トヨタ物語 7 | 平林良人の『つなげるツボ』

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■□■ 平林良人の『つなげるツボ』Vol.390 ■□■
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*** トヨタ物語 7 ***
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あけましておめでとうございます。2023年も「つなげるツボ」
のご愛読をお願いいたします。昨年、品質不祥事について事例7
までお伝えしましたが、「トヨタ物語」も今回で7話になります。
トヨタ創業期の話と近年の品質不祥事の話には大きなギャップが
ありますが、この違いはどこから来るのか、考えさせられます。
下記の記述は1970年頃に私が聞いた大野耐一氏(当時副社長)
の講演記録からです。

■■ 価値ある商品作り ■■
自動車製造事業法が昭和11年に公布されることによって、国産
自動車企業の保護助成が行なわれることになった。しかし、市場
におけるニーズは売れる値段を企業が提供できるかにある。
喜一郎氏の根底の企業家精神がはっきりと読み取れる。以下は
喜一郎氏の述べたことである。

日本の現在の知識の集合によって漸く自動車の形状は出来る様に
なりました。その後これをいかに改善し発展させるかと言う事は、
今後の学術的研究と相まって進んでいますが、これはその後の問
題として現実に来たる時に大問題はいかに良い自動車が出来ても
高くて経済的に使用出来ない物では、何にもなりません。結局は
値段の問題に落ち着く訳です。果して日本ではどれ位の数量を作
れば国産車として適当な値段で出来るでしょうか。これは誰もが
知りたい数字でありますが、誰もが確答する事は出来ません。

■■ 売れる値段とは ■■
現実売れる値段で売らなくてはならず、売れる値段とはどの位の
価格であるか、少なくとも外国車より安くなくては売れないでし
ょう。愛国心に訴えて販売しても、月に50台や100台は何とか
なるかもしれませんが、500台を売りさばく事は難しい事なので
す。やはり価格で競争しなければなりません。殊に人の癖として、
新しい物を安く買う事に、一種の快楽を覚えるものでありますか
ら、必要以上に安く叩かれる事は、今迄我々が買った機械の販売
においても明らかであります。政府関係の車は定価格で買ってく
れるかも知れませんが、それ以外の物は必ず出来る限りの最大限
の値引きが行われるのです。それを愛国心に訴えると言う事は事
実上不可能でしょう。故に値段は思い切って安くしなければなり
ませんし、また行わなかったら毎月何100台という車を置いてお
く事は出来ないでしょう。如何に販売技術を向上させ、宣伝を巧
みにするとしても、一時はそれで何とか誤魔化すことも出来るか
も知れませんが、長続きはしません。段々国産車の値打ちが解っ
てくればそれ相当の値段で買って貰えますが、これまでは無償で
持ってきたら義理で使ってあげよう位の考えで国産車を使われる
人が多い事と思います。何も国家の為だと言って先に立って国産
車を使用して見ようと考えられる人は極めて少ない事と思います。
やはり新しい物に金額を掛けて良くしなくてはなりませんが、値
段はとても安くしなくてはなりません。国産車を作って売ろうと
するならばこれ位の事は当然考えなくてはなりませんが、果して
その値段で売って将来採算が取れるかどうか、この点は製造者と
して最も考慮を要する点であります。

■■ 消費者が買える値段 ■■
幸い自動車製造事業法が出来て、ある程度の無茶な値段の競争は
防がれました。しかし逆にこれが出来た為に、外国車も国産車も
以前より高くなる様では申し訳けがありません。少なくとも、こ
れが出来た為に国産車が発達し、その為に、消費者も安い自動車
が買える様でなくてはいけません。この点に大きな責任がありま
す。しかし始めからは安く出来ないのは当然です。現在国産車と
して売れる値段をもって経済的に製造し得る可能性が有るかどう
か、値段を安くするのは良いが、その為に材料や製品を悪くして、
使用に堪えない様になったら結局は何にもなりません。現に国産
車の出鼻において、常な困難が有ります。安くて良い品物を作れ
ば売れると言う原則には変りありませんが、始めから安くて良い
物が出来るはずはありません。この難関をいかにして突破するか、
自動車製造事業法は、無理な競争、殊に外国車の基礎も充分に固
まった実力の有る会社のダンピングを防ぐ意味において有効では
ありますが、正当な競争においてはやはり自らの力に頼る外、致
し方がありません。

■■ 自動車製造事業法 ■■
昭和11年5月には政府の国産自動車工業確立に関する「自動車
製造事業法」が公布された。自動車工業を政府の許可事業とし、
外車組立事業を抑制して国産自動車工業を育成するという、強力
なる政府の助成策であった。
これに対して喜一郎氏は、無茶な競争はおさえられるが、それに
甘えていれば、結局、一番肝心の消費者、つまりお客様に見放さ
れてしまうと、自らを戒めている。この考え方には、私企業の自
己責任意識が溢れでている。