Author Archives: 良人平林

ハラリの「サピエンス全史4」 | 平林良人の『つなげるツボ』

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■□■ 平林良人の『つなげるツボ』Vol.346 ■□■
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*** ハラリの「サピエンス全史」 ***
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ハラリは著書「サピエンス全史」の中で、農業革命は人類に思わぬ
罠を仕掛けた。人類はまんまとその罠に落ち、今日の地球資源の食
いつぶしに直面している、との主張を紹介しています。
いまから1万年前に起きた「農業革命」にはいくつかの筋書きがあ
ります。筋書きの一つは、農業革命は我々が思っていたものとは違
うというもので、当時の人々が起こした農業革命は、楽な生活を探
求したものではなかったというものでした(Vol 345)。

■ ギョベクリテペ(2018年世界遺産) ■
トルコのギョベクリテペ遺跡の示唆するところは、農業革命がなぜ
起きたかの理由を示すものであるということです。狩猟採集民族の
人々がなぜそのような大規模な構造物を建設したのか、考古学者は
解明できていないのだそうです。ギョベクリテペの構造物を建設す
るには、異なる生活集団や部族に所属する何千もの人々が長い間そ
の工事に従事しないと完成しないことだけは分っていても、1万
2000年前のことの「なぜ」は解明しようがないのでしょう。多くの
意見は「儀式」のためではないかというものですが、判然としませ
ん。ここからが重要ですが、いままでバラバラにすんでいた人々が
構造物建造のために集まってきた、当然食べるものが足りなくなり
ます。そこに農業革命の端緒が見いだせるという筋書きです。
誰かが小麦の成長を早めるには雑草を取り、日光をより多く浴びせ
ることだと発見したのかもしれません。誰かが水やりを定期的にや
れば小麦はもっと成長する、誰かが動物の排出物を撒けばより大き
くなるということを発見したかもしれません。なにしろ時間はたっ
ぷりある時代のことですから、何十世代にもわたって少しずつ小麦
栽培のノウハウが溜まっていったと考えられます。

■ 農業革命はニーズが先にあった ■
農業革命が起きて定住の生活が世界に広がったのではなく、一つの
ことを成し遂げるために人々が集まり、集まった多くの人々が食べ
られるようになるために農業革命が起きた。すなわち、ニーズが先
にあったというのがこの筋書きのポイントです。でも、なぜそんな
に多くの人が集まったのでしょう。多くといっての数千人から数万
人だと推測されていますが。それが儀式のためだったというのです
が、後で触れる「未来への不安」がそうさせたということかもしれ
ません。
1万2000年前の人口はどのくらいだったのでしょう。当時の地球上
の人口は500万人から800万人だったとみられています。この数は
大阪府の人口(800万人)と同じです。ちなみに、2022年現在この
地球上には78億人を超える人々がいます。
農耕民の大多数は永続的定住地に住んでおり、遊牧民はほんのわず
かでした。定住すると、ほとんどの人々の縄張りは劇的に縮小しまし
た。古代の狩猟採集民はたいてい、何十平方キロメートルから何百平
方キロメートルに及ぶ縄張りに住んでいました。縄張りには、丘もあ
れば小川もあり、森や頭上に広がる大空も含まれていました。一方、
農耕民はほとんどの日々を小さな畑か果樹園で過ごし、家庭生活は間
口も奥行きも数メートル程度の狭い木造、石あるいは泥で出来た「家」
を中心に営まれました。

■ 農業革命のもう一つの筋書き ■
農業革命の他の筋書きは、このような狭い地域に住むことから、自己
中心的な心理状態を育んだというものです。農業民の縄張りは、狩猟
採集民の縄張りよりはるかに狭かっただけでなく、はるかに人工的で
した。狩猟採集民は自分たちが歩き回る土地に意図的な変化をもたら
すことはしませんでしたが、農耕民は周囲の未開地から切り分けた人
工的な「島」に住みました。森林を伐採し、水路を掘り、野を切り開
き、家を建て、鋤で耕し、果樹をきれいに並べました。出来上がった
住処は人間のためだけのものであり、雑草や野生の動物は全力を挙げ
て締め出しました。家の周りには強力な防御の仕組みを作ったり、処
理を施しました。たえず住まいに侵入しようとする野生動物、甲虫、
ゴキブリやハエまでもあらゆる手段で追い出しました。

■ 未来に関する不安 ■
農耕民の空間が縮小する一方で、彼らの時間は拡大しました。狩猟採
集民はたいてい、翌週や翌月のことは考えるにしてもそれほど時間を
かけませんでしたが、農耕民は想像の中で何年も何十年も先まで、楽
々と思いを馳せました。思いを馳せると、そこにあるのは希望ではな
く圧倒的に不安、懸念でした。未来に対する不安、懸念の多くは、食
べられるかというもので、自然に多くある食べ物をあさる狩猟採集民
とは違って、当時はまだ限られた種類の作物しか栽培できなかった農
耕民にとっては、自然災害はとてつもない恐怖でした。
農耕が始まったまさにその時から、未来に対する不安は、人間の心と
いう舞台の常連となりました。
この不安を除くには多くの人のネットワークが必要でした。また、不
安をなくすために出来るだけ多くの余剰食糧を作ることに専念したこ
とも、ネットワークを結び付ける原動力になりました。やがて、小さ
な村落は町に発展し、最終的には都市に密集して暮らすようになりま
した。

ハラリの「サピエンス全史3」 | 平林良人の『つなげるツボ』

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■□■ 平林良人の『つなげるツボ』Vol.345 ■□■
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*** ハラリの「サピエンス全史」 ***
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前回に続きハラリの「サピエンス全史」についてお話をします。
前回は7万年前に起きた「認知革命」の話をしましたが、今回は
1万年前に起きた「農業革命」の話をします。まず確認しておき
たいことは、1万年前のサピエンス(我々の先祖)は、現代人の
我々と全く同じ知力を有していたという事実です。1万年前のこ
とを事実と断定することは危険かもしれませんが、本書を読むと
次から次にと繰り出される古代の物証(人骨、洞窟内の壁画、古
墳内の道具、装飾品など)から、ほぼ事実であると納得をします。

■ 農業革命 ■
農業革命により人類は食べることに困らなくなり、大きく発展へ
の道を踏み出しました。人類は250万年にわたって、動物を狩っ
て、植物を採って食べ物にしてきました。ホモ・サピエンスはア
フリカから中東へ、ヨーロッパ大陸、アジア大陸へと広がり、最
後にはオーストラリア大陸とアメリカ大陸へと拡がりました。サ
ピエンスはどこへ行こうとも野生の動物を狩り、野生の植物を収
集して暮らしていました。他にすることはありませんでした、と
いうのは、空腹を満たすことさえできれば、あとは認知革命で得
た言葉と脳内の空想とで豊かな世界を満喫出来ていたのです。
しかし、1万年前ほどにすべてが変わります。それは何種類かの
動植物の生命を維持することにすべての時間と労力を傾けること
になった時です。
農耕(小麦の栽培など)への移行は、紀元前9,500~8,500年ごろ
にトルコ南東部、イラン西部で始まったとみられています。かっ
て、学者たちは、農耕は中東の単一地域で始まり、世界各地へ広
がったと考えていましたが、今日では世界さまざまの地で完全に
独立した形で発生したという意見で一致しているそうです。
しかしこの革命が人類の運命を大きく変えることになったとハラ
リは主張します。いままで必死になって獲物を探して生きてきた
人類が楽に食べられるようになった結果、人類はどのようになっ
たかを克明に、しかも説得力を持って説明します。

■ 農業革命の功罪 ■
かって学者たちは、農業革命は人類にとって大躍進だと宣言して
いました。進化により、しだいに考えることのできる人・知能の
高い人が生み出され、自然の構造を知るようになり、ヒツジを飼
いならし、小麦を栽培できるようになりました。危険な狩猟民族
であることから定住できる農耕民族へと多くの人が移ったのです
が、実はそこには罠があったと彼は語ります。
それは食料の安定供給のために人類は数を増やすことが出来たが、
増えた人口を養うためにより多くの食料が必要なったという、悪
循環が始まったというのです。
ある種が「存在することに成功した」ということは、DNA二重螺
旋の「複製数がより多くなったことである」と彼は定義していま
すが、多くなりすぎたホモ・サピエンスを待っていたのは実は豊
かな暮らしではなく、より過酷な労働であったと農業革命の罪を
強調しています。

■ 農業革命の基盤に築かれた現代 ■
一度成功すると元には戻れません。すなわち農業革命でDNAの
複製が増加し始めると減少させることが出来ないのがこの世界の
習いであるとハラリは言います。これは現代にもつながっていま
す。多くの若者はがむしゃらに働いてお金を稼ぎ40,50歳になっ
たら人生を楽しむと誓いますが、決してそのようにはなりません。
そのころには子供が生まれ、ローンを抱え、本当は余暇を楽しむ
予定であったのに、死ぬまで働き続けるレールに乗ってしまって
います。
いろいろ便利なものが発明され本当は自由になる時間を楽しめる
はずが、ますます忙しくなるのはどうしてでしょうか。電子メー
ルなどは以前に比べれば格段に効率が良く時間が生み出されるは
ずが、とんでもない、益々時間に追われるようになっているのは
どうしてでしょうか?
贅沢を知ると元に戻れないのはどうしてか、ハラリは重要な教訓
を農業革命に知ると言います。それには、なぜ農業革命が起きた
かの筋書きを知ることが必要であると言います。

■ 農業革命の筋書き ■
筋書きの一つは、農業革命は我々が思っていたものとは違うとい
うものです。当時の人々が起こした農業革命は、楽な生活を探求
したものではなかったというもので、サピエンスは他に強い願望
をいだいており、そのために農業革命が起こったという筋書きで
す。その手掛かりは、1960年頃発見され、2000年前後に詳しく
調査されたトルコのギョベクリテペ(2018年世界遺産)の遺跡
で、多くの7トン程の石柱に見事な彫刻を施した記念碑的建造物
群です。考古学者たちを驚かせたことは、放射性炭素年代測定に
よる調査の結果、地球上で最古の文明だといわれていたメソポタ
ミア文明よりも、7,000年も古い文明の遺跡であることが判明し
たことでした。放射性炭素年代測定は、12,000年前ころには高
度の文明が存在していたことになり、世界の考古学界はこの発見
をにわかには受け入れなかったほどでした。12,000年前当時は、
狩猟採集社会であり、ストーンヘンジ(4,500年前の農耕社会)
と同様な高度文明が狩猟採集社会に既に存在していたということ
になるからです。
しかも、発見されたギョベクリテペ遺跡のトルコ南部は、世界で
最初であろうといわれる「小麦栽培の地」と数十キロしか離れて
いないのです。

ハラリの「サピエンス全史2」 | 平林良人の『つなげるツボ』

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■□■ 平林良人の『つなげるツボ』Vol.344 ■□■
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*** ハラリの「サピエンス全史」 ***
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前回に続きハラリの「サピエンス全史」について感想を記したい
と思います。まず認識を新たにしたのは3万年前頃のサピエンス
は現代人と同じ知能を持っていたという説明についてです。200
万年前頃に類人猿の一種類にDNAの突然変異が起き、その人種
がホモサピエンスの先祖であるという。そこから100万年単位で
ホモサピエンスは徐々に進化をしていき、10万年前頃までには他
の類人猿とは比較にならない高い知能(そうはいっても現代人に
は劣る)を持つようになったという。しかし、約7万年前に認知
革命が起きると、数万年をかけて、3万年前頃にはサピエンスは
現代人と同じ知能を有するようになったということです。

■ 認知革命 ■
認知革命とは、生きている今の世界から離れて、虚構の世界を空
想するようになった革命(大きく変化した)のことだそうです。
この空想は言葉により語られる(いろいろな神の物語)ようにな
り、数万年かけて徐々に今の我々と同じ脳を持つようになったと
いうことです。
なぜ認知革命が起きたのかについては、またもや突然変異が起き
たという説明です。7万年前頃、サピエンスの脳内のDNAの配
線が偶然大きく変わったが、ホモサピエンスの他の人種、例えば
ホモエレクトスにはそのような突然変異は起きなかったというこ
とです。
この説明は、現在多くの研究者が同意しているものだということ
です。3万年前のサピエンスが我々と同じ知能(記憶力、想像力、
理解力など)を有していたとは俄かに信じがたいのですが、それ
を説明する客観的な古代遺物がいろいろ発見されているのです。
ただ、私には200万年前の突然変異、7万年前の脳内配線の変化
(突然変異)というところが理解しがたいのですが、昨今の新型
ウイルスのことと重ね合わせると真実味が増します。

■ 古代遺跡文化 ■
サピエンスが3万年前頃には現代人と同じ知能を有していたとす
ると、いろいろな古代遺跡がなぜ作れたかの説明が付くように思
います。エジプトのピラミッド、イギリスストーンヘンジの巨石、
イースター島にあるモアイ像などの古代遺物は作られた年代も様
々ですが、重機の無かった数千年前にどのようにして作ったのか
実に不思議です。巨大なピラミッドの作り方はいろいろ研究がさ
れほぼ解明されていると言っていいと思いますが、他の巨石遺物
についてはいまだにどのように切り出したのか、運んだのか、作
ったのか不明なものがたくさんあります。
しかし、その頃の人が我々と同じ知能を有していたと知ると、宇
宙人説などは吹っ飛び、合理的な理解への突破口が開かれた思い
がします。

■ 10,000年は何世代 ■
1世代を30年とすると、1万年は333世代が紡いできた歴史とい
うことになります。自分から数えて333もの先祖の存在は気の遠
くなるような話ですが、その間にDNAのコピーが一部欠損したり、
変わったりするということはなんとなくわかるような気がします
(それらの大きなものが突然変異?)。
私の家には家系図なるものが菩提寺にありますが、江戸時代から
の系統しか記されていません。しかも、住職によると明治時代に
は家系図を売る商売があって、普通の家柄(平林家)の家系図の
多くはもしかすると家系図屋から買ったものかもしれない、とか
つて聞かされました。
我が家の家系図には10代(300年)しか書かれていません。多
分日本で一番信頼が置ける家系図である天皇家でも70世代
(2100年)位しか明確になっていないのではないでしょうか。
誰が(天皇家を超える5倍近くもの)先祖333世代の姿、形を想
像できるのでしょうか?

■ 農業革命 ■
農業革命は1万2000年前に起きたそうですが、これにより植物
の栽培化と動物の家畜化がすすみ、人々は永続的に定住するよう
になりました。しかし、この永続的定住がその後の人類に必ずし
も明るい未来を創ることにならなかった、という物語は次回お話
ししたいと思います。

ハラリの「サピエンス全史1」 | 平林良人の『つなげるツボ』

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■□■ 平林良人の『つなげるツボ』Vol.343 ■□■
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*** 新刊書3冊 ***
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令和4年の正月はコロナウイルスも小康状態になったと思いまし
たが、また第6波の渦中に引き込まれそうです。現在はデルタ株
に続くオミクロン株が猛威を振るいつつあり、安心はできません
が、長い人類の歴史を振り返ると人類はこのくらいの出来事はこ
とごとくやり過ごしてきたということが理解できます。というの
は、正月に読んだ3冊の新刊書の中の一冊(上下巻合わせて2冊)
にそのようなことが分かり易く書かれていたからです。その本は
ユバル・ノア・ハラリ著「サピエンス全史」です。
正月には、その他にブライアン・グリーン著「時間の終わりまで
・・物質、生命、心と進化する宇宙」、ローレンス・クラウス
「宇宙が始まる前には何があったのか」、また読み返した本に
ジェレシー・リフキン「エントロピーの法則」、その他AI関係
の本を乱読しました。

■ 「サピエンス全史」■
昨年、上下巻の本書は世界で500万というベストセラーになりま
した。宇宙が出来て135億年、地球が出来て45億年、人類の先
祖がアフリカに現れたのが250万年前、今の我々と変わらないホ
モ・サピエンスが現れたのが20万年前、体力・頭脳が現代人と
変わらないほどにサピエンスが進化したのが7万年前である、と
いう時間の流れに沿って人類の進化を説明する壮大な歴史物語が
本書の全体像です。1万3千年前にはホモ・サピエンスが唯一生
き残っている人類種となりました。サピエンスが多くの他の人種、
例えばネアンデルタール人、ホモ・デニソワ人、ホモ・エレクト
ス人などの人類種の中から生き残ったのはなぜか、をハラリは多
くの客観的な事象から明快に説明しています。ここでいう客観的
な事象とは洞窟に残された人骨、壁に刻まれた絵、考古学者の研
究などですが、著者の溢れんばかりの博学には大変驚かされます。

■ 3つの革命 ■
人類は3つの革命を経て現代の状況を築くまでになったと説明し、
その功罪を鋭く分析しています。
3つの革命とは、認知革命、農業革命、そして科学革命です、認
知革命は7万年前に起き数万年の間に緩やかに人類種を他の動物
を凌駕する存在へと押し上げていった革命です。認知革命は言語
を発達させ、今我々が知る歴史的現象の多くを引き起こします。
農業革命は1万2000年前に起きました。これにより植物の栽培
化と動物の家畜化がすすみ、人々は永続的に定住するようになり
ました。
科学革命は500年前に起きました。いままでの革命が10,000年
単位で行われたのに対して、科学革命は数100年の短い時間の中
で起きました。その中には200年前に起きた産業革命も含まれま
す。
2022年の今日、サピエンス全史を読んでいると、1600年代はち
ょっと手を伸ばせば触れるような近さにあることを実感させられ
ます。地球の全体史45億年、人類種の歴史250万年からみると
産業革命以降の200年は極めて短い特異な時代であると改めて思
います。
昔の物語だと思っていた、織田信長、豊臣秀吉、徳川家康の世界
もこの特異な時代である科学革命500年の中にあるということで
す。
時間の長さを実感するために、地球誕生45億年が1日24時間で
あるとすると、2022年の今日は23時59分59秒過ぎの1000万
分の1という気の遠くなるほんの瞬間に位置付けられ、我々はそ
の一瞬の時間の中に生きているということになります。

■ 認知革命 ■
8万年前、すなわち認知革命が始まる前のサピエンスは外見から
は今日の私たちとそっくりで、脳の大きさも同じくらいであった
が、脳の構造は私たちとは比べ物にならない低いものであったと
いう。それが7万年前から3万年前にかけてホモ・サピエンスは
非常に特殊なことを始めました。その結果、多くの研究者が賛同
しているように、ネアンデルタール人を絶滅させ、オーストラリ
ア大陸に移り住み、シュターデル洞窟に象牙彫「ライオン人間」
を残すほどになったといいます。その当時の人々は私たちと同じ
くらい高い知能を持ち、創造的で、繊細であったと研究者たちは
言い切ります。もしシュターデル洞窟の芸術家たちに出会ったと
したら、私たちは彼らの言語を習得することができ、彼らも私た
ちの言語を習得することが出来るであろう、とまで説明していま
す。

■ 非常に特殊なこと ■
ここで非常に特殊なこととは何か、気になるところですが、それ
は「新しい思考と意思疎通の方法の登場」のことであると説明し
ます。
最も多くの説は、本当かどうか定かではないと断りながら、たま
たま遺伝子の突然変異が起こり、サピエンスの脳内の配線が変わ
り、それまでにない形で考えたり、全く新しい言語を使って意思
疎通したりすることが可能になったのだといいます。それがなぜ
ネアンデルタール人ではなくサピエンスのDNAに起こったのか?
研究者の多くはまったくの偶然であったと説明しています。どん
な動物も何かしらの言語を持っていますが、サピエンスの言語
(基本的な言語;英語もヒンディー語も中国語もその他の言語も
サピエンス言語の一変種)は驚くほど柔軟であったといいます。
また私たちの言語は噂話のために発達したという説も多くの支持
を得ているといいます。私たちにとって社会的な協力は、生存と
繁殖のカギを握っています。自分の集団の中で、誰が誰を憎んで
いるか、誰を愛しているか、誰が正直か、誰がずる賢いかなどの
ためにほかの動物には見られない言語の発達があったのが認知革
命のコアであるといいます。

ナラティブ内部監査46 | 平林良人の『つなげるツボ』

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■□■ 平林良人の『つなげるツボ』Vol.342 ■□■
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*** ナラティブ内部監査46***
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ナラティブ内部監査シリーズも最後です。
実践し効果が確認できたならば、第5ステップに進みます。第5
ステップは「解決したことを水平展開、歯止めして改善する。さ
らに、改善したことを革新へのインプットにする。」となってい
ます。
・第1ステップ : 今行っている内部監査をレビューする。
・第2ステップ : どのような内部監査を行いたいか、行うべ
         きかを組織内でコンセンサスを得る。
・第3ステップ : 内部監査員、被監査者の共同作業の基盤を
         作る。
・第4ステップ : 発見された問題(不適合、観察事項、気づ
         き事項)などを解決する。
・第5ステップ : 解決したことを水平展開、歯止めして改善
         する。さらに、改善したことを革新へのイ
         ンプットにする。
改善の効果は歯止めされなければなりません。歯止めとは坂道に
止まっている車両の車輪が動かないようにする木製、鉄製の道具
を言いますが、まさしく改善が元に戻らないようにする活動を意
味しています。

■ 効果の水平展開 ■
ここで言う「水平展開」は歯止めの前(あるいは並行して)に行
う活動です。改善を行った部署とは異なった部署、部門などに同
様なことを行うことを意味しています。当然のことですが、行っ
た改善がすべての部署、部門で同様な効果を発揮するわけではあ
りません。しかし、組織の中における改善が同じ組織の中であり
ながら他の部署、部門に展開されず、改善した部署だけで限定的
に行われているという例は多く見受けられます。

■ 改善の歯止め ■
水平展開したら歯止めです。坂道で車が動かないように車止めに
使う木製或いは鉄製の道具が歯止めですが、インターネットで自
動車部品のカタログを見るといろいろなタイプの歯止めが売られ
ています。
道具の「歯止め」に倣って、元に戻らないようにすることを改善
の歯止めと呼んでいます。具体的にいいますと、改善したことを
「見える化」することです。関係者に改善したことのやり方を周
知徹底させ,確実に実施できるようにするためには、関係者が忘
れないように、何らかの形で見える化すること、すなわち文書
(見える化)にしておくことが必要です。
文書にもいろいろなタイプがあり、絵であったり、チャート(管
理図、チェックシート)であったり、手順書であったりします。
さらにそれらの文書に基づいて関係者に教育・訓練することも忘
れてはなりません。歯止めがきちんとされないと,せっかく進め
てきた改善がそのときだけの活動になってしまうことになります。

■ ナラティブ内部監査シリーズも最後 ■
ナラティブ内部監査シリーズもこの46回をもって最後です。内部
監査の形骸化が叫ばれ、何とかしたいという企業の皆様のお声が
出始めて早20年にもなろうかと思います。パフォーマンス向上に
寄与できる内部監査にしたい、という多くの組織の皆様のご相談
に、できるだけ具体的に有効性が期待できる内部監査のやり方を
お伝えしてきたつもりです。
今後の課題は今まで述べてきたことを実践することにあります。
幸い昨年後半、ナラティブ内部監査を実践してみよう、事例を作
ってみようという私の呼び掛けに呼応していただいた11社の方々
と、今後具体的な実践活動をしていく予定となっています。
2022年6月頃には何らかの実践報告が出来るのではないかと思
います。
今後ともナラティブ内部監査にご興味を持っていただければ幸い
です。

■ 改めてナラティブとは ■
2022年の正月休みにハラリの「サピエンス全史」上下巻を読み
ました。世界で500万部売れてベストセラーとなっている本で、
皆さんの中にも既にお読みになった方もいらっしゃると思います。
3年前のNHK/BS放送の3人の識者対談で彼が発言中に「ナラ
ティブ」という言葉を3,4回使ったのですが、「ナラティブ内
部監査」と名付けた所以はこのハラリの発言にあったとは以前
お話した通りです。
その元になっているところを「サピエンス全史」上巻から引用
します。
「サピエンスが発明した想像上の現実の計り知れない多様性と、
そこから生じた行動パターンの多様性は、ともに私たちが<文化>
と呼ぶものの主要な構成要素だ。(略)認知革命以降(7万年
前)は、ホモ・サピエンスの発展を説明する主要な手段として歴
史的なナラティブが生物学の理論に取って代わる。」
少し難解ですが、次回から正月に読んだ本に触れたいと思います。