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■□■ 平林良人の『つなげるツボ』Vol.131 ■□■
*** 保護貿易 ***
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■□■ トランプ旋風 ■□■
今年になってトランプ旋風が吹き荒れています。彼の政治信条
への賛否はともかくとして、アメリカ大統領の発言は世界に大
きな影響を与えます。
■□■ 保護貿易への回想 ■□■
彼の発言は「アメリカファースト」に代表されるように内向な方向、
姿勢が顕著です。多国間貿易協定を否定して、二国間貿易
協定を結ぼうとしています。
私は30年前、ECが日本メーカー製品(私が経験したのはエプ
ソンのプリンター)に課したアンチダンピング・デューティ
(Anti-dumping Duty)を思い出しています。
■□■ アンチダンピング・デューティ ■□■
正しくはアンチ・ダンピング関税措置といい、輸出国の国内価格
よりも低い価格による輸出(ダンピング(不当廉売)輸出)が、
輸入国の国内産業に被害を与えている場合にとられる処置
です。
アンチ・ダンピング関税は、ダンピング価格を正常な価格に
是正する目的で、価格差相当額以下で賦課される特別
関税をいいます。
アンチ・ダンピング関税制度は、WTO協定(GATT/AD協定)
において認められているものです。わが国では、関税定率法
(第8条)等により調査手続き等が定められています。
■□■ 税率の決め方 ■□■
この税金(関税)は輸入する国、即ち被害を受けていると主
張する国がイニシャティブをとって、税率を主導していける
ところにポイントがあります。
もう30年以上前になりますので、記憶違い、勘違いがある
かもしれませんが、当時私はセイコーエプソンの英国工場
長をしていました。
その時に大変な労力を費やしたのが、日本国内での製造
原価と輸出品価格との相関分析でした。ECは不当に安く
(ダンピング)輸出していると主張するのですが、我々は
データで不当ではなく実際に安く製造できることを示しました。
しかし、データで示しても相手が納得しないのがこの手の
交渉の難しさです。最後は弁護士を入れての交渉、政治
問題にまでなるという、民間組織としては降って湧いた
ような問題に多大な時間を取られ大変な思いをしました。
■□■ EC域内ファースト ■□■
当時我々が直面したのは、アメリカではなくヨーロッパ
(EC)でしたが、今回トランプ大統領が言っていることと
全く同様な論理展開がなされました(ただ当時はアンチ
ダンピング税を持ち出した)。
ECはEC域内で生産しなければ税金をかけると主張しま
したが、その背景には国内(域内)メーカーを何とか蘇生
させ、国内の経済活性化に寄与させ、国内投資増大、
労働力吸収をさせなければならないことがあったのです。
■□■ 保護貿易の交渉 ■□■
30年前の経験から次のことがいえるのではないかと思っ
ています。
1.輸入する方(アメリカ)が強い(イニシャティブを取れる)こと。
2.輸出する方(日本)は該当製品の交渉だけでは弱いこと。
3.したがって、輸出する方(日本)は自分たちが相手国
(アメリカ)から輸入するものを同時交渉として持ち出すこと。
■□■ 保護貿易が及ぼす影響 ■□■
保護貿易は多くの識者が述べているように自由貿易を
縮小させることから、世界経済を冷えさせ、自国のこと
しか考えないサイロ主義を蔓延させます。
グローバルでの視点は失われ、世界規模の課題にチャ
レンジする力が弱まってしまいます。最悪の場合、戦争
にさえなる危険を秘めています。
一方で、今まで全く意識せず謳歌してきた「自由」と言う
ことが新しい価値を持つように感じます。