2025年2月19日
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■□■ 平林良人の『つなげるツボ』Vol.497 ■□■
― ISOマネジメントシステムのテクノファ ―
― つなげるツボ動画版はじめました ―
*** ISO9001キーワード 外部・内部の課題―気候変動 ***
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ISO9001:2015は昨年2月に箇条4.1に1行の追加がありました。それは「組織
は、気候変動が関連する課題であるかどうかを決定しなければならない。」とい
うものです。今回はISO9001キーワードとして外部・内部の課題を取り上げま
す。
■■ 外部・内部の課題とは ■■
組織の外部及び内部には、いつの日も課題が目白押しです。課題は問題と違って
即刻手を打たなければならないというものではありません。問題に比較して時間
的な余裕はありますが、組織が成長していくためには常に課題を意識し、それら
を解決あるいは達成させていくことが望まれます。
既に1年経過しようとしていますが、ISOは2024年2月23日に気候変動に関す
る追補を発行しました。組織がISOマネジメントシステム (品質、環境、情報セ
キュリティ、労働安全衛生など)を運用している場合、外部の課題として気候変動
に関連していることをシステム範囲内で考慮する必要があるという趣旨を現行規
格に要求事項として追加したのです。
■■ 気候変動問題 ■■
国際社会では長年に亘って地球環境の問題に取り組んできました。1962年アメリ
カのレイチェル・カーソンが著わした「沈黙の春」は、DDT を始めとする殺虫剤
や農薬などの化学物質の危険性を訴えた作品でした。タイトルの沈黙の春とは、鳥
達が鳴かなくなって生き物の出す音の無い春という冒頭の状況を表しています。レ
イチェルの書いたこのままいくと地球には春になっても花が咲き緑が豊かに茂ると
いう当たり前の環境が大きく損なわれるという話は国際社会に波紋を呼びました。
1972年ローマクラブは「成長の限界」というレポートを公表しました。このレポ
ートは地球に住める人口は約60億人であるという趣旨をいろいろな側面から分析
したものでした。当時、既に世界規模で我々人間による大量消費、大量廃棄、その
結果による地球資源の枯渇、汚染の拡大、そしてオゾン層破壊、気候変動などが問
題視され始まっていました。国連では1983年「環境と開発に関する世界委員会」
(WCED:World Commission on Environment and Development委員長のノルウ
エィ首相ブルントラント(当時)の名前から「ブルントラント委員会」と通称され
る)が設立されました。
■■ ブルントラント委員会 ■■
1987年にはブルントラント委員会から最終報告書 “Our Common Future”(通称
「ブルントラント報告」(地球の未来を守るために))が発行されました。ブルント
ラント報告書は、グローバル化した経済成長と加速する生態系の劣化、気候変動な
どとの関係を調整することを目的としており、「経済開発」を「持続可能な開発
(Sustainable Development)」という視点で定義しました。これは、持続可能性
の考えを最も一般的に世界の多くの人々に広く伝えたものとして評価されています。
今日いろいろなところで使われている「持続的発展(Sustainable Development)」
という概念の原点であると言っていいと思います。ブルントラント女史は国連総会
で次のように述べたと伝えられています。「この地球は先祖からの遺産ではない、
未来の子孫からの預かりものである」。この報告書ではまず、温室効果による気温の
上昇や、地球規模で進行している環境の汚染と破壊を訴え、その背後には人々によ
る資源・エネルギーの過剰消費があると訴えています。
そして人類がこうした開発と環境悪化の悪循環から抜け出すためには、「持続的な開
発」という考えに移行する必要があると言っています。
この報告書の内容をより発展させた議論が1992年、ブラジルの環境サミットで世界
の首脳によって行われ、「アジェンダ21」(21世紀の課題)という文書が作成されま
した。この文書はその後幾多の修正、追加がされ、今日のSDGsに繋がっています。
■■ IAFとISOは共同コミュニケ ■■
マネジメントシステム規格に気候変動に関する配慮を要求事項として追補したことに
ついて、IAF(認定機関の世界連合)とISOは共同コミュニケを発表しています。共
同コミュニケでは、この追補は 2015年のCOPロンドン宣言に応じて整えられたも
のと説明されています。追補は「箇条4.1 項および箇条4.2の要求事項の全体的な意
図を変えるものではない」として、2つの箇条に追加された内容は、多くの組織で既
に外部および内部の課題として考慮されているものであるが、改めて重要な外部要因
であることを確実にすることを目的としたものであるとしています。
ISO認証機関は、該当する場合に、組織の判断及び関連する措置に対するプロセスの
有効性を確認することが期待されています。
(つづく)