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■□■ 平林良人の『つなげるツボ』Vol.434 ■□■
― ISOマネジメントシステムのテクノファ ―
― つなげるツボ動画版はじめました ―
*** 番外編_日経品質管理文献賞受賞4 ***
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今回の受賞の対象となった日本品質管理学会の「JSQC-TR 01-001
テクニカルレポート 品質不正防止」について説明をしています。
テクニカルレポートの目次に沿って、主要な部分である4章~7章
を簡単に紹介しています。今回は5章「品質不正はなぜ起きるの
か」の後半です。
■■ 5章 品質不正はなぜ起きるのか ■■
(6)内部通報制度の効果的な運用
組織の中で起こる各種トラブルや懸念事項は言いたいことを言え
ない閉鎖的な組織運営から生まれています。組織に存在するもの
モノを言えない環境においても正しいと思えることを第三者に伝
える制度として内部通報制度があります。しかし、組織内に制度
を正しく理解させていないため、せっかくの制度が効果的に活用
していませんでした。
(7)ビジネスモデルの転換
ビジネスのグローバル化が進展する中で、ビジネスの総括的な見
直しが遅れています。先進国組織と途上国組織とではビジネス戦
略はおのずから異なり、日本企業はより安く提供する競争相手と
の競争は避けなければなりません。しかし、コスト競争にまき込
まれ、コストミニマム化の中で品質不正に走った組織が少なから
ずありました。
(8)品質保証部門の役割
品質保証部門が本来の役割を果たさず、検査機能や監査機能に偏
ったものになっていました。本来品質保証部門は、製品出荷の差
し止めという強い権限を持っているはずです。顧客や社会のニー
ズを満たすための品質保証部門の役割を十分に果たしていなかっ
たのですが、これは経営層が品質保証部門を設置する際に、組織
設計上における品質部門本来の役割を十分に認識していなかった
結果であると思います。
(9)検査データの管理
データの管理において、自動記録される管理システムを持ちなが
ら、後から規格外のデータを書き換えられる環境であるなど、改
ざんの機会が多く存在していたことが挙げられます。データを複
数人で確認する体制をとっていない、事後にデータを追跡検証す
ることができない状態になっていたなどが不正を許す要因の一つ
となっています。
(10)監査機能の不全
組織には、内部監査、監査役監査、ISO外部監査、会計法人監査
など多くの監査が行われていますが、不正を見つけることが出来
ていませんでした。監査のやり方に問題があるのか、そもそも監
査に不正を発見することを期待することは無理なのかなど、要因
の所在がどこにあるのかは今後の改善にゆだねられていると思い
ます。
(11)日常管理
日常管理の基本は、組織機能を明らかにし、職責ごとに役割を割
り当て、その役割を果たすために必要な標準類を特定し、その熟
知・理解を図ることが基本です。その上で、管理者と実施者とが
管理項目、管理水準のすり合わせを行い、加えて、組織全員がい
つもと違う“何か変(異常)”を感じた際には、躊躇なく異常を言
える風土がなければなら名が、これらの基本が守られていなかっ
たことが要因であると考えられます。
(12)顧客要求事項の明確化とレビュー
組織が受注時に競争相手に勝って受注したいという思いから、受
注スペックの確認と自社の完成能力の確認を怠り、受注してから
能力がないことが分かり、品質不正を行わざるを得ない事例がい
くつか報告されています。
顧客との契約時には、仕様、検査項目・検査水準・検査条件など
の組織能力を確認することが重要です。
(13)公平で公正な評価
正しいことを発言し、実行することが必ずしも組織内の良い評価
につながらず、逆に品質不正を見逃したり加担したりすることが
良い評価につながる事例が報告されています。組織のこうした人
の評価のあり方が, 品質不正が長い間続く温床になっていたと考
えられます。
(14)品質不正を許さない組織文化
組織の理念や行動指針には「誠実さ」がうたわれ、個人の「意識」
や「行動」、それらの総体としての組織の「風土」や「文化」に
もそれらを意識していますが、実践されていないところに問題が
あります。人間個人は完全ではないので、組織として補完・担保
するための工夫や仕掛けが必要となります。経営者の絶えざる意
志の表示と、組織全体が品質不正防止の行動を礼讃する意識や行
動様式の定着さが重要です。
(15)人の不適切な行動
不正を行った人の行動を横断的に見ると、知らなかった、うっか
り間違えた、まぁ大丈夫だろうと意図的にルールを守らなかった
など、「人の不適切な行動」が重なって起こっていることがわか
ります。経験の少ない事業に取り組むと、業務を行うプロセスに
関するノウハウが不足しているため、問題が発生します。そこで、
データを集めて解析を行い、今までわかっていなかった原因に気
付く。原因がわかれば、その原因が起こらないような、又は起こ
っても大丈夫なような工夫を、プロセスに組み込むことが正常な
行動様式です。ところが、上手くいかないとき、失敗を咎められ
るというような理由で、きちんと原因を検討せず、個別に対応し
ようとして捏造、改ざん、隠蔽などに走っていく状況が多くみら
れます。