品質不祥事 8 | 平林良人の『つなげるツボ』

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■□■ 平林良人の『つなげるツボ』Vol.381 ■□■
― ISOマネジメントシステムのテクノファ ―
― つなげるツボ動画版はじめました ―
*** 品質不祥事 8 ***
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「品質不祥事」についてお話をしています。
You tube「超ISO」の品質不祥事シリーズに沿ってお話をさせてい
ただいています。この前から第三者委員会調査報告書についてお話
をしていますが、今回はその5からです。

■■ 第三者委員会調査報告書 ■■
私が読んだいくつかの製造業の品質不祥事の「第三者委員会調査
報告書」を紹介します。我々が興味を持つのは、1)どんなことが
起きたのか、2)なぜ起きたかの2点です。「第三者委員会調査報
告書」は少ないものでも100ページ、多いものだと1,000ページ
を超えますので、ここでは2)に焦点を絞って報告書に記載された
ままを簡潔に紹介します。
なお、「第三者委員会調査報告書」の該当部分をそのまま記述し
ているため、文章のつながり、整合、体裁などが統一されていな
いところがありますが、ご容赦ください。

5.M株式会社  2021年2月
<原因の究明を行った結果>
1 工程能力を超える仕様での受注・量産
ア 人的投資が抑えられていた。
イ 顧客との間で製品の仕様について対等に議論できる知識を備
 えた技術者が限られており、受注に当たって開発部門が、顧
 客との間で仕様について?社の工程能力を踏まえた交渉を行う
 ことが出来ていなかった。
ウ 量産化に至るまでの過程において、DRの各段階において問題
 がありながら営業部門からのプレッシャーにより改善をせずに
 そのまま量産に移行していた。
エ DRは形骸化しており、不適合品の量産化を防ぐという本来期
 待されている機能を果たしていなかった。

2 顧客仕様を満たす製品を製造する工程能力の低下
ア 製造設備の更新については費用削減を優先し、更新時期を極
 力引き延ばしていた結果、製造設備の老朽化、陳腐化が進んで
 いた。
イ 業績悪化への対策として、生産能力を超えて製造設備を及び
 人員を稼働させ、利益の確保を図るという対応が行われていた。

3 品質保証体制の不備
ア 工程設計の段階で最終検査に割り当てる時間が全く考慮され
 ていなかった。製品が最終検査に回ってきた日に直ちに出荷
 するという顧客の納期に間に合わせることが常態化していた。
イ 顧客との間では最終検査を行うことが契約上の合意となって
 いたが、社内規定、システムでは出荷前に寸法、物性の最終
 検査を実施することになっていなかった。

4 検査人員。検査設備の不足
ア 顧客との契約上行わなければならない最終検査にどの程度の
 検査人員が必要であるか把握、検証されていなかった。
イ 最終検査を行う人員や設備が絶対的に不足していた。

5 納期のプレッシャーや他部門から検査部門に対するプレッシャー
ア 常に「とにかく早く出荷してくれ」と強く言われていた。
イ 工場内に在庫を保管するだけの十分なスペースが無かった。
ウ 製品がすぐに顧客に出荷され使用されるということが不適合
 品の流出を常態化させていた。

6 品質に対する意識の希薄化
ア 検査の意義など、品質管理に関する体系的な教育の機会が乏
 しく、品質管理教育はOJTに委ねられていた。
イ データの書き換えなどの不適切な行為が?年にわたって慢性
 的に継続してきたことがあり、製品の品質に対する従業員の
 意識は薄くなっていた。

7 赤字の続いた経営
ア 1990年頃までは国内シェア1位であったが、2000年代には国
 内シェア3位に後退していた。
イ 赤字が続き、海外に製造拠点を展開するも思うようにいかず
 国内工場への人的投資、設備投資は費用抑制され、製造設備
 の老朽化、陳腐化は進んでいった。
ウ 例えば、プレス機は30年以上交換されないものが8割以上を
 占めていた。

8 生産量の伸び
ア 一方で主力顧客である?動車業界は増産の一途をたどり、受
 注する製品量は年々増加した。
イ 社としての利益確保の要請と製品の特殊性から顧客業界には
 変わり得る製品が少なく受注謝絶ということは考えられなか
 った。

9 社内組織
ア 検査部門は⻑い間製造部門の下に置かれていた。
イ 検査部門は付加価値を生み出す部門ではないと考えられ、そ
 の位置づけは他部門より低いと認識されていた。