Author Archives: 良人平林

品質不祥事 3 | 平林良人の『つなげるツボ』

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■□■ 平林良人の『つなげるツボ』Vol.376 ■□■
― ISOマネジメントシステムのテクノファ ―
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*** 品質不祥事 3 ***
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2017年から2021年までに継続的に社会を揺るがした「品質不祥事」
についてお話をしています。この間に起きた20事例について前回は
6番目の事例「医薬品」までお話ししました。今回は7番目から始
めます。You tube「超ISO」の品質不祥事シリーズに沿ってお話を
させていただいています。

■■ いま組織に何が起きているのか ■■
前回に引き続き品質不祥事の概要をお伝えします。ここに記してい
る概要は該当組織の発表、並びに新聞情報をもとにしています。近
年、社会的に話題になった品質不祥事はゆうに100を超えると思い
ますが、多くの業界で不正が行われている実態を知るために、でき
るだけ特定の業界に偏らないようにしたいと思います。暫く残りの
13事例の概要、すなわち不正の羅列になりますがご辛抱ください。

7.化学
・全7事業所, 127製品中42製品で品質検査データを検査せず捏
造していた。
・発覚後子会社を調べたら, 22社32品目でデータ改ざんや規定方
法以外の手順での不正検査が発見された。
・顧客との約束の検査を行わずにデータ書き込みしたことに, 社長
は本社の悪しき習慣が伝播したと話す。
・しかし, 社長記者会見後も一部で不正が継続された。

8.電機
・鉄道用空調装置架空のデータを自動で生成する専用プログラムを
1980年代から使い品質データをねつ造していた。
・明らかに組織的な不正行為であるとして社長は引責辞任した。
・「顧客との関係より自分たちの論理を優先する業務の進め方が問
題だった」(引責辞任した社長の弁)。

9.自動車
・無資格検査員による完成検査, 加えて燃費・排ガスデータの改ざ
んを行っていた。
・品質不正は製造2工場全体で行われていた。
・社長が処置完了と会見で発言した後も現場では同様の検査が継
続していた。
・両不正で約53万台をリコールした。
・社内調査, 弁護士等による第三者, 国交省による調査などに応対
できず社長は引責辞任した。

10.設備製造
・ゴミ焼却炉内部の耐火壁を支える金属部材「耐熱鋳鋼アンカー」
に含まれる炭素やニッケル, クロムの値がJIS規格を満たしていな
かった。
・購買担当者が, 過去の試験結果を転記したり改ざんの数字を書い
たりした成績表を20年間にわたり捏造した。
・不適合品は2005~2019年に, 国内外88社へ約10万個が出荷さ
れた可能性があるが,「安全性に問題はない」という。

11.研究所
・国内献血由来の血漿分画製剤の全製品について, 承認書と異なる
製造方法により製造されていることが判明した。
・いん蔽工作などが次々と明らかになり, 該当組織は2016年1月
18日から5月6日まで110日間業務停止処分となった。

12.セラミック
・米国のUL(アンダーライターズ・ラボラトリーズ)に提出する
認証試験および確認試験用の材料に組成の異なる「偽のサンプル」
を提供,合格して認証を取得していた。

13.油圧機器
・建物の免震・制振装置で性能検査記録のデータを改ざんした
(2003年1月~2018年9月まで986件)。

14.医薬品
・医薬品メーカーは加速試験や長期保存試験を無断で省略
(2009年ごろには既に行っていた)。
・出荷試験不適合ロットを廃棄処分せずに出荷していた(2011年
から手を染めていた)。 いずれもGMP省令違反である。

15.建設
・杭工事で品質データの転用や加筆などの改ざんが行われた。
・過去10年に請け負った物件3,040件のうち2,376件の調査が終
わった段階で, 約1割のデータ偽装が確認された。

16. 販売
・中央卸売市場で競り人2人が不正の取引を行った不正が発覚した。
・市場で販売取引の業務を担う会社社長は会見し, 「生産者,市場関
係者,各方面に多大な迷惑と心配をお掛けした」と謝罪した。

17.教育
・大学入学試験において,女子や多浪生らを不利に扱った不正が行
われていた。
・2013~2016年度の入試では109人が合格ラインを上回りなが
ら不合格になっていた。

18.介護
・有料老人ホーム施設長は資格のない介護職員に医療行為をさせ
ていた。
・医師法違反(無資格医業)容疑で逮捕された。

19.航空機
・航空機エンジン整備で資格のない従業員が検査をしていた
(エンジン整備と部品を合わせて約1万4,000件)。
・検査不正は常態化しており、2018年4月に内部告発があった
ものの, 見過ごされていた。

20.市場調査
・世論調査で, 業務を委託された業者が実際には電話せず不正に
データを入力していた。
・データを不正に入力, 捏造していたのは委託された業者から
再委託された業者であった。

品質不祥事 2 | 平林良人の『つなげるツボ』

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■□■ 平林良人の『つなげるツボ』Vol.375 ■□■
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*** 品質不祥事 2 ***
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近年報道が相次ぐ産業界の品質不祥事問題は、日本の産業界が長ら
く大事にしてきた「高品質なもの作り」という強みが失われつつあ
ることを意味します。1980年にはハーバード大学のアズラ・ボー
ゲル教授が「Japan as No、1」という著作を発表し、世界の工業製
品の品質について、日本製品の品質の良さを称えてから40年以上
経ってしまいました。

■■ いま組織に何が起きているのか ■■
You tube「超ISO」の品質不祥事シリーズ1回目では、国際競争力
の現状をお話しした後で「組織に何が起きているのか」と題して、
品質不祥事調査の概要をお話ししています。これは日本品質管理学
会のワ-キング・グループ活動の一環として行ったものです。 
・調査期間 2015年~2021年 
・対象 製造業、建設業、サービス業、行政、大学
この期間で大体100件くらいの品質不祥事が発覚しています。製造
業が圧倒的に多いのですが、建設業、サービス業でも起きています。
サービス業に入れてよいのか迷うところですが、行政でも大学でも
起きています。
中には品質不祥事とは言えない犯罪に近いものまでが起きています。
ここでは、明らかに品質不祥事と思えるもの45事例について話を
進めていきます。品質不祥事とは何かという定義を決めないまま議
論を進めることに異を唱える方がいらっしゃるかもしれませんが、
お許しください。
私は、とりあえず(1)法律、(2)行政からの規制、(3)JISなどの規格、
(4)認定基準、(5)契約、協定、さらに広く(6)社会規範などに違反する
ことが組織の製品・サービス提供において行われること考えていま
す。
もしお時間があれば定義をご提案していただければ幸いです。

■■ 45事例の概要 ■■
45事例の詳細については機会を改めてご説明できると思いますが、
ここでは45事例に特徴的なことをお話ししたいと思います。
1.長い間行われている。
 45事例それぞれの不適切行為の行われてきた期間をしらべると
そのほとんどが複数年以上に渡っています。長い場合は40年、50
年も行ってきたというものまであります。
2.部門全体で行われている。
最初は現場のグループで始めたことが段々と部門全体で行われる
ようになっています。しかし、最初から部門全体で行われたものも
ありますし、規模の小さい組織では最初から組織ぐるみで行われて
います。
3.ある程度続けると止められなくなる。
 不適切な行為を途中で止めようとしても、いままでと整合性が取
れなくなりグループや部門の判断では止められないケースがほとん
どです。
 調査期間で発覚した品質不祥事のほとんどは、内部告発によって
明るみに出ており、組織が自律的に公表した例は多くありません。
4.組織経営、業績にマイナスの影響を与えている。
 品質不祥事を起こした組織の多くが、その後売り上げの減少、利
益の減少、顧客離れなどのより社会的な信用を失っています。
5.多くの仕組みが形骸化している。
 内部通報制度、業務監査制度、ISO内部監査制度、法的規制遵守、
認証制度運用など多くのルールが組織内で有効に活用されていませ
ん。

■■ 品質不祥事の概要 ■■
 45事例の中から時期の古い順に20事例程どんな不祥事が起きた
のかを簡単に記載します。
1.化学メーカー
・汎用樹脂などの検査結果を入力しなくても、規格を満たす数値が
ランダムに表示される不正なシステムを使っていた。
・品質不正は1970年代から始まっていたとみられる。
・社長は「ここまで広がるとは想定していなかった。品質保証への
意識が私を含めた経営陣の間で低かった。反省している」と謝罪し
た。
・発覚当時、不正に関わっていたのは品質検査担当部署を中心に、
グループ全体で数十人にのぼった。
2.行政
・国の28機関で障碍者雇用数を計約3,700人分データ改ざんして
いた。
・40年以上行われていた。
3.鉄鋼
・品質検査データの改ざん、及び捏造を長年にわたり多くの職場で
行っていた。
・対象は7事業部門、12子会社の43の事業に及んでいる。
・40年以上行われていた。
4.自動車
・無資格検査員による完成検査を6工場で行っていた。
・加えて燃費・排ガスデータの改ざんを6工場で行っていた。
・社長会見で「処置完了」と発言した後も2度に渡り現場では同様
な検査が不正検査が継続していた。
・両不正で約130万台のリコールが行われた。
・40年以上行われていた。
5.金属材料
・子会社2社で改ざん指南書による会社ぐるみでの検査データ改ざ
んが行われていた(子会社社長は辞任した)。
・しかし、その後他の子会社3社でも検査データの改ざんが発覚、
さらにその後本社においても改ざんが発覚し、本社社長も辞任した。
・40年以上行われていた。
6.医薬品
・爪水虫などの治療薬に睡眠導入剤成分が混入により200人超に健
康被害が発生した。
・40年以上前から検査データを捏造しており、約8割の製品で虚偽
の製造記録を作成していた。
・立ち入り調査用に虚偽の記録を作成していた。
・薬機法に基づき過去最長となる116日の業務停止命令処分が下さ
れた。

品質不祥事 1 | 平林良人の『つなげるツボ』

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■□■ 平林良人の『つなげるツボ』Vol.374 ■□■
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*** 品質不祥事 1 ***
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今回から品質不祥事を取り上げます。昨今の品質不祥事は、日本の
産業界において、2017年の神戸製鋼の問題から始まり、直近の日野
自動車の問題まで、5,6年継続的に続いています。実は同じような
品質不祥事の問題が2003,4年当時、食品業界を中心に社会に発覚
しました。

You Tubeで「超ISO」を検索してください。私が投稿した「品質不
祥事」4回シリーズが掲載されています。今回の品質不祥事シリー
ズでは、皆さんと品質不祥事についていろいろな側面を議論してい
きたいと思っていますので、よろしくお願いいたします。

■■ 20年過ぎても解決されない品質不祥事 ■■
2004年当時、品質不祥事を起こした会社の社長がテレビの前で頭を
下げる光景を何度も見てきました。そして、20年近く経った今、ま
た同じ光景を目の当たりにしています。何とかならないのでしょう
か、どうして20年もの間、問題は解決されなかったのでしょうか、
我々はISO9001規格を中心に、品質保証、品質管理の勉強をしてき
ていますが、ISO9001は品質不祥事に対しては無力なのでしょうか、
知っているという事とやれるということは違うと言いますが、まさ
しく品質不祥事はその実例と言っていいのでしょうか。

■■ 科学技術の発展と品質不祥事 ■■
我々は急速に進化するテクノロジー革命の時代に突入していますが、
デジタル化、AI、ブロックチェーン、生命科学、宇宙開発、エネ
ルギー革命などの科学進歩は著しいにもかかわらず、組織の行動メ
カニズムに関しては驚くほどに解明がなされていません。社会に存
在する組織は、それぞれが固有な文化を持ち、固有であるがゆえに
組織の文化は「組織の風土」と呼ばれて、その特質、特徴は千差万
別です。したがって、品質不祥事は組織固有の問題故に、個別事象
として扱われ、品質不祥事の共通性についての分析はあまりされて
きませんでした。

■■ 日本の社会的風土 ■■
しかし、今日の品質不祥事は、調査してみると、組織文化が多くの
品質不祥事の要因に影響していることに気が付きます。戦後の日本
は、組織の全員が自分の業務を改善するという欧米人には考えられ
ない集団主義を武器に、全社挙げての実践により日本国産業界を大
きく躍進させました。集団主義の文化には仲間と協調することが何
より大切という意識が常に根底にありました。個人が集団から離れ
た動きをすると集団からは戻るような力が働き、それでも戻らない
と村八分にされてしまうという社会文化が日本にはあると言われて
います。
文化は国ごとに特徴がありますが、個人主義文化の欧米とは異なり、
集団主義文化の日本では、品質不祥事を論じるときにはこの文化の
特質を強く意識することが必要です。仲間と協調することは正しい
方向に向かうと大きな力になりますが、誤った方向に向かうととん
でもないことになるという事をもう一度噛み締めなければなりませ
ん。

■■ 国際競争力の低下 ■■
品質不祥事は、40年余にわたる国際競争力低下の要因の一つになっ
ていると思います。品質不祥事は国全体の問題と捉えて一刻も早く
手を打たないと後日後悔することになると思います。人の行動原理
と組織文化とがからむ品質不祥事は、実験を行うことはもちろん、
組織文化を解明するデータを集めることも困難、不可能です。しか
し、「品質不祥事」を引き起こす要因は何か,どんな対応策があり得
るのか、我々は組織を注意深く観察して事実に基づく答えを見つけ
る努力をしなければならないと思います。同時に、事象の一つひと
つにとらわれずに、不祥事の全体像を俯瞰して、総合的な見地から
の現実的解決に結びつく方法論を提案する必要もあると考えます。

次回からは、産業界の内部で何が起きているのか、どんなメカニズ
ムで品質不祥事が起きるのか、なぜ内部で解決されずに外部から指
摘されて初めて対応を取ることになるのかなどを考えてみたいと思
います。

SDGインパクト基準26 | 平林良人の『つなげるツボ』

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■□■ 平林良人の『つなげるツボ』Vol.373 ■□■
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*** SDGインパクト基準26 ***
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2015年に発表された国連「SDGsアジェンダ」についてお話をして
います。
SDGsとは、
“Sustainable Development Goals”の略で、「持続可能な開発」
と日本語訳されています。

今回は目標17です。

■■ SDGsのターゲット ■■
ここまでSDGsの16目標について、私なりの説明をさせていただい
てきました。実は17の目標の下には169のターゲットがあります。
ターゲットとは具体的な実行項目のことですが、それぞれの17目標
の下に平均して10個くらいの実行項目があるとお考え下さい。
目標1~16までは、私自身が関係していて、興味のあるターゲット
あるいはその中に出てくるキーワードなどを選んでお話をしてきまし
た。企業においても同様で、目標17の中から関係するものを選び、
かつターゲットの中からも関係するものに焦点を当てることがよいと
思います。
今回はSDGs17の目標の最後になりますので、目標17については
ターゲットまでお示ししたいと思います(目標17のターゲットは19
項目もあります)。出典(日本語訳)は外務省のホームページからです。
少々硬い文章で、出てくる用語も日常使用していないものもあり、退
屈かもしれませんが、SDGs17の目標の構造を知っていただくために
掲げます。

■■ 目標17 パートナ―シップ ■■
目標 17. 持続可能な開発のための実施手段を強化し、グローバル・
パートナーシップを活性化する。
<資金>
17.1 課税及び徴税能力の向上のため、開発途上国への国際的な支援
なども通じて、国内 資源の動員を強化する。
17.2 先進国は、開発途上国に対する ODA を GNI 比 0.7%に、後
発開発途上国に対する ODA を GNI 比 0.15~0.20%にするという
目標を達成するとの多くの国によるコミットメ ントを含む ODA に
係るコミットメントを完全に実施する。ODA 供与国が、少なくとも
GNI 比 0.20%の ODA を後発開発途上国に供与するという目標の設
定を検討することを奨励する。
17.3 複数の財源から、開発途上国のための追加的資金源を動員する。
17.4 必要に応じた負債による資金調達、債務救済及び債務再編の促
進を目的とした協調的な政策により、開発途上国の長期的な債務の
持続可能性の実現を支援し、重債務貧困国(HIPC)の対外債務への
対応により債務リスクを軽減する。
17.5 後発開発途上国のための投資促進枠組みを導入及び実施する。
<技術>
17.6 科学技術イノベーション(STI)及びこれらへのアクセスに関
する南北協力、南南協力及び地域的・国際的な三角協力を向上させ
る。
また、国連レベルをはじめとする 既存のメカニズム間の調整改善や、
全世界的な技術促進メカニズムなどを通じて、相互に合意した条件
において知識共有を進める。 17.7 開発途上国に対し、譲許的・特
恵的条件などの相互に合意した有利な条件の下で、環境に配慮した
技術の開発、移転、普及及び拡散を促進する。
17.8 2017 年までに、後発開発途上国のための技術バンク及び科学
技術イノベーション能力構築メカニズムを完全運用させ、情報通信
技術(ICT)をはじめとする実現技術の利用を強化する。
<能力構築>
17.9 すべての持続可能な開発目標を実施するための国家計画を支援
するべく、南北協力、南南協力及び三角協力などを通じて、開発途
上国における効果的かつ的をしぼった能力構築の実施に対する国際
的な支援を強化する。
<貿易>
17.10 ドーハ・ラウンド(DDA)交渉の結果を含めた WTO の下で
の普遍的でルールに基づいた、差別的でない、公平な多角的貿易体
制を促進する。
17.11 開発途上国による輸出を大幅に増加させ、特に 2020 年まで
に世界の輸出に占める 後発開発途上国のシェアを倍増させる。
17.12 後発開発途上国からの輸入に対する特恵的な原産地規則が透
明で簡略的かつ市場アクセスの円滑化に寄与するものとなるように
することを含む世界貿易機関(WTO)の決定に矛盾しない形で、す
べての後発開発途上国に対し、永続的な無税・無枠の市 場アクセス
を適時実施する。
<体制面>
政策・制度的整合性
17.13 政策協調や政策の首尾一貫性などを通じて、世界的なマクロ
経済の安定を促進する。
17.14 持続可能な開発のための政策の一貫性を強化する。
17.15 貧困撲滅と持続可能な開発のための政策の確立・実施にあた
っては、各国の政策空間及びリーダーシップを尊重する。
<マルチステークホルダー・パートナーシップ>
17.16 すべての国々、特に開発途上国での持続可能な開発目標の達
成を支援すべく、知識、専門的知見、技術及び資金源を動員、共有
するマルチステークホルダー・パートナーシップによって補完しつ
つ、持続可能な開発のためのグローバル・パートナーシップを強化
する。
17.17 さまざまなパートナーシップの経験や資源戦略を基にした、
効果的な公的、官民、市民社会のパートナーシップを奨励・推進す
る。
<データ、モニタリング、説明責任>
17.18 2020 年までに、後発開発途上国及び小島嶼開発途上国を含
む開発途上国に対する能力構築支援を強化し、所得、性別、年齢、
人種、民族、居住資格、障害、地理的位置 及びその他各国事情に
関連する特性別の質が高く、タイムリーかつ信頼性のある非 集計
型データの入手可能性を向上させる。
17.19 2030 年までに、持続可能な開発の進捗状況を測る GDP 以
外の尺度を開発する既存の取組を更に前進させ、開発途上国におけ
る統計に関する能力構築を支援する。

■■ 最後にお詫びを  ■■
今回のSDGsシリーズでの目的は表題にありますように「SDGイン
パクト基準
」の解説でした。しかし、その前提となるSDGs17の目
標の説明を始めたところ、当初思っていたより多くの回数を重ねる
結果となりました。
国連(正確にはUNDP)では、SDG認証を計画しています。
その基準になるのがSDG インパクト基準ですが、これはこれでま
た20回程度回数を重ねることになりそうですし、認証制度の全貌
もこれから発表される予定と聞いていますので、一旦SDGから離
れて、次回からは品質不祥事についてあれこれ気の向くまま綴っ
ていこうと思います。

SDGインパクト基準25 | 平林良人の『つなげるツボ』

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■□■ 平林良人の『つなげるツボ』Vol.372 ■□■
― ISOマネジメントシステムのテクノファ ―
― つなげるツボ動画版はじめました ―
*** SDGインパクト基準25 ***
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2015年に発表された国連「SDGsアジェンダ」についてお話をして
います。
SDGsとは、
“Sustainable Development Goals”の略で、「持続可能な開発」
と日本語訳されています。

今回は目標16です。

■■ 目標16 平和 ■■
目標16. 持続可能な開発のための平和で包摂的な社会を促進し、す
べての人々に司法へのアクセスを提供し、あらゆるレベルにおいて
効果的で説明責任のある包摂的な制度を構築する。
<16.1 あらゆる場所において、すべての形態の暴力及び暴力に関
連する死亡率を大幅に減少させる。>

目標も最後の2つになりました、最後の2つ「平和」(16)と
「パートナシップ」(17)は今まで述べてきた目標を統括する目標
です。

366号(目標11)でもお話ししましたが、ここには「包摂的(ほう
せつてき)」という言葉がキーとして登場します。
Goo辞書によると;
1.一定の範囲の中につつみ込むこと。
「知識はその中に―されている」〈倉田・愛と認識との出発〉
2.論理学で、ある概念が、より一般的な概念につつみこまれるこ
と。特殊が普遍に従属する関係。例えば、動物という概念は生物と
いう概念に包摂される。

■■ 平和で包摂的な社会  ■■
平和で包摂的(インクルージョン)な社会とは、誰もが平和(暴力
の無い)で社会に何らかの形で参画する機会を持ち、排除されない
ことを意味します。
包摂の英語は“inclusion”ですが、入れる、全体に纏める、包み込む
などの意味があり、すべての人を平和な社会に入れ込むことが目標
16の基本的な概念になります。
SDGsは「誰一人取り残さない」(leave no one behind)を合言葉
にしていますが、この概念が包摂的、すなわち誰も排除せず全員を
社会に参画させるように包み込むという意味につながるのです。包
摂の反対は排除ですが、弱い立場に置かれた人は、就業・雇用の機
会に恵まれなかったり、貧困に直面したり、社会の中に置き去りに
され、必要な支援や制度を受けられないということが起きます。
自分はそんなことはないと今は思っていても、誰もがある日突然弱
い立場になることがあります。例えば、水害にあい住んでいる家を
押し流されたというように、誰でもいろいろな災害に遭遇する可能
性があります。そのような状況では、弱い立場になった貴方に対し
て従来には考えられなかった受け入れ難いことが起こり得ます。

■■  包摂的な制度  ■■
日本国憲法第25条には、「すべて国民は、健康で文化的な最低限度
の生活を営む権利を有する。国は、すべての生活部面について、社
会福祉、社会保障及び公衆衛生の向上及び増進に努めなければなら
ない」とあります。
「弱い立場になった貴方に対して従来には考えられなかった受け入
れ難いことが起こり得ます」といいましたが、そうさせないための
社会的な制度が必要です。目標16には「包摂的」という言葉が2
度出てきますが、2番目の包摂的な制度は、誰をも包み込む社会的
制度を目標にしているのだと思います。
憲法25条の言う「健康で文化的な最低限度の生活を営む権利」に
応える制度がそれだと思いますが、よくセーフティネットという言
葉を耳にします。
社会的制度を網の目のように張ることで、国民全員が安全で安心な
生活を送れる仕組みのことです。また、ナショナルミニマムという
言葉があります。国が保障する国民の生活の最低水準を意味してい
ます。

■■  すべての形態の暴力及び暴力  ■■
一番ひどい暴力は戦争です。いまウクライナで起きていることをみ
ると国連の無力さを痛感します。さりとて目標16を諦めるわけに
はいきません。個人あるいは一企業だけでは目標16を達成するこ
とはできませんが、目標16を達成するために個人も一企業も努力、
協力することで戦争抑止の大きなうねりを作り出し早く戦争のない
世界を作り出していかなければなりません。

日本国憲法の前文には次のようにあります。
【日本国民は、正当に選挙された国会における代表者を通じて行動
し、われらとわれらの子孫のために、諸国民との協和による成果と、
わが国全土にわたって自由のもたらす恵沢を確保し、政府の行為に
よって再び戦争の惨禍が起ることのないようにすることを決意し
ここに主権が国民に存することを宣言し、この憲法を確定する。そ
もそも国政は、国民の厳粛な信託によるものであつて、その権威は
国民に由来し、その権力は国民の代表者がこれを行使し、その福利
は国民がこれを享受する。これは人類普遍の原理であり、この憲法
は、かかる原理に基くものである。われらは、これに反する一切の
憲法、法令及び詔勅を排除する。
日本国民は、恒久の平和を念願し、人間相互の関係を支配する崇高
な理想を深く自覚するのであって、平和を愛する諸国民の公正と信
義に信頼して、われらの安全と生存を保持しようと決意した
。われ
らは、平和を維持し、専制と隷従、圧迫と偏狭を地上から永遠に除
去しよう
と努めている国際社会において、名誉ある地位を占めたい
と思う。われらは、全世界の国民が、ひとしく恐怖と欠乏から免か
れ、平和のうちに生存する権利を有する
ことを確認する。
われらは、いずれの国家も、自国のことのみに専念して他国を無視
してはならないのであって、政治道徳の法則は、普遍的なものであ
り、この法則に従うことは、自国の主権を維持し、他国と対等関係
に立とうとする各国の責務であると信ずる。日本国民は、国家の名
誉にかけ、全力をあげてこの崇高な理想と目的を達成することを誓
う。】