—————————————————————
■□■ 平林良人の『つなげるツボ』Vol.450 ■□■
― ISOマネジメントシステムのテクノファ ―
― つなげるツボ動画版はじめました ―
*** 特別採用(トクサイ)を考える2 ***
—————————————————————
近年の品質不正は今年になって「トヨタ」にまで波及してきました。
トヨタと言えば、当「つなげるツボ」でトヨタ物語として連続して
品質第一主義の話をさせていただいてきました。しかし、それは過
去の話であって必ずしも今にまでその伝統が引き継がれているとは
言えない、ということを思い知らされました。ことの本質は「良い
品質のものを作れなくなった」ことにあります。多くのことが影響
していると思いますが、前回からの続きで特採そして規格、公差に
ついて考えていきたいと思っています。
まず特採についてですが、ここではまずK社の第三者委員会調査報
告書の中に書かれている「トクサイ」について考えてみます。
■■ K社第三者委員会調査報告書の中の「特採」■■
K社品質保証室のスタッフは、特採、再検査、再加工、再製作又は
屑化の処置を決定するとされていたが、特採そのほかの処置をせず
にデータを改ざんして出荷していたことが明らかになりました。
技術部品質保証室内の材料試験を担当する検査員(材料試験検査
員)の行った材料試験の検査結果が、顧客仕様又は公的規格を満た
さないものであった場合、品質保証室のスタッフは、特採、再検査、
再加工、再製作又は屑化の処置を決定するものとされていた。しか
し、品質保証室のスタッフは、引張試験、結晶粒度測定、耐力試験、
硬さ試験及び油分測定の検査結果が、顧客仕様又は公的規格を満た
さない場合であっても、製品の安全性には問題がないと判断したと
きは、技術部品質保証室内のミルシート作成者又は材料試験検査員
に指示して、顧客仕様又は公的規格を満たす検査結果を検査証明書
に記入させ、当該改ざんされた検査結果に基づき、製品を出荷させ
ていた。
■■ 「特採」と「トクサイ」 ■■
ここでは正規の手続きを踏んだものは「特採」と表記し、そうでは
ないものは「トクサイ」と表記している、と脚注にあるので本稿も
その区分に沿って話を進めます。
さらに、本件不適切行為が行われた製品については、材料試験検
査員が所属する試験調査班において、その製品の製品番号、顧客名、
製品規格、検査実施日及び検査の実測データ等を「トクサイリスト」
と呼ばれるエクセルファイルに記録していた。そして、材料試験の
検査結果が、顧客仕様又は公的規格を満たさないものであったとし
ても、「トクサイリスト」を参照し、同種製品について過去に本件不
適切行為が行われたことが判明したときは、各材料試験検査員は、
品質保証室のスタッフに相談することなく、独自の判断で、顧客仕
様及び公的規格を満たす検査結果を検査証明書に記入した上で、製
品を出荷させ ていた。
特採はJIS Q 9001でも規定されている売り手と買い手の交渉による
不合格品(規格外品)の救済手段です。今の世の中、特採が品質不
正の元凶だという見方もあります(下記)が、決してそうではあり
ません。特採制度を正しく活用していないことが問題なのです。
■■ トクサイ(特別採用)は製造業の堕落だ ■■
「トクサイ(特別採用)は製造業の堕落だ」とのタイトルで日経ビ
ジネスが記事を掲載しています。
一連のデータ改ざんで浮き彫りとなったのが、トクサイ(特別採
用)と呼ばれる日本独自の商慣習でした。要求に満たない品質の製
品を、取引先の許可を得たうえで納入する仕組みです。
K:これにも非常にがっかりさせられましたね。納期を守るために、
契約と異なる品質の製品を出荷していたんでしょう。まともな製造
業なら、絶対に品質を犠牲にしないはず。相手が認めたとしても、
自らの矜恃が許さない。
しかも一部ではトクサイという慣習を悪用し、相手の承諾を得ない
まま不適格な製品を納入したケースすらあります。「過剰品質」と
言われるほど安全面を考慮しているので、多少なら許容されるだろ
うと考えているのでしょうが、それは何の言い訳にもなりません。
製造業としての「堕落」だと言うべきです。
■■ 本来の特採は ■■
製品の一部の寸法あるいは角度などいろいろな特性が規格から外れ
ていても必ずしも「使えない」わけではありません。両社(売り手
と買い手)の適切な評価のもとに、ある条件に限定した範囲で使用
可能となるケールは多くあります。両社の適切な評価のもと、場合
によっては寸法、角度、ほかの特性を見直すことも行われます。
ただし、「適切な評価」と言いましたが、特採、それに続く規格見
直しはどのように行うのでしょうか。
特採、および必要な場合それに続く規格見直しを行うには、今の規
格がどのように設定されたのかの根拠を知ることが必要です。規格
がどのように設定されたのかの根拠は前回述べた公差設計を知らな
ければならず専門的な話になりますので、別にお話しするとして、
もう少し特採が近年の品質不正でどのような役割を果たしてきたか
を見てみたいと思います。
■■ 仕様が厳しすぎる場合見直しを交渉する ■■
特採とは規格や仕様から多少外れた製品でも、安全性や性能に問題
がなければ買い手が特例的に買い取る措置であって、品質保証の仕
組みに関する国際規格のISO9001でも規定されているもので
す。
仕様が厳しすぎる場合、見直しを求めて交渉する例もある。ある
大手素材企業では、品質について納入先と意見をすり合わせるため
の会議を定期的に開く中で「安全性や性能に影響を及ぼさない範囲
で、仕様変更が決まることもある」(担当役員)という。結果として
「当社製品の品質が安定すれば、無駄が減って顧客にも貢献できる」
(同)ためだ。「正直に話してほしかった」。神鋼からアルミニウム
板の不適合品を仕入れていたトヨタ自動車の購買担当者は、ある素
材メーカーの幹部を前に、ため息交じりにつぶやいた。需要家は供
給側に求める仕様を本来必要な水準より高めに設定するのが一般的
で、多少の変更はきく。「合意の上で仕様を見直していれば、問題に
はならなかったはずだ」。トヨタの購買担当者のそんな胸中を、素材
メーカーの幹部は感じ取った。引用:素材メーカーが改ざんに陥った“トクサイ”という誘惑|ニュースイッチ by 日刊工業新聞社 (newswitch.jp)
(つづく)