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■□■ 平林良人の『つなげるツボ』Vol.81■□■
*** 附属書SLパネルディスカッション-最後 ***
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■□■ 附属書SLは世界戦略の中にある ■□■
フォーラムのお話に最後までお付き合いいただき
ありがとうございます。
今回が一連の話題の最後になります。
(昨年テクノファ年次フォーラムでは附属書SLに関して、
有識者の方に集まっていただいてパネルディスカッションを行いました)。
フォーラムの時の様子をお伝えしますが、
出席者の方の発言は平林の責任で編集させていただいております。
平林:
トップは、ISOマネジメントシステム規格を使わずとも品質や環境、
情報セキュリティなども含めた企業経営を実践しています。
ただ、ISOは世界の知識や知恵、経験を集めてすべての組織に対して
提案するマネジメンシステムを示しています。
先ほど野口さんは「IS031000も附属書SLも組織を
良くしていこうという方向ではまったく同じ」とおっしゃっていました。
ISOマネジメントシステム規格は、いいものである。
「これを使うことにより経営に対して貢献できる」ということを
分かってもらうための知恵、アイデアについてお聞かせください。
野ロさん:
本日のISO関係者のお集まりの中では言い難いのですが、
経営がうまく回っていく自信があるなら、
トッブはISOを意識しなくていいのではと考えています。
ただし、これからグローバル企業を目指すなら話は別で、
是非とも参考にすべきでしょう。
個人の経験とは限れたものに過ぎない、
これは企業経営にもあてはまります。
日本国内ではどんなに優秀な企業でも、世界に出て行ったときに、
日本でのやり方や感覚が通じるとは限らないはずです。
ここでISOマネジメントシステム規格は、
非常に参考になるのは間違いないでしょう。
例えば海外進出を進める企業においては、
自分たちの考えを実践するにあたって、
マネジャー職位の強力なツールになると考えています。
確かにISOは、かなり政治的な色合いが濃く、
また国家地域問の利害が絡んだパワーゲーム的な要素はありますが、
こうしたことを差し引いても、
世界中の視点や知恵を集めたものという点でリスペクトすべきものです。
■□■ 本当にトップの関与が必要か? ■□■
野口さん:
トップの関与という先ほどからの話については、
私自身の考えは少々異なります。
マネジメントは、マネジャーがやるのが当たり前で、
トップの関与をわざわざ強調すること自体、疑問があります。
「マネジメントをマネジャーがやらずに誰がやるのか?」
という発想です。
トップの関与が乏しいと見なされる背景には、
おそらく二つ問題があるからではないでしょうか。
まずは分業化がキーワードでしょう。
産業革命が起きて工業化がはじまってしばらくの間、
例えば物づくりでは一人ひとりが独立して
作業を進めていました。
その後、分業化の流れが出てきました。
さらにはその分業化自体を、
例えば、品質や環境などとテーマでより細かく分けて、
ある程度の規模以上の組織なら専任の担当者を
据えるようになりました。
ただ人間の特性として、
管理されたくないとの意向は必ずあるはずです。
リソースがあり余っていて、
テーマ別に細かく分かれたままで関係性が薄い状況なら、
管理されずバラバラでも業務は回っていくでしょう。
ただ、それぞれの活動のレベルが高くなっていき、
例えば、品質とか環境のやっていることがお互いに
干渉したり関係性が出てきたりするとそうはいかなくなります。
予算一つ決めるにしても、
品質と環境の要素をそれぞれどんな割合にするのか、
限られた資源をどう割り振るかといった問題が
必ず生じるはずです。
こうした場面で、マネジメントが必要になり
マネジャーの関与が必須となるはずです。
そして、その役割は必ずしもトップでなくてもいいのです。
■□■ 事務局はトップ関与を嫌う? ■□■
野口さん:
さらもう一つ、
今の状況を生んだ背景には事務局の
トッブに対する接し方も関係してきたと思います。
言い方はきついかもしれませんが、
事務局がトップマネジメントの関与を
むしろ嫌ったのではないかということです。
「余計なことを言われたくない」と思えば、
「ISO用語でいえば
これをやればいいことになっているので問題ありません」
などと説明すれば(トップへの)社内対策は
済んでしまったのでしょう。
すべての経営者は、ISOを理解すべきか、
というとこれもなかなか難しい間題です。
先ほどグローバル化を進めるにあたっては
マネジャークラスでは参考になるといいました。
ただすべての経営者に必要かというと、
そうとも言い切れないでしょう。
■□■ 世界標準準拠の弊害 ■□■
野口さん:
むしろ弊害を生みかねないことが気になっています。
トップは企業マネジメント全般に関して
今の世界の趨勢など知っておく必要があるでしょう。
ISOで議論をしていることを踏まえて
マネジメントシステム規格の中身を理解して
採り入れるのはいいことかもしれません。
一方でマネジメントの手法からすれば、
先駆的な企業から10年の遅れが生じかねないのです。
新規格が開発される場合、
例えば欧米企業が実際に運用経験を積んだ上で、
その経験した内容がISOに提案されて専門委員会が立ち上がります。
その後の規格策定作業には数年間要します。
欧米企業が実際に成果を出してから、
そのやり方が国際規格になって、
その後、日本企業がISOマネジメントシステム規格を通して
採り入れようとすると、もの凄い遅れがでてしまうのです。
ですからこの流れを逆に利用することを含めて、
いろいろ検討して日本として手を打っていく必要があると
考えています。
平林:
トッブが関心を示さないのは事務局が
放っておいたのではないかと辛ロのご指摘がありましたが
同感するところもあります。
現行版のIS09001やISO14001は、
トップマネジメントにいろいろ相談したり
決めてもらったりしないと仕組みができない中身で
なかったことも一因かもしれません。
■□■ 附属書SLは経営の流れ ■□■
平林:
今度の附属書SLでは、
「組織の目的」「意図した成果」「組織の能力」「事業ブロセス」等々、
事務局だけでは決められない要素が数多く含まれており、
自ずとトップマネジメントの関与が欠かせなくなると期待しています。
奥野さん:
附属書SLの箇条4から箇条6の流れは、
世の中の経営レベルの意志決定の流れを参考にして
今の構造になっています。
この点をトップマネジメントにご説明したら、
おそらくトップにはピンとくる当たり前のことなので、
すぐに分かっていただけると思います。
その際のキーワードの一つになるのが、
「意図した成果」だと考えています。
実はJTCGやSC1では、さまざまな国のエキスパートと
ディスカッションをさせていただきましたが、
こうした会合の場で、最初によく議論の対象に挙がるのが、
附属書SLでいえば
「4.1組織及びその状況の理解」関連する内容です。
「意図した成果を達成する組織の能力に影響を与える」
とありますが、ここでの「意図した成果」とは
裏を返せばXXXマネジメントシステムに組織が取り組む
理由になります。
ですから附属書SLの箇条4の本文を作る際、
そういう意図した成巣が達成できるのか、
どのようにすればいいのか、
この点は柑当意見を交えています。
その後、箇条6にも出てきますが、
意図した成果が達成できるのかということに対して、
問題となっている(リスク)、
あるいは課題となっている(機会)ことに、
組織がどう取り組むかを計画していきなさい、
という考えで、
今回、箇条4から箇条6の構造ができたことを強調しておきます。
おわり