2025年4月16日
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■□■ 平林良人の『つなげるツボ』Vol.505 ■□■
― ISOマネジメントシステムのテクノファ ―
― つなげるツボ動画版はじめました ―
*** ISO9001キーワード コミュニケーション5 ***
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人間には自己防衛本能があります。ISO9001箇条7.4には「コミュニケーション」
という要求事項がありますが、この自己防衛本能はコミュニケーションに大きな
影響を与えています。自己防衛本能は誰にでも備わっているもので、相手から身
を守ろうとする無意識な頭脳の働きです。
■■ 自分を守るには ■■
日本国は1990年にバブルを経験した後なかなか復活できず、ついに「失われた
30年」と言い出し、自分たちを自虐的に表現するようになってしまいました。社
会的、経済的にも国際競争力を年々落としてしまい、その元凶は、日本人がチャ
レンジしなくなり、イノベーションを起こすことができなくなったからだと自分
たちを反省、批判するようになりました。最近は会社でも「失敗を恐れるな、チ
ャレンジをしろ」とよく言われるようになりました。しかし、こうした仕事の環
境下では本能的に自己防衛力が働き、コミュニケ―ションもネガティブなものに
なる傾向が強まります。
自己肯定感が低い人ほど相手が思っている以上に物事を重く受け止め、つい相手
への対応が否定的なものになります。この否定的な対応は自分を低く置いて、相
手を持ち上げているものですが、相手から見るといつもより攻撃的だと感じさせ
てしまう場合もあります。
■■ チャレンジをしろ ■■
チャレンジしろ、挑戦をしろという言葉には意識していなくても相手を攻めるニ
ュアンスを含んでいます。
失敗は自分の評価を低めることになりますから、誰しも失敗するか、成功するか
を考えた時、多くの場合「やらない」ということになります。その背景には、失
敗すると責任を取らされるという現実があります。したがって、「チャレンジしろ、
挑戦をしろ」ということを言うならば、その前提として、失敗しても次へのチャ
レンジが許されるという組織風土が無ければなりません。この再挑戦という組織
風土を作っていくためには、組織内のコミュニケーションが大変重要になります。
■■ 自己防衛力を弱める ■■
組織内コミュニケーションを効果的にするためには、個人の自己防衛力を弱める
とよいと思います。自己防衛力が強いと、自分を守ることに心が向いてしまい、
本来目を向けなければならないことに焦点が絞られません。弱いと自覚している
部分(例えばチャレンジしない)に心が向くと、自分を守ろうとする力が自分自
身を動けなくさせてしまうからです。
特にストレスが溜まっている時、あるいは何かにこだわりを持っているときには、
なおさらに自分の心を守るために自己防衛力が強くなります。
自己防衛が強い自分を自覚して、どうしたらそれを乗り越えられるかを考えると
よいと思います。
まず、ストレスですが、外から心に力が掛かるとそれがストレスになりますが、
その多くは言葉による力です。「チャレンジしろ、挑戦をしろ」がその例ですが、
その言葉への心の反応を冷静なものにできるとよいと思います。ストレスは心と
体を疲れさせてしまい、ストレスがたまればたまるほど、身を守ろうとしてしま
い、相手のちょっとした言動にも敏感に反応してしまいます(自己防衛力が強く
なる)。
更に、心にこだわりがあると人の反応が過大に気になり、素直に自分の弱いとこ
ろを認めることができなくなります(その結果自己防衛力が強くなる)。
■■ ではどうしたらよいのか ■■
個人と組織の両サイドから考えることが大切です。個人が自己防衛力を弱くする
努力をすると同時に、組織においても個人の自己防衛力を弱くすることに合った
方針をもちそれに基づく活動を行うことが大変に重要です。
個人は実際の行動に移るまでいろいろ考えます。自分が非難されないか、自分へ
の評価が貶められないかなどを考えます。組織は、個人が考えるであろうことに
先回りして手を打つべきです。組織は、個人がチャレンジしてもし失敗しても、
その失敗を受け止め失敗は次への成長の機会であると個人を評価します。組織が
そのように対応するということを個人が認識できるためには、何回もそのような
対応をしていくことが大切です。1回や2回ではなく、また1つの部門だけではな
く、1,2年、組織全部門でそのようなことが方針として行われることがキーにな
ります。
組織が失敗を次のチャレンジへの糧と考えるようになると、個人は失敗したこと
を自分の責任?或いは誰かのせい?などを考えることなく、「何がそうさせたのか」
と考えることとなり、自己防衛という不必要なことにエネルギーを使うことをし
なくて済むようになります。このような土壌を作っておくことが、ISO9001箇条
7.4のコミュニケーションを効果的にさせる秘訣であろうと考えます。