Author Archives: 良人平林

SDGインパクト基準9 | 平林良人の『つなげるツボ』

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■□■ 平林良人の『つなげるツボ』Vol.356 ■□■
― ISOマネジメントシステムのテクノファ ―
― つなげるツボ動画版はじめました ―
*** SDGインパクト基準9 ***
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2015年に発表された国連「SDGsアジェンダ」についてお話をして
います。
SDGsとは、
“Sustainable Development Goals”の略で、「持続可能な開発」
と日本語訳されています。

350号で17目標の全体像をお伝えしましたが、前回から一つひとつ
の目標に関してお話をしています。今回は目標4についての2回目
です。

■■ 目標4 つづき ■■
目標4.すべての人々への、包摂的かつ公正な質の高い教育を提供し、
生涯学習の機会を促進する。

前回は目標4について、開発途上国の教育機会が与えられない子供た
ちの話をしましたが、今回は日本における義務教育について話をした
いと思います。

言うまでもありませんが、教育制度は豊かな人間社会をつくるために
無くてはならないものです。教育が社会に行き渡ることによって、民
主的合意も、勤労者の雇用や、職業の選択・転換も、社会全体におい
て比較的円滑に行われることになります。

教育があってこそ、活発で自由な言論、多様で創造的な発想、多くの
人びとが参加するベース作りなどが可能となります。
 
国民一人ひとりが、教育という公共インフラについて自分で考え、自
分で発信し、たえず教育を「自分たちのもの」として改善していく努
力を続けることが重要です。

自由経済社会にあっては、競争によって個人が抑圧される、貧富に格
差が付くなどの制度的デメリットが存在しますが、そのことで教育機
会に影響がないようにしなければなりません。公共インフラとしての
基盤がしっかりしたものであれば、お金がこの世で一番大切なもので
あるという錯覚もなくなるはずです。

■■ 教育という公共財産 ■■
公共インフラには、学校教育のほか社会保障、保健所、警察、消防、
郵便、公園、上下水道、ゴミ処理、道路や交通などがあり、我々の生
活に不可欠な公共サービスを提供しています。

公共サービスは営利事業とちがって、効率性や利潤を第一目的とする
ものではなく、サービスを如何に向上させるかを意識し第一義とする
ことが重要であると認識されています。

このような公共サービスの中で教育は他の公共サービスと全く異なる
特質を持っています。

鉄道、水道などの社会資本の整備と教育サービスの違いは何でしょう
か。一番大きな違いは、対象が「人の内面」にあるということです。
他のサービスもその対象は基本的には「人」に関することですが、あ
くまでも人の外面であって人の内面にサービスの重点を置くのは教育
だけです。

■■ 教育という公共財産 ■■
公共サービスは、自我の育っていない幼児から、多くのことを経験し
た成人までが対象であり、対象ごとに特化したサービスを提供しなけ
ればならないというのも大きな特徴です。

小学校の学習指導要領には「生きる力を育む」とあります。生きる力
は多くの要素から成り立っています。集団生活や社会の中で生きてい
く為には多くのことを学ばねばなりません。

中学生になると「自分を知る」ことが学習指導要領には出てきます。
中学生にとってみると、自分は曖昧模糊としたもので、自分の思いが
第三者からどう見えるのかはなかなか見えてきません。

自分の心の動き、常に揺れ動く判断、他者からの働きかけで変わって
しまう自分の考えなど、自分とは何者かを考え始めると焦点の結ばれ
た像がどんどん離れて行ってしまいます。

■■ 学校という公共財産 ■■
学校は必ずしも学問を教えるところではありません。本質的には、生
きていく為に必要最小限の事を教えるところです。ところが、学校を
卒業しても満足に生きていくことができない、生活ができない人たち
が増えています。

微分積分ができないからと言って、生きていく上で、支障があるわけ
ではありません。しかし、挨拶ができなければすぐに困ります。学校
で教えるべき事は、「生きていく」為には、何が必要なのかということ
です。

生きるとは生命力の全体的な発揮であり、偏った部分的な発揮では豊
かな人生を送れません。私たちは食べること、眠りにつく家を持つこ
と、愛し愛されることなどを通じて、社会の中につながった基盤を持
って自己実現を図ることができ、そうしたことが生きるということで
あると思います。学校はそのことを教えていく場であると思います。

雄大な山を見たり、森の中を歩いたり、太陽の輝きを浴び、樹々がき
らめくのを見たりする時に生きていることを実感します。学校はそん
なことを教える場になってほしいと思います。

SDGインパクト基準8 | 平林良人の『つなげるツボ』

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■□■ 平林良人の『つなげるツボ』Vol.355 ■□■
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*** SDGインパクト基準8 ***
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2015年に発表された国連「SDGsアジェンダ」についてお話をして
います。
SDGsとは、
“Sustainable Development Goals”の略で、「持続可能な開発」
と日本語訳されています。

350号で17目標の全体像をお伝えしましたが、以降一つひとつの目
標に関してお話をしています。今回は目標4についてです。

■■ 目標4 ■■
目標4 .すべての人々への、包摂的かつ公正な質の高い教育を提供し、
生涯学習の機会を促進する。
<2030年までに、すべての女児及び男児が、適切かつ効果的な学習
成果をもたらす、無償かつ公正で質の高い初等教育及び中等教育を修
了できるようにする。>

世界の総ての子どもが教育を受ける権利があるにもかかわらず、貧困、
紛争、人種偏見、国家予算などの理由から多くの子どもたちが教育を
受けられていない現状があります。

2017年時点で、世界では6~14歳の1億2,400万人の子どもたちが
学校に通えていないそうです。

学校に通えない子どもたちは、計算や文字の読み書きができないまま
大人になってしまい、各種の格差を持ったまま人生を送ることになっ
てしまいます。

■■ 教育を受けられない国  ■■
識字率の低いアフリカ地域の国には子供が教育を受けられない国が多
く存在します。東ヨーロッパと中央アジアの国々の識字率は男性が
100%、女性が99%と高いのですが、南アフリカなどの途上国では識
字率が低く、したがって教育に対する認識が低い傾向があります。

識字率は教育を受けているかどうかで大きく変わるため、識字率で男
女格差のある途上国では男女間の教育格差があることが問題視されて
います。

■■ 女子だからという理由  ■■
貧困層が多い国では、男子が女子よりもいろいろな面で優遇される慣
習が多く残っています。そのため、家庭が貧困な場合は女子よりも男
子を優先的に学校に通わせます。

なぜ、女子が教育を受けられないのかと言うと、「児童婚」の文化があ
るからです。貧困層の女子は、体が未熟なうちから児童婚を強いられ
ることがあるため、「女子に教育はいらない」という解釈が広まってい
るのです。

女子が学校に通えない理由の1つにトイレ問題もあります。貧困や教育
不足で悩んでいる国は、インフラが整っていないため、水を引くことが
できずトイレがありません。

それを理由に、学校に通えない女子も多いのです。子どもが教育を受け
られるようにする支援の中には、学校に女子トイレを設置する取り組み
が多く見られます。

■■ 児童労働も学校へ行けない理由  ■■
途上国の多くの場所では家事や幼児の子育ては子どもが担っています。
貧困な家庭が多い途上国では、両親が揃って働いていることも多く、家
のことや小さなきょうだいの世話などの労働をしなければなりません。

そのため、学校へ通っている時間がなく、教育を受けられない状況に陥
ってしまいます。

家事関係の中で多くの時間を要するのが水汲みです。この労働の担い手
も子どもであることがほとんどです。

飲み水などを確保するのに水道や井戸がない地域が多く、池や川、湖ま
で水を汲みにいく必要があります。

水を汲むためには片道多くの時間のかかる場所に行く必要があり、しか
も家族が1日に使う量を確保するために何往復もしなければいけません。

■■ 戦争も大きな理由  ■■
現在ウクライナ戦争が目の前で行われています。TVでがれきの山となっ
てしまった街をみれば学校へ行くどころではないことは一目瞭然です。

学校に通えない子どもが暮らしている国では、戦争が長期化しているケ
ースが多いのです。

そのような国では、学校を訓練所や避難所に指定しています。学校が頑
丈に作られていることと、学校が町の中心部に位置しているのが理由です。

軍の訓練が行われているすぐ横で、子どもたちが勉強しています。そん
な最中、学校が攻撃されることがあり、子どもたちが命を落とす事例が
後を絶ちません。

学校に通う途中や帰宅する途中で攻撃に巻き込まれることもあり、安心
して学校に通える環境ではないのです。

■■  学校の建設  ■■
途上国では子どもの人数に対して学校の数が足りていません。1番近い学
校まで数十km離れているケースは珍しくなく、子どもたちはその道のり
を何時間もかけて徒歩で通っています。

その現状を変えるべく、学校を建設する支援も進んでいます。学校の建設
や教師の質向上を行っても、子どもたちが学校に通ってくれなければ意味
がありません。

そのため、現地で暮らす子どもや親に、教育の必要性を理解してくれる試
みも大切です。教育を受けないことの危険さや受けるメリットなどを指導
する必要があります。

教育は世界中のすべての人にとって人生を充実させる基盤となるため、な
くてはならないものです。

SDGインパクト基準7 | 平林良人の『つなげるツボ』

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■□■ 平林良人の『つなげるツボ』Vol.354 ■□■
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*** SDGインパクト基準7 ***
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2015年に発表された国連「SDGsアジェンダ」についてお話をして
います。
SDGsとは、
“Sustainable Development Goals”の略で、「持続可能な開発」
と日本語訳されています。

350号で17目標の全体像をお伝えしましたが、351号から一つひと
つの目標に関してお話をしています。今回は目標3のつづきです。

■■ 目標3.健康、福祉 ■■
目標3健康について、前回、中世ヨーロッパの王妃の話をしました
が、残っている記録に基づいて再度お話をします。人々の暮らしは
今からは想像がつかないくらい劣悪な状態に置かれていました。

イングランド王エドワード1世の王妃エリナー(1241-1290)は
16人の子どもを授かりました。エリナーの子どもたちは中世ヨーロ
ッパで望みうる最高の条件のもと、最高の養育環境で育てられまし
た。彼らは宮殿で暮らし、好きなだけ食べ、暖かい服もたっぷりあ
り、当時とすれば最高にきれいな水を飲み、大勢の召使いや腕利き
の医師たちに囲まれて生活していたと当時の宮殿生活から推察でき
ます。

■■ 王妃エリナーの不屈の人生 ■■
しかし、そのような最高の養育環境にあったにも関わらず、彼女の
16人の子どもたちの生涯は次のようなものでした。
 1.1255年 娘(名前は不詳) 出産時に死亡
 2.娘 キャサリン 1歳あるいは3歳で死亡
 3.娘 ジョーン 6カ月で死亡
 4.息子 ジョン 5歳で死亡
 5.息子 ヘンリー 6歳で死亡
 6.娘 エリナー 21歳で死亡
 7.娘(名前は不詳) 5カ月で死亡
 8.娘 ジョーン 35歳で死亡
 9.息子 アルフォンソ 10歳で死亡
 10. 娘 マーガレット 58歳で死亡
 11.娘 ベレンガリア 2歳で死亡
 12.娘(名前は不詳) 出産時に死亡
 13.娘 メアリー 53歳で死亡
 14.息子(名前は不詳) 出産時に死亡
 15.娘 エリザベス 34歳で死亡
 16.息子 エドワード 43歳で死亡(殺される)

なんと、16人のうち成人にまで育った子はたったの6人です。

息子で子供時代の危険な年月を生き延びた末子のエドワードは、父
親が亡くなると王位を継承して、イングランド王エドワード2世と
なりました。言い換えれば、エリナーは、夫エドワードの後継とな
る男子を育成するという、イングランド王妃として根本的な使命を
果たすのに、16回もの試みを重ねなければならなかったのです。

■■ エドワード2世の運命 ■■
末子として生まれたエドワードは、それまで後継王と見なされてい
たアルフォンソが10歳でなくなったため、生後1歳では後継者と
して育てられるようになりました。しかし、父親がスコットランド
などとの戦争でほとんど城に居なかったため君主としての教育であ
る帝王学を得る機会はありませんでした。

そればかりか、女子の兄弟の中で育ったため歪な人格となり、歴代
イギリス王の中で最低の王と言われるようになったと言われていま
す。当時欧州一の美貌の持ち主と言われたフランスのイザベルと結
婚しますが、彼女を顧みることがあまりなく、43歳にして彼女の
命を受けた騎士によって惨殺されてしまいます。

■■ エリナーとエドワード1世夫婦の子どもたち ■■
私たちが知る限り、エリナーとエドワード1世夫婦はすこぶる健康
で、子供たちに致命的な遺伝病を伝えることはありませんでしたが、
それでも、16人の娘と息子のうち62%に当たる10人が子供時代に
亡くなりました。11歳以上になるまで生きたのはわずか6人で、
全体の18%に当たる3人だけが40歳を超えました。

エリナーとエドワード1世夫婦は、平均すると3年に1人の割合で
10人の子どもを次から次と失ったのです。

■■ ギルガメッシュ・プロジェクト ■■
世界でも最古の神話の一つである古代シュメールのギルガメッシュ
神話のテーマは「永遠の生」だそうです。

21世紀の現代、人間ゲノムの解明、健康、環境、医療の進歩により、
人生150年は視野に入っているそうです。次世紀(22世紀)には、
ギルガメッシュ王の願いも叶えられるかも知れないそうです。

SDGインパクト基準6 | 平林良人の『つなげるツボ』

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■□■ 平林良人の『つなげるツボ』Vol.353 ■□■
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*** SDGインパクト基準6 ***
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2015年に発表された国連「SDGsアジェンダ」についてお話をして
います。
SDGsとは、
“Sustainable Development Goals”の略で、「持続可能な開発」
と日本語訳されています。

350号で17目標の全体像をお伝えしましたが、351号から一つひと
つの目標に関してお話をしています。今回は目標3についてです。

■■ 目標3.健康、福祉 ■■
目標3. あらゆる年齢のすべての人々の健康的な生活を確保し、福
祉を促進する。
<3.1 2030年までに、世界の妊産婦の死亡率を出生10万人当たり
70人未満に削減する。
3.2 すべての国が新生児死亡率を少なくとも出生1,000件中12件以
下まで減らし、5歳以下死亡率を少なくとも出生1,000件中25件以下
まで減らすことを目指し、2030年までに、新生児及び5歳未満児の
予防可能な死亡を根絶する。>

目標3には多くの個別の目標がありますが、ここでは母親と新生児に
関する目標について考えたいと思います。

■■ ヨーロッパ中世の状況 ■■
21世紀の今の議論に17世紀頃の中世の話を持ち出すのは場違いと言
われるかもしれませんが、中世ヨーロッパの王妃は現在に比較して子
沢山だったそうです。
ある王妃は15人の子ども授かったそうですが、当時の医療水準が低
かったからでしょうか、成人になる前に亡くなってしまった子供は
60%を超えています。古い記録によれば授かった15人のうち、9人
が次から次に亡くなっています。

王族ですらこんな状況でしたので、一般庶民の子供の生存率はもっと
低かったのではないかと推測されます。私が17世紀の話を持ち出し
たのは、人類の社会的、科学的進化に目をやり、なお将来に向けてど
んな施策を考えていくべきかを俯瞰的に捉えることが良いと思うから
です。

■■ 世界の母親死亡数 ■■
「出産は命がけ」と言われる通り、出産において死亡する母親や子ど
もは世界的に少なくありません。母親や子どもが亡くなる死亡率は、
医療環境や衛生環境などで大きく変わることがわかっています。

最新の世界保健機関(WHO)発表によると、世界の妊産婦死亡数は
年間30万3,000人であり、妊産婦死亡率は0.216%(妊産婦10万人
に対して216人)だそうです。毎日830人が出産により死亡してい
る計算になるそうです。
開発途上国における死亡が多いのですが、その理由は次のようなも
のです。

■■ 母親及び子どもの死亡 ■■
開発途上国における母親及び子どもの死亡が多いのは、次の4理由
からであると国連は説明しています。
・若すぎる出産
・医療環境と保健サービスの未発達
・感染症対策の遅れ

■■ 若すぎる出産 ■■
国連広報センターからの報告では、母親・子どもの死亡率が高い開発
途上国では、出産リスクが高い青年期(10~19歳)の出産が多いこ
とが理由の一つであるとしています。

開発途上国では年間730万人の18歳未満の少女が出産しており、そ
のうち15歳未満での出産は200万人、そして年間7万人の少女が妊
娠と出産の合併症によって亡くなっているそうです。女性の身分の低
さ、児童婚が合法化されている、極度の貧困による圧力、などが若す
ぎる出産と死亡をもたらしていると説明されています。

■■ 医療環境と保健サービスの未発達 ■■
開発途上国では近くに医療施設がなく、医者や看護師が少ない地域が
多く存在します。そのような地域では、自宅出産が数多く行われ、知
識のない介助者が多量出血などに対応できず、母子の命が失われるこ
とは珍しくないそうです。風疹のワクチンを接種し、定期的に検診を
受け、出産には訓練を受けた助産師が立ち会い、出産後には母子の健
康状態を都度確認することが、母子の命を救うと説明されています。

■■ 感染症対策の遅れ ■■
感染症にかかっている母親の子どもは、低体重で生まれる可能性が高
く、健康に生まれても重度の感染症(敗血症や破傷風など)にかかり
死亡する恐れがあります。

開発途上国では、HIVやマラリアなどの感染症にかかっている女性が
出産すると、敗血症などの合併症リスクが高く、ユニセフによると感
染症による死亡は、新生児死亡の36%を占めているそうです。

SDGインパクト基準5 | 平林良人の『つなげるツボ』

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■□■ 平林良人の『つなげるツボ』Vol.352 ■□■
― ISOマネジメントシステムのテクノファ ―
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*** SDGインパクト基準5 ***
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2015年に発表された国連「SDGsアジェンダ」についてお話をして
います。
SDGsとは、
“Sustainable Development Goals”の略で、「持続可能な開発」
と日本語訳されています。

350号で17目標の全体像をお伝えしましたが、前回から一つひとつ
の目標に関してお話をしています。今回は目標2についてです。

■■ 目標2.飢餓 ■■
目標2. 「飢餓を終わらせ、食料安全保障及び栄養改善を実現し、持
続可能な農業を促進する。」
<2030年までに、飢餓を撲滅し、すべての人々、特に貧困層及び幼
児を含む脆弱な立場にある人々が一年中安全かつ栄養のある食料を
十分得られるようにする。>

国連世界食糧計画(WFP)によると「飢餓」とは、「身長に対して
妥当とされる最低限の体重を維持し、軽度の活動を行うのに必要な
エネルギー(カロリー数)を摂取できていない状態」と定義をして
おり、必要なカロリー数は、年齢や性別、体の大きさ、活動量等に
よって変わるとしています。

もっと分かり易く言えば、飢餓とは「栄養不良に陥り、健康で活動
的な暮らしを営むための十分な食糧が得られない」ことです。

日本で生活をしている私たちにとっては「飢餓」という言葉を聞い
ても、具体的なイメージが湧きませんが、国連が2019年7月に発
表した報告書によると、推計8億2,000万人が飢餓状態にあり、
3年連続で増加しているという深刻な事態にあります。

世界の9人に1人がこの問題に直面してとり、今でも飢餓が原因で
1日に何万もの人が命を落としており、世界規模での社会問題とな
っています。

■■ 飢餓人口の分布 ■■
飢餓人口8億2,000万人(9人に1人)の世界地域別の分布は以下
の通りです。
– アジア:5億1,600万人
– アフリカ:2億5,800万人
– ラテンアメリカ・カリブ海地域:4,600万人

世界で最も飢餓人口の多い地域は、アジアで、5億人を超える人が
飢餓に苦しんでいるということです。

アジアに飢餓に苦しむ人が一番多くいるというのは驚きです。私は
何回かユニセフに寄付をしていますが、ユニセフからの飢餓寄付へ
の広告はアフリカのイメージ写真が多く、私は圧倒的にアフリカの
飢餓人口が多いと思っていましたが、事実はアジアそれも南アジア
だということです。

■■ 飢餓が起こる原因 ■■
なぜ飢餓が起きるのでしょうか。その原因は、自然災害によるもの、
紛争によるもの、貧困によるものの3つに分類されます。

<自然災害による飢餓>
地震、津波、洪水、干ばつなど、自然災害は飢餓の原因になります。
農作物や田畑が被害を受け、家や仕事などの生活基盤も失われるか
らです。経済的にも物理的にも食糧を手に入れることができなくな
ります。飢餓に苦しむ8割以上の人々は、自然災害が発生しやすい
場所で生活していることが分かっています。

<紛争/戦争による飢餓>
2018年のWFPとFAOが国連安全保障理事会への報告によると、
紛争/戦争による飢餓がチャド湖周辺地域ほか16カ国で起きていま
す。
紛争/戦争が起きると、家や農地など全て捨てて避難しなければな
りません。避難せずに残ったとしても、危険なので農作業や仕事を
することができなくなり、食糧の確保が困難になり、そして飢餓状
態に陥ってしまうのです。現在進行中のウクライナ戦争もこの例に
なっていくかもしれません。

<貧困による飢餓>
飢餓は目標1.貧困と直接的に関係しています。貧困が長く続く
「慢性的貧困」によって飢餓が生じます。貧しい農民は農業を行
うための土地や水、種などを確保する資金が無いために、自給自
足が困難で、貧困や飢餓から抜け出すことができません。子ども
の世代にも続くという、貧困の連鎖を断ち切ることができないと
いう問題もあります。

■■ 食料は十分ある ■■
飢餓問題でいつも疑問に思うことがあります。それは世界規模で
どのくらい食糧が足りないのかという問題についてです。食料が
足りないから飢餓が起きるというのが江戸時代の「天保の大飢餓」
を知っている人の常識です。「天保の大飢餓」では、食べ物が無く
20~30万人が亡くなったと記録されています。
「食べ物が足りないのでは」と思っていましたが、実はそうでは
ないということが報告されています。
飢餓に苦しんでいる人は、世界の9人に1人の割合でいますが、
人間1人あたりの年間の食料消費量は約180kgであり、現在その
2倍近くの穀物が世界で生産されています。
世界には一人あたりに必要な食糧が十分にあるというのに、実際
には飢餓で苦しむ人、特に子どもたちが後を絶たないというとこ
ろにこの問題の難しさがあります。
(出典: 「世界の食糧安全保障と栄養の現状2018」
(出典:「第I章 2015/16年度の穀物等の需給動向」

どうしてそのような状況になってしまうのでしょうか。
私たちが口にしている食べ物は、生産されてから食べられるまで
に、加工・運搬・販売・購入といったたくさんの工程があります。

飢餓が問題になっている地域では、運搬や衛生環境など必要なイ
ンフラが整っていないことが多く、世界規模で見れば十分な食糧
が生産されているにも関わらず、そういった地域にまで届けられ
ない現状があります。

そうであれば、ユニセフは寄付もいいですが、余った食品をアフ
リカへ送る物流を呼びかけることも有用な解決方法になると思い
ます。

■■ 食品ロス ■■
開発途上国に対して食糧支援を行うことも大切ですが、「先進国
の食糧廃棄を減らす」ことも大切です。
世界では食用に生産される食糧のおよそ3分の1に当たる13億
トンが毎年廃棄されます。
そして、この廃棄された食糧を処分するために排出される温室効
果ガスは36億トンで、これは世界の温室効果ガス排出量の約8%
に達します。
食品ロスの問題は、私たちにいろいろなアクションが存在するこ
とを教えてくれます。