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■□■ 平林良人の『つなげるツボ』Vol.478 ■□■
― ISOマネジメントシステムのテクノファ ―
― つなげるツボ動画版はじめました ―
*** ISO9001キーワード 人々4***
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日本のエンゲージメントは低いという話をしました。アメリカのギャラップ社
の調査によると日本従業員のエンゲージメント、すなわちやりがい、満足度は
主要国の中で下位に甘んじているとデータで説明しています。
その調査では、engaged (やる気のある)者の比率が日本では組織のわずか6%
であると示されています。
■■ ISO30414:2018規格 ■■
昨年2023年に一番売れたISO規格は、ISO30414:ヒューマンリソースマネジ
メントだったそうです(日本規格協会)。この規格には「人的資本、エンゲー
ジメントに関係する指針」が出てきます。
人的資本には,組織の人々の知識,スキル,能力の蓄積及び組織の長期的パフ
ォーマンスへの影響,そして組織の成果の最適化を通じた競争優位などが含ま
れます。
ISO30414では測定という用語を使用していますが、人的資本の測定は,組織が
最も重大と考えるであろう資源及びリスクの「人を管理すること」を促進する、
と説明されています。
人的資本を管理しない組織は,長期的かつ持続可能な価値を生み出す能力及び
機会を損なうかもしれない、として人的資本に無関心な組織に懸念を伝えてい
ます。
ISO30414は,労働における人権の原則を指針としており,ヒューマンガバナン
ス規格 (ISO 30408) と共に,人的資本のデータ収集,測定,分析及び報告に関
する指針を定めています。組織が利害関係者、特に外部の人を対象に発行する
人的資本報告(HCR:Human Resource Report)を標準化することは、次のような
利点があるとしています。
1.比較可能な人的資本への取り組みを外部利害関係者に公表すことにより、
組織価値をあげることが出来る。
2.外部公表を前提とすることで、従業員と組織の関わり合いを向上させる
ヒューマンリソースマネジメントのプロセスを改善させることが出来る。
3.人的資本への投資の結果として生まれる財務的及び非財務的な成果を得
ることが出来る。
4.組織の人的資本,及び現在及び将来のパフォーマンスに関する内部及び
外部の理解を増進させることが出来る。
5.利用しやすく透明性の高い人的資本データ及び洞察を得ることが出来る。
■■ 人材を資源と考えるか資本と考えるか ■■
上述の5つの利点はISO30414の序文に書かれていることを要約したものですが、
「人材を資本と考える」利点については明確な記述がありません。
従来の我が国の人材マネジメントは、まず現有人材の視点から始まりました。
そのため現有人材に基づく組織設計が行われ、現有人材に基づく組織のパフォー
マンスの発揮しか現実化しませんでした。その結果、組織が掲げる3~5年先の
経営戦略/ビジョンへの取り組み能力との間にギャップを生み出す結果となって
いました。
これからは、順序を逆にして、まず市場、顧客、競合を踏まえた経営戦略やビジ
ョンを設定し、これらを実現するための組織設計を行い、そこに位置付けること
のできる人を採用する必要があります。経営上取り組むべき将来と現在とのギャ
ップを明らかにすることで、将来への人材ニーズを導き出すことが出来るという
論法です。
この考えを基本にしますと、従来考えられてきた「人材は資源である」という人
材資源論から人材資本論に変わらざるを得なくなります。資源ですとできるだけ
効率よく使用して少ない人で仕事を回していこうという人を「コストとみる」考
えになります。
しかし、資本となるとできるだけ多く貯めよう、そしてそこからリターンを得よ
うという人を「投資とみる」考えになります。ISO30414の底流を流れるコンセプ
トは、人の位置づけを人材資源の見方から人材資本の見方に組織全体のマネジメ
ントにおいて変えようというものです。
そのための変革は容易ではありません。社内での人材の流動化や、外部からの採
用強化の高まりに伴って、従業員にリスキリングを求め、組織としてもリスキリ
ングの強化をはかり、現在業務から将来業務への転業を図るような工夫をしなけ
ればならない時代となってきました。
(つづく)