象又はばく露の
起こりやすさと、その事象又はばく露によって生じ得る負傷及び疾病の
重大性との組み合わせ」と定義されています。

もう一つは、共通テキストに定義されている「不確かさの影響」です。
JISαでは、前者は「労働安全衛生リスク」、後者は、「労働安全衛生
マネジメントシステムに対するその他のリスク」と表現されています。
では規格本文と解説をお読みください。

■□■ JIS Q 45100の箇条6の概要 ■□■

【6 計画】
【6.1リスク及び機会への取組み】
【6.1.1一般】
(JISQ45001の箇条6.1.1が引用された後に次が追加されている)
組織は,次に示す全ての項目について取り組む必要のある事項を
決定するとともに実行するための取組みを計画しなければならない
(JISQ45001:2018の6.1.4参照)。

a) 法的要求事項及びその他の要求事項を考慮に入れて決定した取組み事項
b) 労働安全衛生リスクの評価を考慮に入れて決定した取組み事項
c) 安全衛生活動の取組み事項(法的要求事項以外の事項を含むこと)
d) 健康確保の取組み事項(法的要求事項以外の事項を含むこと)
e) 安全衛生教育及び健康教育の取組み事項
f) 元方事業者にあっては,関係請負人に対する措置に関する取組み事項 

組織は,附属書Aを参考として,取り組む必要のある事項を決定するとともに
実行するための取組みを計画することができる。なお、附属書Aに掲載されて
いる事項以外であってもよい。

組織は,取組み事項を決定し取組みを計画するときには,組織が所属する
業界団体などが作成する労働安全衛生マネジメントシステムに関する
ガイドラインなどを参考とすることができる。

注記1  元方事業者とは,一の場所において行う事業の仕事の一部を請負者に
請け負わせているもので,その他の仕事は自らが行う事業者をいう。

注記2 関係請負人とは,元方事業者の当該事業の仕事が数次の請負契約によって
行われるときに,当該請負者の請負契約の後次の全ての請負契約の当事者である
請負者をいう。

≪解説≫
JISαの箇条6.1.1には、ISQ 45001にa)~f)が追加されていますが、これらは
厚労省指針に規定されている項目です。ただ、d)及びe)の「健康確保」や
「健康教育」は、2018年の「働き方改革」法案の制定に合わせて盛り込まれた
項目です。

例えば、d)健康確保の取組みには、メタボ対策、健康診断受診、残業による
過重労働対策、生活習慣病対策などが考えられます。

f)の元方事業者に関する追加項目は、日本特有な建設業における仕組みに関する
要求です。注記1にあるように「元方事業者」とは建設工事を施主から受注して
いる建設会社のことであり、通常はゼネコンと呼ばれる総合建設事業者のことを
いいます。また、関係請負人とは、注記2にあるように元方事業者から工事現場の
仕事を下請けする掘削会社、生コン業者、配筋業者、電気配線業者、配管業者などの
建設業者のことを意味しています。
 

JIS Q 45100には、附属書Aが付いていますが、ここには「働き方改革」、「健康教育」
など多くの項目が載っています。
附属書Aに記載されている諸活動は組織が参照とするものであり、この中から実施事項を
選択しなければならないという意味ではありません。
附属書Aに記載されている活動を選んでも良いし、組織が独自に行っている安全衛生活動
でも差し支えありません。

【6.1.1.1 労働安全衛生リスクへの取組み体制】
組織は、危険源の特定(JIS Q 45001:2018 6.1.2.1参照)、労働安全衛生リスクの評価
(JIS Q 45001:2018 6.1.2.2参照)及び決定した労働安全衛生リスクへの取組みの計画策定
(JIS Q 45001:2018 6.1.4参照)をするときには、次の事項を確実にしなければならない。
a) 事業場ごとに事業の実施を統括管理する者にこれらの実施を統括管理させる。
b) 組織の安全管理者、衛生管理者等(選任されている場合)に危険源の特定及び労働安全衛生
リスクの評価の実施を管理させる。

組織は、危険源の特定及び労働安全衛生リスク評価の実施に際しては、次の事項を考慮
しなければならない。

-作業内容を詳しく把握している者(職長、班長、組長、係長,作業指揮者等の作業中の
 働く人を直接的に指導又は監督する者)に検討を行わせるように努めること。
-機械設備及び電気設備に係る危険源の特定及び労働安全衛生リスクの評価に当たっては、
 設備に十分な専門的な知識を有する者を参画させるように努めること。
-化学物質等に係る危険源の特定及び労働安全衛生リスクの評価に当たっては、必要に応じ、
 化学物質等に係る機械設備、化学設備、生産技術、健康影響等についての十分な専門的
 知識を有する者を参画させること。
-必要に応じて外部コンサルタント等の助力を得ること。

注記1 化学物質などの「など」には化合物、混合物が含まれる。
注記2 「事業の実施を統括管理する者」には、総括安全衛生管理者や統括安全衛生責任者が
   含まれ総括安全衛生管理者の選任義務のない事業場においては、事業場を実質的に
   管理する者が含まれる。
注記3 安全管理者、衛生管理者などの「など」には、安全衛生推進者及び衛生推進者が含まれる。
注記4 外部コンサルタントなどには、労働安全コンサルタント及び労働衛生コンサルタントが
   含まれるが、それ以外であってもよい。

≪解説≫
この箇条6.1.1.1は、JIS Q 45001からの引用の部分はなく、JISαに独自な箇条です。
JIS Q 45001には risk assessmentの要求は無く、assessment of risk の要求になっています。

読者の方には両者の違いはあまり明確でなく、奇異に感じられるかもしれませんが、
「リスクアセスメント又はリスク評価:risk assessment」というと、戦後いろいろな分野で発展
してきた一つの方法を意味しますが、「リスクの評価:assessment of risk」というと、いろいろな
方法があってもいいことになります。単に「の」の字があるかないかで意味が変わってきてしまいます。
厚生労働省の「危険性又は有害性等の調査等に関する指針」との整合がとられています。