Author Archives: 良人平林

ナラティブ内部監査30 | 平林良人の『つなげるツボ』

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■□■ 平林良人の『つなげるツボ』Vol.326■□■
― つなげるツボ動画版はじめました ―
*** ナラティブ内部監査30***
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前回、目標による管理MBOを個人と組織の共生のツールとして
活用するという話をしました。
しかし、MBOは正しく理解して活用しないと思わぬ副作用を起こ
します。本来「管理」には2つの意味があります。一つは良い状
態に保つという意味です。もう一つは統制、監督という意味です。
私が思う「管理の正しい」理解は、この2つが組み合わさったも
のです。すなわち、「良い状態に保つために統制、監督をする」
ということです。ところが、組織によっては「良い状態に保つ」
という目的を忘れて、「統制、監督をする」ことだけに焦点を当
ててしまうことがよくあります。

■ MBOの弊害 ■
もし、MBOの活用が「良い状態に保つ」という目的を忘れて使
用されたとするとどんなこが起きるでしょうか。1980年代ころに
成果主義という考え方が社会に広まりました。年功序列による評
価に代わって、成果を上げた人がよりよい評価を受けるという考
え方です。
これはこれで間違った考えではないと思うのですが、当時の経済
雑誌には、成果主義が株式会社〇〇の文化を壊したという記事が
多く掲載されました。
成果主義を標榜する組織の多くは、MBOを導入しました。「良
い状態に保つ」という目的が横に置かれた結果、MBOはノルマ
の達成、締め付けのツールとして使われていったという苦い経験
が産業界にはあります。

■ 管理者の役割 ■
管理者とは、部下と共に、あるいは部下を通して仕事を成し遂げ
る立場にある者のことをいいます。仕事を部下に委譲し、部下に
業績をあげさせますが、部下の仕事の結果が悪くも責任を取らね
ばならない存在です。
管理者はいろいろな視点から位置づけがされますが、まず組織に
おける「情報の流れ」の中核にいる存在です。
組織全体の目的は、組織の使命から導き出された経営方針に基づ
き、その年の期初に社長から事業計画書として発表されます。そ
の情報を自部門の目標に置き換え、どのように目標を達成するの
かの計画及び手段を考えます。自部門の目標と他部門の目標の整
合化、統合化も管理者には重要な仕事になります。
2つ目は、組織の階層と部門についての理解と、その認識に基づ
き計画を実行することです。
3つ目は、実行したことをチェックすることですが、その際に気
を付けなければならないことは、上司と関係部門との間の連携です。
4つ目はチェックしたことのフォローです。

■ 管理者が身に着けるべきこと ■
管理の仕事は、計画/実行/チェック/フォローというマネジメ
ント・サイクルを回すことです。このプロセスは、管理者が一人
で行なうのではなく、部下と共同で行うことが要諦です。
まず、計画ですが、計画に必要なものはまず「目標」です。何を
するにも、行う先に何があるのか、何を達成すべきなのかが明確
になっていなければなりません。そして、目標を達成するための
手段も同時に計画されていることが必要です。手段には、道具、
機械、設備、場所の計画、その他経営資源の見通し、障害予見と
対応策の計画、そして手段・方法に沿った日程の設定も必要でし
ょう。

次に実行ですが、直ぐに実行するわけにはいきません。計画に基
づいた準備の実施が必要です。準備には次のことがあります。
― 要員の選定/配置と役割分担
― 物・金の配置/維持
― 物流ルートの確立 
そして実行に入りますが、その際に気を付ける項目には次のよう
なことがあります。
― 動機づけ
― 仕事の指導
― コーチング/メンタリング

■ 実行したらチェックとフォローが必要 ■
実行出来たらその都度することになります、計画時にチェックす
るポイント(時期)を決めておくとよいと思います。
計画と対比して目標通りできているか確認をします。その際、結
果のチェックだけでなく、プロセスのチェックもします。つまり
結果だけでなく、やり方の確認もする必要があるということです。
さらに、場合によっては実施したことによる副作用についても確
認が必要です。品質は良くなったが、廃棄物が増えたというよう
なことが往々にしてあるからです。
最後は、フォローです。例えば、測定した結果副作用が大きけれ
ばそれに対して手を打ちます。もし、目標が計画通り達成できて
今後も維持していくということになれば歯止めをする、すなわち
標準書にするということも行う必要があります。
このプロセスを遂行する際には次の原則があります。
仕事はできるだけ移譲すること、指示系統を明確にすること、管
理することには限界があること、の3つをとりあえず上げておき
たいと思いますが、それは次号でお伝えします。平林良人の『つなげるツボ』Vol.325

ナラティブ内部監査29 | 平林良人の『つなげるツボ』

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■□■ 平林良人の『つなげるツボ』Vol.325■□■
― つなげるツボ動画版はじめました ―
*** ナラティブ内部監査29***
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312号からこれまで、第3ステップについて、下記1~5までの説明
をしてきました。
1.コミュニケーション
2.自己理解
3.他者理解
4.よく聴く
5.よく伝える(アサーション)
6.個人と組織の共生

前回からは「6.個人と組織の共生」について、話をしています。前
回組織と個人が共通の目標を持つことで個人と組織の共生が進むと、
いう中でMBOについて触れました。MBOを活用して個人と組織の
共生を推進するポイントについて話を続けていきたいと思います。

■ 個人にとってのMBOの意義 ■
個人と組織の共生に向けて、個人からみてのMBOの意義には次のよ
うなものがあります。
(1) 自分の役割を明確に把握できる。
 組織の中にいて自分の居場所に居心地の悪いことがありますが、目
 標が明確になることで自分の役割を明確にすることが出来ます。
(2) 働き甲斐が感じられる。
 目標を明確にして、マイルストーン(区切り、ステップ)ごとに結
 果が明確になることで、個人の貢献度合いがはっきりして、働き甲
 斐が感じることができる。
(3) 自分のやっていることに自信がもてる。
 結果が見えることで、良くも悪くも個人が結果を把握することが出
 来、結果ではなく行ったことに自信を持つことが出来るようになる。
(4) 上司の期待がわかっているので、安心感がもてる。
 上司の考えていることが見えないと不安になるが、共通の目標が見
 えることで仕事への取り組みに安心感が生まれる。
(5) 仕事の段取りがつけやすい。
 目標への取り組みの手順が明確になり仕事に無駄をなくすことがで
 きる。
(6) 参画感がもてる。
 共通の目標に自分も参加しているという気持ちが高まる。
(7) 自分の考えが活かせる。
 目標、手段の共有化があることで実践段階での自分の進め方に自信
 を持つことが出来る。
(8) 自己啓発の手がかりが得られる。
 仕事を進める過程で自己啓発のチャンスを見つけられる。

■ 組織にとってのMBOの意義 ■
個人と組織の共生に向けて、組織からみてのMBOの意義には次のよ
うなものがあります。
・部下がやっていることに確信がもて、部下に期待を寄せられる。
・権限委譲がしやすくなる。
・仕事の予定が立てやすくなる。
・仕事に共通理解が生れる。
・上司への報告がしやすくなる。
・仕事ぶりの判定や業績評価がしやすくなる。
・部下育成の手がかりがつかめる。
・部下をモティベートできる。
・仕事の改善のポイントがつかみやすくなる。
・仕事の結果がまとめやすくなる。
・自己および組織の目標を明らかにできる。

■ 社会から見たメリット ■
個人と組織が(MBOを活用してもしなくても)お互いの共生を図る
ことができると、社会から見て次のようなメリットがあります。
・社会のリソースが有効に活用される。
・社会の労働生産性を上げることが出来る。
・日本の国際競争力が上がる。

日本社会の話になりますと、因みに、日本の世界競争力ランキングは
2020年世界で63カ国(先進国)中34位です。そして、先進国では
一番物価の安い国になりました。
https://www.mri.co.jp/knowledge/insight/20201008.html

IMD(International Institute for Management Development:国際
経営開発研究所)は毎年先進国競争力年鑑を作成し、三菱総研が翻
訳してHPに発表しています。1989年から4年間世界1であった
日本が、この30年に間に34位にまでランキングを落としています。
ランキングのもとになるデータは、各国の政府が公表する統計と、
対象国の企業経営層によるアンケートになっています。データは、
四つの大分類、「経済状況」、「政府の効率性」、「ビジネスの効
率性」、「インフラ」からなり、さらに20の再分類に分かれてい
ます。
<三菱総研HPより>
日本の総合順位の変遷を見ると、同年鑑の公表が開始された1989年
からバブル期終焉(しゅうえん)後の1992年まで1位を維持し、
1996年までは5位以内の高い順位を維持した。しかし、金融システ
ム不安が表面化した1997年に17位に急落し、その後は一時的に上
昇する年はあったものの、基本的には20位台の中盤前後で推移した。
その後、2019年には30位となり、最新版の2020年では過去最低の
34位まで落ち込んだ。

ナラティブ内部監査28 | 平林良人の『つなげるツボ』

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■□■ 平林良人の『つなげるツボ』Vol.324■□■
― つなげるツボ動画版はじめました ―
*** ナラティブ内部監査28***
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ナラティブ内部監査実践のための第3ステップ「内部監査員、被
監査者の共同作業の基盤を作る」について話を進めています。
第3ステップは下記1~6に分けて5までの説明をしてきました。
1.コミュニケーション
2.自己理解
3.他者理解
4.よく聴く
5.よく伝える(アサーション)
6.個人と組織の共生

■ 6.個人と組織の共生  ■
今回から6.個人と組織の共生についてお話をしたいと思います。
元モービル石油の取締役人事部長で「個人と組織の共生」という
著作を表わした横山哲夫先生(故人)は、人生の仕事には2種類
ある、一つは報酬を伴うJOBであり、もう一つは報酬を伴わな
いWORKである、と述べています。
しかし、自営業の方も含め多くの人は、人生の大半を何らかの組
織で過ごしていると思います。そうであるからには、個人が組織
においてどのように時間を使い、どのような成果を上げ、どんな
満足感を得ることができ、どんな達成感を感じていけるかは、個
人にとって極めて重要なことです。
また、組織にとってみても、個人がいかに組織の目標に向けての
成果に貢献してくれるのかについては、これまた極めて重要なこ
とです。
つまり、個人と組織の双方にとってそれぞれの目標を達成するこ
とは重要なことのわけですが、では、それぞれの目標を同じもの
にすることはできるのでしょうか。

■ 目標とは何かを考える  ■
前の段落で述べましたが、人生には報酬を伴うJOBという仕事
があり、もう一つ報酬を伴わないWORKという仕事があります。
前者には報酬を得るという条件がありますので、組織が個人の目
標をそのまま受け入れるとは限らず、多くの場合自分の目標とは
異なることを行うことになるでしょう。後者のWORKの目標は、
個人が自分の人生において行いたいことですから、自身が思うよ
うに目標を決めることが出来ます。

目標とはあることを成したいときに作成する計画の中に織り込ま
れるものです。例えば、我が家を建てたいとします。ただ我が家
を建てたいと願っていても家は建ちません。願望を具体化するに
は、計画を作成する必要があります。この計画の中に目標が出て
きます。いわゆる5W1Hに沿って考えると良いと思います。

■ 我が家を建てる5W1H  ■
5W1Hは人がコミュニケーショをとるときに話を分かり易くす
るツールとして広く使われていますが、計画を作る際にも有効
です。
早速「我が家を建てる」5W1Hを考えてみましょう。
 ・When(いつ) :2022年中
 ・Where(どこ) :川崎市内
 ・Who(だれ) : 自分
 ・What(なに)  :一戸建ての家
 ・How(どのように):住宅メーカに依頼
 ・Why(なぜ)  :家族が増え手狭になった
「目標とはあることを成したいときに作成する計画の中に織り込
まれるもの」と前項で言いましたが、この例では、「When(い
つ):2022年中」と「Where(どこ):川崎市内」及び「What
(なにを):一戸建ての家」が目標になると思います。では
「Who(だれが):自分」とか「How(どのように):住宅メー
カに依頼」は、目標ではなく何になるのでしょうか。
これらは、目標を達成するための手段、方法だと思います。すな
わち、目標を掲げるときにはその達成手段も一緒に考えられるこ
とが必要だということです。

■ 目標による管理  ■
皆さんも聞いたことがあると思いますが、MBOという経営の
ツールがあります。正式には、Management by Objectives(目
標による管理)と言われ、組織における上司と部下が協力して
共通の目標を明らかにし、その期待される成果に対するそれぞ
れの責任領域を明らかにするためのツールです。JOBにおけ
る個人の目標は、組織の目標と必ずしも同じにならないと言い
ましたが、このツールを活用して、共通の業務目標を作ります。
そして、この目標を基準にして業務を遂行し、各人の業績評価
の指針に活用するというものです。

■ 目標による管理の狙い  ■
MBOのおける組織の狙いには、次の3つがあります。
(1) 個人の毎日の仕事を目標に向かって正しく方向づけること。
 単に目標を上司と部下とで話し合って決めるだけでなく、
 どのようにして目標を達成させるのかについても話し合う
 ことが大切である。
 目標は個人の毎日の仕事にまで分解されることも必要である。
(2) 個人に組織目標達成のために「ベストをつくしたい」という
 気持ちを起こさせること。
 個人が組織の目標を正しく理解し、インセンティブなどの組
 織サポートがあると、個人に強いmotivationを与えることが
 出来る。
(3) 目標達成活動を通じて個人の能力を育成し、組織を活性化す
 ること。
 次の目標に向けて個人の能力向上のキャリアウランを作成す
 ることも推奨される。

ナラティブ内部監査27 | 平林良人の『つなげるツボ』

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■□■ 平林良人の『つなげるツボ』Vol.323 ■□■
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*** ナラティブ内部監査27 ***
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ナラティブ内部監査実践のための5ステップ(下記)のうち、
第3ステップについて話を進めています。
・第1ステップ : 今行っている内部監査をレビューする。
・第2ステップ : どのような内部監査を行いたいか、行うべき
         かを組織内でコンセンサスを得る。
・第3ステップ : 内部監査員、被監査者の共同作業の基盤を作る。
・第4ステップ : 発見された課題(不適合、観察事項、気づき
         事項)などを問題解決する。
・第5ステップ : 問題解決したことを水平展開、歯止めして改善
         する。さらに、改善したことを革新へのインプ
         ットにする。

■ 第3ステップの共同作業の要素 ■
これまで、第3ステップについて、下記1~4までの説明をしてき
ました。
1.コミュニケー ション
2.自己理解
3.他者理解
4.よく聴く
5.よく伝える(アサーション)
6.個人と組織の共生

今回は、5.よく伝える(アサーション)について、話をしたい
と思います。前回「よく聴く」の要素の一つに、自己一致がある
と話しましたが、よく伝えるにもこの「自己一致」が一つのポイ
ントになると思います。「4.よく聴く」と「5.よく伝える」
の双方に関係する「自己一致」は会話において重要な要素である
ということが言えると思います。

■ よく伝える一歩は分かりやすく ■
よく伝えることの要諦は、まず分かりやすい、理解しやすいとい
うことです。自分の言いたいことが相手に伝わったか、伝わらな
かったかを考えるに当たって、反対の立場になって考えてみます。
もし、早口で、日常使われない言葉で、筋の通らない話を聞かさ
れたらどんな感じになるかを想定してみてください。当然「何を
言っているのか分からない」ということになると思います。
従ってよく伝えることの原則にはまず次の3つがあると思います。
もちろん、これ以外にもあると思います。
(1) 話すスピードを適切にする(早くもなく、遅くもなく)。
  勿論声の大きさも大切である。
(2) お互いに意味の通じる用語を使う。
  もし、専門用語などをどうしても使わなければならない場
  合は、意味を説明し、相手が納得してから使うとよい。
(3) 話の要点を纏めて話をする。特に何が要因でその結果何が
  起きたという因果関係を意識して話しをすると伝わりやすい。

■ 「アサーション」 ■
自分のことをうまく伝えるには「アサーション」ということを意識
すると良いと言われています。Assertionとは、辞書を引くと、
「自己主張,自分の意見をはっきり述べること」と出てきますが、
「アサーション」はより良い人間関係を構築するための「コミュニ
ケーションスキルの一つ」である、と言われています。
アサーションは、「人は誰でも自分の意見や要求を表明する権利が
ある」ということに基づく適切な自己主張のことです。自己主張す
ると伝わらないばかりか、逆に相手を刺激して伝わるものも伝わら
ないという方もいると思います。
ここでの要点は「適切な自己主張」です。ここで「適切な」とある
ことがポイントです。ただの自己主張とは違います。ただの自己主
張とは次のようなものです。
・ファクト(Fact)に基づかない。 
・感情が入っている。
 -競争心
 -功利心
 -嫉妬心
 -名誉欲
・論理的でない。

「適切な自己主張」は上のような要素を排除して、自身の主張を明
確に述べることです。明確に主張を述べないと、相手にはよく伝わ
りません。一方的に自分の意見を押し付けるのでも、我慢するので
もなく、お互いを尊重しながら率直に自己表現ができるようになる
には、それなりのトレーニングが必要です。

ナラティブ内部監査26 | 平林良人の『つなげるツボ』

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■□■ 平林良人の『つなげるツボ』Vol.322 ■□■
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*** ナラティブ内部監査26 ***
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前回から「4.よく聴く」についてお話をしています。
ナラティブ内部監査で活用すべき傾聴の手法の一つに、内部監査
員と被監査者の両者が信頼関係を築く一つの方法としてラポール
の形成があります。ラポールを形成するには、内部監査員と被監
査者の相方が積極的に聴くという意識を持ち、実践することが大
切です。誰でも相手が自分の話に身を乗り出して聴いてくれれば
うれしい気持ちになるものです。

■ 積極的傾聴の3つの条件 ■
傾聴という言葉があります。ここに用いられている「聴」という
字の意味は前回説明させていただきました。門構えの「聞」と違
って、「聴」は大変エネルギーのいる行動であり、積極的に相手
の言わんとする所を把握することがポイントです。しかし、積極
的に傾聴するには、相手のことを理解するだけでなく、自分自身
のことも理解し相手の方に混乱を与えないことも必要な要素です。
積極的な傾聴には、自分自身のことも含めて次の3つのコツがあ
ります。それは、受容的態度、共感的理解、そして自己一致です。

(1)受容的態度
受容とは、相手の話に評価や解釈や判断を加えずに、ありのまま
受け入れるということです。たとえ、相手の話が間違っていよう
と、自分の考えと異なっていようと、あるいはまどろっこしい話
だろうと、いったんそのまま受け取るということです。話し合い
とはピンポンのようなものですが、相手が打ってきたボールが右
にこようが、左にこようが、真ん中にこようが、受容的態度では
そのまま打ち返します。東京オリンピックで見たように右にそれ
るように、左にそれるようには打ち返しません。相手の打ってき
た玉が自分にとっては好ましくなく受け取りたくない玉なので打
ち返さないということはしません。失敗してもいいですから、そ
のまま受け取って打ち返します。できればどんな球が来ても受け
取れるスキルを持っていることがいいのですが、傾聴のスキルが
向上しないとなかなかそのまま受け取ることは難しいものです。
しかし、できるだけ受け取るように努力をします。受容は自分自
身にも当てはまることで、自分自身をありのまま受け入れること
を「自己受容」といいますが、自己受容ができていなければ相手
を受容することも難しくなります。

(2)共感的理解
共感的理解とは、相手の話を自分の思考の仕組みで理解するので
はなく、相手の思考の仕組みで理解することです。人間は誰でも
その人なりの思考回路と仕組みを持っています。それは、その人
の価値基準であったり、人生観であったり、キャリア観であった
り、人間観であったり、経験であったり、さまざまです。それら
は1人ひとり異なります。それがその人の個性であり、多様性で
もあります。話し手は、自分の思考回路で判断したこと、あるい
は感じたことを話します。したがって、相手の気持ちや考えを正
確に理解するということは、相手の思考回路でその気持ちや考え
を理解するということであり、それができなければ、相手のこと
を正しく理解することはできません。
その際、パラフレージングは、相手の思考回路を確認するうえで、
すなわち共感的に理解する上で効果を発揮します。しかし、その
ためには受容が前提になります。相手の思考回路を受け入れるこ
とができなければ、共感的に理解することはできないからです。

(3)自己―致
自己一致とは、自分に対して誠実であることです。自己不一致の
場合を考えてみると理解しやすいので、自己不一致の例をあげて
みます。誰かに同意を求められたときに、嫌な顔をしながら「い
いですよ」と言っているような場合を自己不一致といいます。こ
の場合、自分の気持ちと言動がー致していないところに注目しま
す。人との話し合いにおいて、自分の気持ちに対して不誠実な言
動をとってしまうと、その時の話題によりますが相手は論理と言
動の不一意な話に混乱をきたす場合があります。表情や態度と言
動がまったく逆のメッセージを送ることは、自己不一致と言って
相手を混乱させます。本当に言いたいことを言っていないという
場合も自己不一致です。
受容、共感的理解、自己一致はそれぞれが別物ではなく、お互い
がつながっており、関連しています。この3つが自分の中で統合
されていると、話し合いにおける相互理解が進むことになります。