—————————————————–
■□■ 平林良人の『つなげるツボ』Vol.94 ■□■
*** チュニジアの秋 ***
—————————————————–
■□■ 明けましておめでとうございます ■□■
少々遅くなりましたが、本年もよろしくお願いいたします。
昨年は附属書SLを重点的に取り上げました。
まだ、いろいろと発信したいことがありますので、
今年も継続してマネジメントシステムについて考えるところを
書かせていただきます。
今回は附属書SLから外れて、
アフリカ(地中海に面していてカルタゴの悲劇で有名)
チュニジアについてお伝えします。
■□■ チュニジアへ行ってきました ■□■
昨年の11月にチュニジアへ行ってきました。
それまではチュニジアがどこにあるかも知りませんでした。
ことの始まりは、飯塚先生から
「チュニジアから『Quality Day』に招待講演を頼まれているが
都合が悪くて行けないので、代わりに行ってくれないか!」
というお誘いがあったことです。
チュニジアでは、毎年民間の品質管理学会みたいな組織が
品質について5、6人の識者を世界から集めて、
イベントを実施しているということです。
例年11月秋に行われていて、その年のテーマを決めて行っているが、
今年は「Social accountability and Quality」というテーマでした。
総合スローガンに基づいて、個々で得意な部分での話をしてくれという
内容で、私は
「How to preserve the rules of quality and social accountability?
(品質及び社会責任のルールを守り続けるためには)」
という講演タイトルにしました。
組織の全員がルールを順守することで
組織の持続的成功があるという趣旨を話したかったからです。
■□■ Social accountabilityとは ■□■
CSR(Corporate Social Responsibility)と呼ばれる
「社会責任」のISO規格があります。
ISO26000は産業界、政府、労働組合を巻き込んで5年間程議論がされ、
2010年第8回ISO/SRコペンハーゲン総会で、
最終国際規格案が採択され成立しました。
2005年の第1回サルバドール総会から始まり、
世界から寄せられたコメント総数25,000件を超えたと言われています。
組織の行動を現行の法律や規則で社会的責任までカバーするのは
不十分で、唯一の方法ではありません。
法律や規則は静的なものでトップダウンのメカニズムで動いていますが、
規格は下からのボトムアップのメカニズムで動く方がダイナミックです。
SA8000という民間規格もあります。
これはソーシャル・アカウンタビリティー・インターナショナル
(SAI:Social Accountability International)という
アメリカの団体が開発し運用しているものです。
ILO(国際労働機関)の諸条約を基に要求事項を規定しています。
・15歳未満の労働者(児童労働)の禁止
・強制労働の禁止
・安全で健康な職場環境 団体交渉の権利
・差別の禁止
・懲罰の禁止:企業としての懲罰、精神的・肉体的強制支配、
不正言論の禁止
・就労時間:週労働時間 休日を一日以上含む48時間以下の就労、
自主的残業12時間以下
・報酬:就労者の生活に必要な最低賃金保障
・人材マネジメント
■□■ ルールを決めても守らなければ・・・ ■□■
ISO規格もSA規格も要求事項を組織の全員に守ってもらうことが
ポイントです。
文書を作成し、教育しても関係者がそれを知っていて
しかも順守することをマネジメントの最も重要なことです。
今回の講演は「ルールを守ってもらう」ということに焦点を当てました。
偶然ですが、品質管理学会では「日常管理の指針」という学会規格を
英文で作成していましたので、その紹介もさせていただきました。
■□■ 日本企業と民主化 ■□■
チュニジアには日本企業も工場進出しています。
今回の受講者の中にも矢崎総業の現地マネージャーがいました。
中年の女性の方で、なかなか鋭い質問をしてきました。
矢崎総業は、チュニジアの北と南に2つの工場を操業しており、
自動車用部品を製造しているということでした。
2011年、チュニジアでは失業していた若者が
焼身自殺したことがきっかけで、ジャスミン革命が起こりました。
これはその後、「アラブの春」と呼ばれる北アフリカの諸国の
独裁政権を倒す革命のきっかけになったと言われています。
しかし、民主化が順調に進んでいる国は
チュニジアだけだそうです。
エジプトもアルジェリアそしてシリアも
いまだ混乱の中にあるということです。
これは、エジプトは人口8,000万人という大国ですが、
チュニジアは1,000万人と比較的コントロールしやすい、
また国民一人あたりのGDPもエジプトは3,000ドルですが、
チュニジアは4,400ドルと比較的豊かであることが原因であると
聞きました。
失業率が高く、良質な労働力が多いのもこの国の魅力でしょう。
ちなみに日本の国民一人あたりのGDPは40,000ドルですから
一桁違った(安い)賃金レベルであることも工場進出には、
特にヨーロッパに向けての部品供給基地として地政学的に
有利な国であるといえます。
以上