Author Archives: 良人平林

ナラティブ内部監査35 | 平林良人の『つなげるツボ』

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■□■ 平林良人の『つなげるツボ』Vol.331■□■
― つなげるツボ動画版はじめました ―
*** ナラティブ内部監査35***
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内部監査で発見された問題を解決することをお話ししています。
解決することの前に、問題とは何か?を前回お話ししました。組
織には様々な問題がありますが、意外と問題に気付かずに通り過
ぎていることも多いようです。問題を「問題として」認識するこ
とがまずは大事なことといえるでしょう。
そのような問題意識のもと、もう少し「問題」について考えてみ
たいと思います。

■ 原因が明確である問題 ■
問題には、原因が「明確である問題」と、原因が「明確でない問
題」があります。前者のみを問題とする考え方もありますが、ナ
ラティブ内部監査では後者も含めて問題としたいと思います。
前回掲げた問題(まったく思い付きで挙げた)を、1.原因が明
確である問題、2.原因が明確でない問題に区別してみます。
1・顧客から苦情を言われた。
 ・ローテイションに入っていた人が急に休んだ。
 ・サプライヤからモノが入ってこない。
 ・渋滞で時間通り荷物が来ない。
 ・機械の調子が悪い。
 ・防油堤から重油が漏れている。
これらは、結果を引き起こした原因がなんらか明確にできるグル
ープです。
ただ、原因は簡単に決定できる場合と簡単に決定できない場合と
があります。原因を簡単に決定できそうでない場合は、その原因
となる候補を抽出することが大切になり、そのたくさんある原因
候補を要因と言ったりします。

重要なことは、多く上げられた要因のなかから結果に大きく影響
を与えたものを特定することです。ナラティブ内部監査では、こ
の要因を検討し、分析して原因を決定していく活動を「新しい物
語」と位置づけています。

■ 原因が明確でない問題 ■
前回、原因が明確でない(明確にすることが難しい)とした問題
は次の3項目でした。
2・廊下の角で衝突した。
 ・売り上げが激減した。
 ・来年度の損益見込みがはっきりしない。
例えば、「売り上げが激少した」「来年度の損益見込みがはっき
りしない」などは、結果に関係する要因が多すぎて原因を特定し
ていくこと、すなわち明確にすることがなかなか出来ません。

「売り上げが激少した」ことに対応する要因は、もしかすると景
気循環の中にいつでもどこにでもある現象で、問題というより
「課題」と言った方が良いかもしれません。また、「来年度の損
益見込みがはっきりしない」なども前者の例よりなお「課題」と
しての性格が濃いでしょう。

2の中には課題とも言えない、しかし何か原因がありそうなもの
も含まれています。例えば「廊下の角で衝突した」は、偶然に出
会ったのは本当に偶然なのか、何かおかしい、そこには両者が何
らかの理由で全く同じ時間に、同じ場所にいた、何か原因がある
のではないかと感じる場合もあります。
そこで、それらを「3番目の問題グループ」としてみたいと思い
ます。

■ 3番目の問題グループ ■
「おかしい」、「なにか変」と感じることは日常の生活の中でも
時々あります。我々はこれらの感じたことをあまり追求せず、そ
のままにしておくことが多いのですが、実はその感じたことの中
には多くの宝が隠されています。宝とはおかしな表現かもしれま
せんが、改善するヒントという意味で宝と呼んでいます。その宝
は少し時間が経ってから現実化します。しかし、現実化したこと
と、少し前に自分自身が「おかしい」、「なにか変」と感じたこ
ととを結び付けることをしないのが毎日の生活です。

時には、「ああこれはあの時感じたことだ、どうしてあの時もっ
と考えなかったのだろう」と思ったり、反省したり、場合によっ
ては悔やんだりする場合があります。
ナラティブ内部監査では監査員と被監査者とが共同でこの「おか
しい」、「なにか変」と感じたことを一段掘り下げてみることを
提案しています。一段掘り下げていく過程を「新しい物語」とし
て作り出していくことを提案しています。

監査員と被監査者が協力して組織のパフォーマンスを上げるため
に新しい物語を作ることができれば、「マンネリ化」、「時間が
もったいない」などの内部監査に対する評価を変えていくことが
出来ます。
どのようにすれば新しい物語が作れるのかを次回お話ししたいと
思います。

ナラティブ内部監査34 | 平林良人の『つなげるツボ』

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■□■ 平林良人の『つなげるツボ』Vol.330■□■
― つなげるツボ動画版はじめました ―
*** ナラティブ内部監査34***
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ここまでナラティブ内部監査における5ステップのうち、内部監査員、
被監査者の共同作業の基盤作りに関するステップ3を述べてきました。
・第1ステップ : 今行っている内部監査をレビューする。
・第2ステップ : どのような内部監査を行いたいか、行うべきかを
         組織内でコンセンサスを得る。
・第3ステップ : 内部監査員、被監査者の共同作業の基盤を作る。
・第4ステップ : 発見された問題(不適合、観察事項、気づき事項)
         などを解決する。
・第5ステップ : 解決したことを水平展開、歯止めして改善する。
 さらに、改善したことを革新へのインプットにする。
今週からは、「第4ステップ:発見された問題(不適合、観察事項、
気づき事項)などを解決する」についてお話ししていきます。

■ 問題とは何か ■
ナラティブ内部監査では「新しい物語」を作ろうと考えています。新
しい物語とは今までの内部監査では語って来なかった物語のことを意
味しています。監査員と被監査者が協力して組織のパフォーマンスを
上げるために新しい物語を作ることを目的にしています。それでは、
どのようにすれば新しい物語が作れるのでしょうか。この“どのように
すれば”を工夫するのが、このステップ4「発見された問題(不適合、
観察事項、気づき事項)などを解決する」です。

ここには“発見した問題など”とありますが、問題とは何でしょうか?
まず問題の正体をはっきりさせる必要がありそうですが、一旦従来の
内部監査における「不適合、観察事項、気づき事項など」の枠を外し
て、「問題」について考えてみたいと思います。
まず、考えてみたいのは「問題とは何か」です。私たちが内部監査で
“これはおかしい”と感じたことは、多分問題にぶつかったのではない
かと思います。この第一印象は大切にしたいと思います。

■ いろいろな問題 ■
私たち職場には多くの問題があります。問題だらけの世界の中にいる
と言っても過言ではないと思います。 
・顧客から苦情を言われた。
・ローテイションに入っていた人が急に休んだ。
・サプライヤからモノが入ってこない。
・渋滞で時間通り荷物が来ない。
・機械の調子が悪い。
・防油堤から重油が漏れている。
・廊下の角で衝突した。
・売り上げが激少した。
・来年度の損益見込みがはっきりしない、 など。

問題の起きる領域は、マーケット、労務、調達、製造、環境、安全、
経営など現場から管理部門、経営者にいたるまで実にいろいろな職
域、すなわち全社にわたっていると言えます。領域がさまざまであ
るだけでなく問題の質もまたさまざまです。原因のはっきりしてい
るものがあると思えば、原因がはっきりしないものもあります。す
べての問題には対応すべきだと思われますが、処置の実施緩急度合
いがさまざまで、直ぐに手を打たなければならないもの、少し様子
を見ていても良いものなどいろいろです。さらに、人によっては、
本当にこれは問題なのか、と疑問を呈するものも混ざっていると言
っていいかもしれません。問題の定義によっては、これは問題では
ない、しかし課題ではあると言うかもしれません。

■ 問題を整理してみると ■
私たちは内部監査に限らず日々このような問題だらけの中で働いて
いるのですが、個人一人の視点から見るとそれほど多くの問題に直
面しているわけではないようです。

本当にそうでしょうか?
もしかすると問題の存在に気が付かないだけなのかもしれません。
ナラティブ内部監査では新しい物語を作ろうと考えています。新し
い物語とは今までの内部監査では見えてこなかった物語のことを意
味しています。監査員と被監査者が協力して組織のパフォーマンス
を上げるために新しい物語を作ることを目的にしています。それで
はどのようにすれば新しい物語が作れるのでしょうか。この“どのよ
うにすれば”を工夫することが、このステップ4「発見された問題
(不適合、観察事項、気づき事項)などを解決する」に課せられた
課題です。

ナラティブ内部監査33 | 平林良人の『つなげるツボ』

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■□■ 平林良人の『つなげるツボ』Vol.329■□■
― つなげるツボ動画版はじめました ―
*** ナラティブ内部監査33***
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ナラティブ内部監査において、内部監査員、被監査者の共同作業
の基盤作りは重要です。個人の観点からは、管理監督者である上
司にはしっかりマネジメントしてもらいたいという期待がありま
す。
マネジメントという管理のプロセスを遂行するには、一般に少な
くとも3つの分野の能力が必要であると、前回お話をしました。
それは専門能力、対人能力そして概念化能力の3つです。
これら3つはいずれも部下を管理する能力ですが、もう一つ領域
の違う観点である「自己を管理する能力」も大切なものです。

■ セルフマネジメント ■
自己を管理する能力、すなわちセルフマネジメントは、「欲求の
コントロール」と呼ばれることがあります。自身の内部から湧き
上がる欲求を管理することはマネジメント能力の一部として、管
理監督者は保有している必要があります。
「自己を管理する能力」とは次のようなものです。
(1)自尊欲求:部下より自分の方が仕事ができると思いたい/
 思われたい。
(2)統制欲求:部下を自分の思うように動かしたい。
(3)好かれたい欲求:誰からも良く思われたい。

■ 自尊欲求 ■
自尊心は人間を前に進めさせる原動力です。誰もが自尊心を持っ
ていますが、持ちすぎると前向きに進めることが思うようにいか
なかったり、かえってその反動に悩まされたり、その大きさに驚
くことがあります。
管理監督者にももちろん自尊心がありますし、なければエネルギ
ッシュに仕事を前に進めることはできません。部下の人々にも自
尊心はあり、それをうまく刺激して仕事が前に進むようにするこ
とが管理監督者の役割です。管理監督者は部下と競う必要はあり
ません。部下を前に進めさせるには部下が言われてではなく自分
の気持ちから進みたいと思わせることが大切です。管理監督者は
自分の自尊心はできるだけ内に秘めるようにしたいものです。
自尊欲求をセルフコントロールしましょう。

■ 統制欲求 ■
管理監督者は計画を進めるために、業務あるいはプロジェクトな
どを管理しなくてはなりません。業務あるいはプロジェクトが計
画しただけで進んでいくとしたら管理監督者は必要ありません。
日常業務も含めて組織が仕事を進めるうえでは、あらゆる出来事
を日々管理し、部下を適切な方向に導かねがなりません。
そこで必要となるものが管理監督者のマネジメント力です。この
力を統制力と思っている管理監督者が少なくありません。統制す
るために、毎日チェックばかりをする管理監督者を見かけます。
計画があって実行しているその状態をいつでも自分の手のひらに
乗せておかないと気が済まない方がいます。そのような管理監督
者の下にいる部下の方はいつもプレッシャーを感じることになり
ます。人は心がオープンなときに一番力を発揮します。したがっ
て、チェックばかりをすると自分から自分の首を絞めることにな
るのですが、それに気が付かない管理監督者の方が多くいます。
統制力は必要ですが、その力はなにもチェックだけに使う力では
ありません。
統制力に必要な力は、洞察力、分析力、改善力、コミュニケー
ション力などの他の力と連携して効果を発揮することを忘れては
なりません。

■ 好かれたい欲求 ■
誰でも人からは好かれたいと思っています。そんなことはない。
俺は俺の道を行くから人からどう思われようが関係ない、好かれ
たいなんていうのは弱い人の思いだ、と勇ましい言葉でブルドー
ザのごとくことを進めていく人もいます。
しかし、人から好かれたいという気持ちは生まれた時から人に備
わっている本能です。人は成長するにしたがって個々の環境によ
ってその生まれながらの資質が弱まったりしますが、まったくゼ
ロになる訳ではありません。
管理監督者にも当然人からは好かれたいという欲求はあります。
部下から好かれる人というイメージは大切にしたいものですが、
好かれることイコ―ル管理が甘いということではもちろんありま
せん。
好かれたい欲求をセルフコントロールすることも管理監督者に必
要な能力です。

ナラティブ内部監査32 | 平林良人の『つなげるツボ』

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■□■ 平林良人の『つなげるツボ』Vol.328■□■
― つなげるツボ動画版はじめました ―
*** ナラティブ内部監査32***
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ナラティブ内部監査の第3ステップ「内部監査員、被監査者の共
同作業の基盤を作る」のお話をしています。共同作業の基盤は両
者の間だけでなく組織全体に構築されるべきものである、という
観点から「個人と組織の共生」ということに話は及んでいます。
個人と組織の共生の話の中で、管理するプロセスには次の3つの
原則があるとお話ししました。
 (1)仕事はできるだけ移譲すること
 (2)指示系統を明確にすること
 (3)管理することには限界があること
管理監督者がこの3つの原則をベースに管理をするには、それな
りの能力が必要になります。

■ マネジメント能力 ■
マネジメントという管理のプロセスを遂行するには、一般に少な
くとも3つの分野の能力が必要と認められていて、それは専門能
力、対人能力そして概念化能力といわれる3つです。
専門的能力とは、特定業務の遂行に必要な知識、方法、技術、器
具を使用する能力で経験、教育、訓練を通して習得しうるもので
す。
対人的能力とは、部下とともに、もしくは部下を通して働く能力
と判断力で、動機づけの心理の理解とリーダーシップの効果的応
用能力をも含みます。
概念化能力とは、組織全体の複雑な構造を理解し、自ら職務活動
が全体活動のどこに、かつ、如何に組み込まれているかを理解す
る能力です。この理解を得ることによって、自分が直接所属する
集団の目標や必要のみならず、全体の組織の目標にむけて行動す
ることが可能になります。

■ 専門的能力 ■
この3つの能力の適正なミックスは、第一線監督職からトップ・
マネジメントへと昇るにつれて異なります。
組織内の管理レベルを、下から上へあがるにつれて、効果的管理
を行うための条件としての専門的能力の重要度は減る傾向にあり
ますが、概念化能力は、次第に重要度を増してきます。下のレベ
ルの管理監督者には、専門的能力がかなり重要とされますが、こ
れは管理監督する職場内の実務担当者や作業員を訓練し育成する
ことが、しばしば必要となるからです。他方、企業幹部には、実
務のそれぞれの特定作業について、これらをいかに遂行するかを
知る必要はありません。だが、組織全体の目標の達成にたいして、
それらの業務がどのように相関しているかは、理解できなければ
いけません。

■ 対人的能力 ■
これらのマネジメントの各レベルにおいて、それぞれ必要とされ
る専門的能力、および概念化能力の程度は異なりますが、すべて
のレベルにおいて共通項的に重要な能力は、対人的能力です。対
人的能力を重んずることは、過去においても大切と考えられてき
ましたが、今日ではこれは最も重要な能力と考えられています。
たとえば、偉大な企業家の一人であるジョン・D・ロックフェラー
は「この世のいかなる能力にもまして、人とつき合う能力を高く
買う」といっています。ロックフェラーのこの言葉に賛成する人
は世界に多くいます。
アメリカ経営協会の報告によれば、ある調査に回答した200人の
マネジャーの大部分が、経営幹部に重要な能力を一つ挙げるとす
れば、それは人とうまくやっていく能力である、と同意しました。
この調査において、マネジャーたちは、対人的能力を知力、決断
力、知識、職務能力のどれにもまして決定的であると評価したの
です。

しかし、管理監督者には全く異なる視点からの力が必要です、そ
れは自分を律する力で、セルフマネジメント(3つの欲求のコン
トロール)力です。次回は以下の3つの力について説明いたしま
す。
 (1)自尊欲求:部下より自分の方が仕事ができると思いたい/
  思われたい。
 (2)統制欲求:部下を自分の思うように動かしたい。
 (3)好かれたい欲求:誰からも良く思われたい。

ナラティブ内部監査31 | 平林良人の『つなげるツボ』

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■□■ 平林良人の『つなげるツボ』Vol.327■□■
― つなげるツボ動画版はじめました ―
*** ナラティブ内部監査31***
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前回は管理監督者の仕事は、計画/実行/チェック/フォローと
いうマネジメント・サイクル(PDCA)を回すことであり、この
プロセスは、管理監督者が一人で行なうのではなく、部下と共同
で行うことが要諦であるという話をしました。
個人と組織の共生の話の中で、このプロセスを遂行するには次の
原則があるともお話ししました。管理することの原則は3つある
として、
 (1) 仕事はできるだけ移譲すること
 (2) 指示系統を明確にすること
 (3) 管理することには限界があること
を取り上げました。

■ 仕事の委譲(Delegation of Authority) ■
管理監督者が部下に仕事を割り当てる状況を考えてみましょう。
管理監督者が部下に割り当てた仕事は、割り当てられた人が責任
をもって遂行することが原則ですが、責任だけでなく権限も委譲
しなければなりません。ここでいう権限の大きさは、仕事を達成
する上で必要となる責任までの大きさを意味します。
加えて、委譲する部下の能力は、移譲した(割り当てた)仕事の
責任の大きさと同じ大きさでなければならないと思います。
大切なことは、管理監督者の責任(結果責任を含む)は、当然の
ことですが、部下に委譲することはできません。

■ 指示系統の統一(Unity of Command) ■
管理監督者の部下、そして横の管理監督者の部下、すなわち組織
内のすべての人は自分が誰に仕事の報告をし、誰が自分に仕事の
指示をするのかを知っていなければなりません。そして、基本的
には各人が報告する上司はただ一人であるということも重要です
(On man One boss)。
組織が特別な事情より、ある人に2つの仕事を兼務するようにし
たため、その人には上司が2人いるという場合もありますが、そ
れは例外的な処置であり、できるだけ避けなければなりません。
重要なことは、一人ひとりは自分の職務(使命)をはっきり理解
していることと、その職務を遂行する能力をいつも向上させる努
力をしていることです。

■ 管理の限界(Span of Control) ■
管理監督者は、管理することには限界があることを知っているべ
きです、まず量的限界があります。スタッフの場合、一人の管理
監督者が効果的に指揮できる部下の数は、6~7人であると云われ
ています。勿論この数は多くの管理監督者の経験値からの話です
ので、実際はもっと大きな数でも管理できるという場合はあると
思いますが、重要なことは「限界がある」ということを常に意識
していることです。

逆に部下の数が少なすぎる(1~2人)と、監督過剰となり管理の
弊害が出てきますし、過保護になって部下が育たないという組織
全体の人的資源にダメージを与えることになります。さらに、管
理監督者と被管理監督者の間の物理的距離は管理の効果に影響す
ることも知っているべきでしょう。
例えば、同じ部屋にいる場合と別棟にいる場合を想定すると理解
できます。極端な場合、海外支店にいる部下の管理を考えると、
管理の有効性は相当減少すると考えなくてはなりません。
管理の限界には量的限界のほか、質的限界もあります。管理監督
者がどの程度専門能力を持っているべきかというと、これまた経
験的に言わざるを得ませんが、少なくとも上位管理監督者になる
ほど専門能力の保有必要性は薄まっていきます。管理監督者の能
力については次号でお話ししたいと思っています。

■ なぜ仕事は委譲されないのか ■
管理の3つの原則がどの程度日常の組織活動の中で適用されてい
るかというと、私の経験からは(私を含め)お寒い限りだと思い
ます。 
なぜ上司は部下に仕事を委譲しないのかを分析すると、以下のよ
うなことが言えそうです。
 (1) 意思決定権を保持することがポジションパワーを強くすると
  おもっている。
 (2) 部下が権限を下手に運用するかも知れないリスクに耐えたく
  ない。
 (3) 部下の能力に疑問を抱いている。自分でやった方が効率的に
  そして効果的に仕事を遂行できると思っている。

もしかすると、部下は面倒な仕事に巻き込まれたくないものだと
信じているかもしれません。また、部下が要領よく仕事を遂行し
てしまったら自分のポジションが危ないと考える上司が居るかも
しれません。
部下の立場からも仕事の委譲がされない要因が浮かんできます。
 (1) 仕事を委譲されるということは責任負担が増大するという
  ことだから。
 (2) せっかく委譲された権限を上手に使えなかったら、という
  心配がある。
 (3) 自信がない。プレッシャーが負担になる。
 (4) 仕事の知識、経験、及びその進め方の技能が欠けている。
 (5) 忙がしくて受けられない。

そうであるならば、管理監督者は仕事の委譲をする前に次のこと
を検討、配慮、実施すべきです。
 (1) 委譲する仕事の権限の範囲を可視化(明記)したものがある。
 (2) 権限を決める時部下を参加させる。
 (3) 与えた権限は責任の大きさと釣合っている。
 (4) 権限に伴って発生する責任をしっかり全うする気構えが部下
  にあるのかコミュニケーションする。
 (5) 与える権限について当該部下のみならず、その同僚にも周知
  する。