ISO9001キーワード 非差別的(社会的要因)―多様性 | 平林良人の『つなげるツボ』

2025年1月29日
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■□■ 平林良人の『つなげるツボ』Vol.494 ■□■
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*** ISO9001キーワード 非差別的(社会的要因)―多様性 ***
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アメリカトランプ大統領が「多様性」を否定する考えを表明してびっくりしま
した。この10年、DEI(ディーイーアイ) Diversity(多様性)、Equity(公平性)、
Inclusion(包括性)は、その3用語の頭文字を組み合わせた言葉として、SDGと
並んで世界のトレンドとなっていました。

■■ プロセスの運用に関する環境 ■■ 
ISO9001箇条7.1.4 「プロセスの運用に関する環境」には、次のような記述が
あります。
「組織は,プロセスの運用に必要な環境,並びに製品及びサービスの適合を達
成するために必要な環境を明確にし,提供し,維持しなければならない。
注記 適切な環境は,次のような人的及び物理的要因の組合せであり得る。
a) 社会的要因(例えば,非差別的,平穏,非対立的)
b) 心理的要因(例えば,ストレス軽減,燃え尽き症候群防止,心のケア)
c) 物理的要因(例えば,気温,熱,湿度,光,気流,衛生状態,騒音)
これらの要因は,提供する製品及びサービスによって,大いに異なり得る。」

a)社会的要因―非差別的―が今回のキーワードの出所になります。
私たちは子供のころから自分を中心として他者を次の2つ、すなわち仲間と仲
間でない者に分類してみています。これは無意識のうちに行われる人間の防衛
本能です。

■■ 自分の仲間か仲間でないか ■■
小中学校ではいまでも「いじめ」問題があり、新聞の社会面記事になっていま
す。いじめは無くさなければいけない、と思いますが、人間の本能に根差して
いますので、抜本的な解決はなかなか難しいのが現状です。
無くすことをあきらめるのではなくあくまでも目指すべきですが、現実的には
いじめはあるのだと認識して、そこから芽生える小さい芽、すなわち初期のう
ちに起きる問題を摘み取ることが対応策として適切であると思います。
今回のキーワード ―社会的要因 ―非差別― も同じであり、会社/組織/社会
にもいじめと言ってもよい差別が存在します。差別は区別であり、物事の本質
に迫れば必ず現れるものでもあります。層別という言葉がTQM(Total Quality
Management)にあります。品質関係の言葉ですが、多くのデータを分析すると
きの手法として広く使われています。

■■ 層別の目的 ■■
層別とは特徴によって区別することです。例えば、国別、男女別、年代別、地
域別、人種別に区別してデータを分析すると多くの事実が見えてきます。デー
タにはいろいろな特性を持った数値が入り交ざっていますので、同じ仲間だけ
を集めると数値全体の姿が見えてくるのです。
このツールを使用する時に(区別はしますが)、差別はしません。層別の目的
はあくまでも特徴によってデータを理解しやすいようにすることですので、こ
の作業の中には差別という概念は含まれません。データの区別の例の一つとし
て「人種」を上げましたが、ここでは区別するだけで、区別属性の差を意識し
て議論することはありません。

社会にはいろいろな人がいます。人間の行動様式を分析することは、社会学に
おいていろいろな目的を果たすために有用なことです。
分析に当たっては、データ一つ一つを見ることはしません。国別、男女別、年
代別、地域別、人種などに層別して分析すると、層別する前には見えなかった
事実が浮かび上がってきます。男の人は○○、女の人は△△という区別を明ら
かにすることで目的は果たせます。

■■ 非差別の目的 ■■
ISO9001箇条7.1.4において、職場環境において差別はあってはならないこと
を記述している目的は、人々の働くモチベーションを落とさせることが無いよ
うにすることにあります。社会においても多様性のある人々が混在している人
の集まりに区別を必要とする場合はありますが、その結果差別を生じさせては
なりません。差別をなくすスタートは多様性、すなわち区別を認めることです。
人々のグループにはこのような区別できる人々がいるということを構成する人々
に明確にすることが重要で、陰に隠してしまうと差別の温床を作ることになり
ます。多様性を認め、多数派、少数派と区別しても決して差を問題にして対応
を変えることの無い社会、組織にしたいものです。

(つづく)